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脳の病気のせいで性格が「親切になりすぎちゃった」男の話


脳の病気で性格が激変した男性」のケーススタディ(1)が2014年ごろに話題になってて、読んでみたら確かにおもしろかったのでメモしときます。






これは、ブラジルに住む49歳のAさん(男性)に起きた症例のレポートでして、もともとのAさんは物静かな人見知りで、友人は2〜3人ほどしかおらず、おもな会話の相手は家族だけだったらしい。


ところがある日、急激な脳卒中に襲われたAさんは、脳の皮質下領域を完全に損傷。身体機能などには影響が出なかったものの、なぜか異常に親切な性格になっちゃったらしい。


とにかく他人に物をあげたくてたまらなくなったらしく、奥さんの証言によれば、道ばたで見かけた知らない少年たちをつかまえては無差別にお菓子をくばりまくり、あらゆる慈善事業に金を振り込みまくったらしい。


ほどなく貯金はなくなり、家計も借金だらけになったにも関わらず、本人は「人生は短いから」と奥さんの非難もガン無視。やがて仕事にも行かずに金をくばるようになったというから、家族はたまったもんじゃありませんな。


この状態を、医師たちは「病的な気前よさ」と呼んでまして、意外と少なくない症例なんだそうな。2013年にユトレヒト大学が行った実験(2)によれば、扁桃体(脳の感情をコントロールするエリア)にダメージを受けた患者は、他人への信頼度が3倍も高く、簡単にお金をあずけてしまう傾向があったんだとか。


ほかにも、脳の損傷で気前がよくなった人の特徴しては、

  • 環境の変化に敏感だが、そこから恐怖や不安などを感じない
  • 失敗から学ぼうとする気がないため、貯金が尽きても気にしない
  • 衝動をおさえることができないので、思いついた瞬間にお金をあげてしまう


といった感じ。ちなみに上記のAさんの症状はいまもおさまらず、「わたしは死を間近で見た!もっと高次な精神を得たいんだ!」と、完全にスピリチュアルな方向に暴走しているみたい。


と、ここで思い出したのがジル・ボルト・テイラーの「奇跡の脳」っていう超おもしろい本。やはり脳卒中に襲われた著者が、倒れた直後から「宇宙との一体感」とか「魂の波動」としか言いようのない体験をしたというですな。


ただし、テイラーさんはバリバリの脳科学者なんで、そのへんのスピリチュアル体験を冷静に見つつ、脳卒中の特性を活かして以前よりバランスの取れた人格に変わっていくのがおもしろいところ。こういった話を読むと、スピリチュアル系の人が言う体験って、脳の衝動コントロール機能が弱っただけの状態なんじゃね?とか思ってしまうわけであります。


実際、初期仏教や禅の世界でも「瞑想してりゃ誰でも至高体験はできる」ってスタンスでして、そのうえで「至高体験とかにとらわれず観察を続けるのが大事」という主張になっております。誰の脳にもスピリチュアルっぽい方向へ向かう機能がついてるんだけど、あくまでそこが目的ではないんだ、と。


ちなみに、ジル・ボルト・テイラーさんの体験については、「瞑想ビギナーにおすすめしたいTED動画3本」でも動画を紹介してますんで、あわせてご参照くだされば幸いです。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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