メンタルが沈みっぱなしの人に効くかもしれない乳酸菌の話
「サプリで鬱が完全に治ったよ!」って論文(1)がおもしろかったんでご紹介。まだマウス実験の段階なんですが、なかなか興味深い内容になっております。
これはヴァージニア大学の実験で、「プロバイオティクスで気分は良くなるか?」ってのがテーマ。当ブログではおなじみな腸内細菌のサプリですね。
マウスにストレスを与えて鬱にさせた
実験の方法はちょっとかわいそうなデザインでして、
- マウスをいじめる(毎日1時間の轟音を聞かせたり、ストロボ光を当て続けたりとか)
- 半分のマウスに腸内細菌をあたえる
って感じです。マウスにわざとストレスを与えて、鬱状態にしたわけですな。
というと「動物のメンタルなんてわかるの?」と思っちゃいますが、大きなストレスにさいなまれたマウスは、遊び場でもじっとしてたり、緊急時でもダラーっとしてたりとか、人間の鬱と同じような症状を示すもんなんですよね。こういった外側の行動を見て、「たぶんこのマウスは鬱なんだろうなー」と推測してるわけです。
乳酸菌でマウスの行動が完全に回復
で、マウスたちにどんな変化が出たかというと、
- 鬱マウスはみんな乳酸菌が激減していた
- ところが、乳酸菌を飲んだら鬱行動がスカッと消えた
って感じです。腸内細菌と鬱の関係はよく言われてたことなんですが、ここでおもしろいのは「なんでプロバイオティクスが効くの?」ってのがちょっと明確になったとこでしょうね。
鬱の原因はキヌレニンじゃないの?問題
というのも、ストレスで乳酸菌が減ったマウスはみんな、血中の「キヌレニン」って物質が増えてたんですよ。こいつはトリプトファンってアミノ酸から作られる物質で、昔からキヌレニンが増えるとメンタルがやられるんじゃない?って仮説があったんですよ。キヌレニンは脳の記憶とか学習に関わる神経の働きを乱す作用があるんですな。
また、トリプトファンといえば「あれ?セロトニンの材料じゃないの?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。その通り、トリプトファンは俗に「幸福ホルモン」とも呼ばれるセロトニンの原料になるので、睡眠の専門家が「ぐっすり眠るためのサプリ」にも選んでたりします。
が、いっぽうでトリプトファンからはキヌレニンも作られるんで、いつもセロトニンと材料の取り合いになってるんですよ。つまり、キヌレニンが増えるとセロトニンは減るし、キヌレニンが減ればセロトニンは増えるという次第。
なぜキヌレニンは増えるのか?
では、一般的になんでキヌレニンが増えるかと言いますと、
- ストレス:今回のマウス実験みたいに、ストレスが増えると脳が炎症を起こしてキヌレニン経路が活性化することがわかっている。
- 肥満:体脂肪が増えると炎症性の物質が分泌されて、やっぱりキヌレニンが増加する。
- 睡眠不足:夜にちゃんと眠れないと炎症物質が増えてキヌレニンが増える。
- 腸内環境の悪化:腸内の善玉菌が死んで悪い菌が増えると、全身に炎症が起きてやっぱりキヌレニンが増える。
といったあたりがわかってたりします。今回の実験でマウスの鬱行動が治ったのも、ストレスでいったん善玉菌が死んじゃったのをサプリメントでリバースしたからじゃないかと思われるわけっすね。
結局は炎症が悪いといういつもの結論
さて、以上の話を見ればおわかりのように、キヌレニンが増える原因を一言でまとめると、
- 体内の炎症が悪い!
ってことになります。肥満もストレスも腸内環境も、みんなつまるところは体内の炎症に結びついていて、キヌレニンを経由してメンタルを悪化させてるのではないか、と。以前にも「うつ病の克服には「炎症対策」が必須」みたいな話を書きましたけど、このマウス実験で、より細かい経路がわかった感じですかねー。
研究者いわく、
この実験には大きな希望がある。腸内細菌を整えるのには副作用がないし、複雑なクスリも必要ないからだ。
とのこと。当然ながら、これはまだマウス実験の段階なんで、果たして人間でも同じようなキヌレニン対策ができるかはよくわからんところです。もし試してみたいという方がいれば、実験で使われたロイテリ菌を使ってみてはどうかと思われます。ロイテリ菌に関しては、近ごろはアレルギー対策の可能性も指摘されてるんで、試す価値はありそう。
まぁキヌレニン仮説が正しい場合は、体内の炎症を抑えるのがベストの対策になるはずなんで、まずは「老化の最大ポイント「炎症」を極限まで抑えるためのガイドライン」をお守りいただくのが先かとは思いますが。