「楽しいから笑うのではない!笑うから楽しくなるのだ!」はどこまで正しいのか?」という問題
「楽しいから笑うのではない!笑うから楽しくなるのだ!」みたいな考え方がありますわな。俗に「表情フィードバック」と呼ばれる仮説で、別に楽しくないときでも無理やり笑顔を作ればどうにかなるんだ!という話で、1970年代から存在する非常に有名な仮説ですね。
が、実は近年では「それって本当なの?」と言われることが多くなってるのがおもしろいところ。このブログでも「悲しいときは無理やりにでも笑おう!が実験で否定される」なんて話を紹介したように、最近は効果が再現できないケースが増えてきたんですよ。
ってことで、近ごろ「作り笑顔でポジティブになれるのか?」問題をガッツリ調べた研究(R)が出まして、精度が高めな結論を出してくれております。
これはテネシー大学などの論文で、過去に出た「表情フィードバック」研究から信頼性が高めの138件を抜き出してメタ分析したもの。最後に「表情フィードバック」のメタ分析が行われたのは30年も前の話なんで、まことにありがたい話ですねぇ。
で、まずはざっくりした結論から言っちゃいますと、
- 無理やり笑顔を作れば、確かに楽しい気分にはなる。でも、その効果はかなーり小さい
みたいになってます。簡単に数値をあげておくと、
- 全体的な効果量はd=0.20で、外れ値を調整するとd = 0.19になる。さらに、出版されなかったデータもくわえるとd = 0.15にまで下がる
- 効果の個人差は相当にデカい(I2 = 75.41)
といったところです。この結果から「無理やり笑えば幸せになれる!」みたいなヘッドラインを作ることもできるんだけど、個人的には「うーん、現実には使いものにならないかも……」ぐらいの印象ですかね。なんらかの変化はあるものの、日常のライフハックとして使うには心もとないと言いますか。
ちなみに、もともとの感情によっても「表情フィードバック」の効果は変わってきまして、
- 悲しみ d = 0.30
- 怒り d = 0.53
- 恐怖 d = 0.13
といった感じになってます。もしかしたらアンガーマネージメントには多少の効果があるのかもですが、やっぱ感情のコントロールに表情フィードバックを使うのは無理筋かなーって気がしますね。
もっとも、表情フィードバックに近い話で言いますと、過去には「ボトックスがうつ病に効く」っていう信頼性の高いデータも出てるのがおもしろいところです。これは、ボトックスのせいで不機嫌な表情が作れないせいで脳が「自分はいま落ち込んでないのだ」と勘違いするのが原因みたいなんですな。
その点で、ボトックスぐらい強力に表情をコントロールできれば、メンタルも変えられるのかも?って気もしておりますが。