2021年4月に読んでおもしろかった6冊の本
月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2021年4月版でーす。 今月に趣味で読んだ本は22冊ありまして、なかでもおもしろかったのが以下の6冊でした。
THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術
「インビジブル・インフルエンス」で有名なジョーナ・バーガーさんの新刊。タイトルどおり「説得と伝達の心理学」に特化した内容で、おそらくこの手の本に慣れてる人なら目新しい話はないはず(「認知的不協和」とかね)。が、今作は他者の心理を動かすテクがうまく体系化されてて、リファレンス本として使うのにいい感じでした。
バーガーさんの本は良くも悪くもポップで、そこに好き嫌いが別れると思うんですが、本作は良い方向に働いてるんじゃないでしょうか。
人は簡単には騙されない: 嘘と信用の認知科学
「人間はバイアスまみれの生き物だ!」って本が多い昨今(「科学的な適職」もそうですな)において、その向こうを張る一冊になっております。といっても、人間にバイアスがないって話ではなく、
- 人間には騙されやすい場面と騙されにくい場面がある
- 人間は「こいつは疑わしい」と思っても、とりあえず騙されたのと同じふるまいをすることも多い
という考え方をていねいに切り分けた内容っすね。シンプルな二択ではなく、人間の複雑な反応を掘り下げたナイスな本ではないかと。
知の果てへの旅
「素数の音楽」や「シンメトリーの地図帳」で名高いマーカス デュ・ソートイさんの2018年作。数学の本が多い著者さんですが、本作は「いまんとこ科学は何がわからないのか? 全てを理解することは可能なのか?」ってあたりを丁寧に詰めた内容になっております。
って、時間とか意識の問題まで扱ってるので、当然ながらこれといった結論は出ないんですけど、「そもそも今の科学が何を問題にしてるのか?」を知れるのがありがたいんですよねぇ。
怒羅権と私 ~創設期メンバーの怒りと悲しみの半生
関東連合と並ぶ有名半グレ集団「怒羅権」の創設メンバーによる自叙伝。「人を刺すのは血を見せて戦意を失わせるため」「ヤクザの腕を切り落とした」とか、すごすぎるエピソードが1ページ単位でさらっと描かれてて、ビビりながらも笑ってしまいました。500ページぐらいは書けそうな体験を200ページちょいにまとめてて、濃度がえらいことになってます。
もちろん、その根っこには差別と贖罪の歴史が横たわってて、読後感の重さもすごいんですが。
持ってこなかった男
著者の吉田靖直さんをまったく知らないまま、やたら評判が良かったので読んでみた本。通常、自分の知らないバンドの知らないボーカルの半生を描く自伝エッセイと言われても、ファン以外は楽しめないもんですが、これがバツグンにおもしろくて驚きました。
吉田さんをひこととで言えば「自意識オバケ」で、とにかく自分の無才を嘆きまくり、学校の一軍に嫉妬を抱き、かと思えば自信過剰になりといった感情のコースターをくり返すんですよ。ただ、この自意識のあり方は大なり小なりすべての人間が抱いたことがあるはずで、読み進むうちに自分の恥ずかしい過去の記憶がよみがえって、のたうちまわる人は少なくないはず(私もそうでした)。
「自分には才能がない!(または、ある!)」と悩んだり、「自分は人生の一軍ではない……」と苦しんだことがあるすべての人におすすめ。
○○○○○○○○殺人事件
2014年のメフィスト賞受賞作。犯人当て、トリック当て、動機当てなど、ミステリーにはいろんな趣向があるもんですが、本作が提示するのはまさかの「タイトル当て」。最後まで読み進めて伏せ字の部分を当てましょう!って内容になってます。
というとイロモノのような印象でして、実際の内容も「バカミス」の一種なんでけど、全体の構成はかなり緻密。無駄な伏線や人物描写がほぼなくて、すべてが事件のパーツとして組み合わさってて「すげー」と思わされました。
劇中で明かされるメイントリックはかなりバカバカしくて、そこらへんで賛否がわかれそうですけど、私はめちゃくちゃ感心しました。
その他
あとは以下の本も心に残りました。
- 落語を聴いてみたけど面白くなかった人へ(「落語はそもそも敷居が高い娯楽である」って前提から、落語の自由さや大衆芸能のすごさを説いてくれる本)
- 「運命」と「選択」の科学 脳はどこまで自由意志を許しているのか?(人間の思考や行動はどこまで遺伝で決められてるか?に関する最新の知見をまとめた本)