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ハーバード神学部「現代人が幸福になるためには"儀式"だ!儀式を復活させるのだ!」という話



儀式の力:日常の活動を精神修行に変える(The Power of Ritual: Turning Everyday Activities into Soulful Practices)」って本を読みました。著者のキャスパー・テル・カイレさんはハーバード大学神学部の先生で、最初は「神学とか全然興味ないな……」ぐらいに思ってたんですが、いざ読んだらとても大事なことを言っていて良い本でした。というか、私も「ヤバい集中力」で儀式については1章を割いてるんで、めちゃくちゃ共感したと言いますか。

 

 

本書の内容はサブタイトルのとおりで、

 

  • 現代は昔ながらの宗教儀式が通用しないから、日常的にもっと儀式を増やそうぜ!

 

みたいになります。かつて宗教がまだ勢いを持っていたころは、ちゃんと人間のメンタル改善に役立つ機能を果たしていて、

 

  • 個人が帰属するコミュニティを提供する機能

  • 自分の信念を固めてアイデンティティを強化する機能
  • シンプルに精神的な充足感をアップさせる機能

 

といったメリットを提供していたもんですが、いまでは通用しづらくなってるよなーってのが本書の問題意識。宗教の儀式というと、現代では「迷信」や「迷妄」で片づけられがちなんだけど、それが一定の役割を果たしてきたのも確かではありましょう。

 

もちろん現代でも宗教が廃れたわけじゃないものの、博士いわく「宗教団体と人々の間のギャップはガンガンに大きくなっている」と言っていて、宗教団体は人々のニーズに合わせて進化するのではなく慣習の維持にのめり込んでしまっていると博士は指摘しておられます。まぁ日本の葬式仏教とかもそうですもんね(最近は若いお坊さんが進化しようとがんばってますが)。

 

 

が、当然ながら、多くの人々が求めてたのは宗教的な慣習じゃなくて「宗教が提供してきた機能」のほうなので、現代の多くの宗教とは対立が起きるんだ、と。消費者が欲しいのはドリルじゃなくてドリルの穴だ!みたいな話ですね。

 

 

実際、ゴリゴリの宗教儀式じゃなくとも、例えばかつては日本でもお月見やらお盆みたいな慣習が「プチ儀式」として働いていた時代もありまして、かつての人たちが日常の儀式化"によって生活の中で喜びや感動を抱く瞬間を増やしてたのは事実でありましょう。この問題が、現代人が属せるコミュニティを減らし、さらに現代に特有の孤独感の増加につながったのではないか?ってのが博士の見立てです。

 

 

 

ってことで、宗教色が薄れた現代では、自分なりの儀式を自らの手で作るしかなく、博士は以下のジャンルを意図的に増やすことを考えた方がいいよーと言っておられます。

 

  • 自分自身の理解を深めるためのもの(安息日の練習とか)
  • 周囲とのつながりを増やすためのもの(共同で食事をしたりとか)
  • 自然ともつながりを増やすためのもの(ハイテク機器を使わずに長い距離を歩くとか)
  • 自分を超えた感覚を味わうためのもの(瞑想をするなど)

 

いずれも確かに「現代では失われてるよなー」ってポイントばかりで、非常にナイスなまとめじゃないかと思うわけです。

 

 

で、ここでおもしろいのが、博士が「自分なりの聖典を作ろうぜ!」ってエクササイズを提唱してるとこですね。聖書や仏典のようなトラディショナルな宗教書だけでなく、自分が「これは尊い!」と思うテキストをひとつ選び、それを徹底的に読み込んでみるわけです。

 

 

聖典に使うものはなんでもよくて、例えば博士が行った実験では「ハリー・ポッター」シリーズを聖典として扱う試みをしていて、学者が聖書やコーランを研究するのと同じように「ハリー・ポッター」を読み込む会を開いたんだそうな。要するに、ハリポタの詳細を深く読み、特定のフレーズやアイデアを分析し、人間の悩みへの答えに結びつけながらスローで読書したわけっすね。

 

 

博士は、一般的な本を聖典化するためのレベルを4つに分解してまして、

 

  • レベル1:物語の中で何が起こっているのか、登場人物は誰なのか、物語の展開はどうなっているのか、などの基本的な分析を行う

  • レベル2:物語の中に出てくる寓意的なイメージ、ストーリー、メタファーなどを分析する

  • レベル3:自分の個人的な経験がテキストとどう関係するかを考え、その経験から何を学んだのか、聖典がその問題の解釈にどう役立つかを自問する

  • レベル4:最後の4段階目は、読んだ後にどのような行動を取るように求められているかを問うことです。

 

といった順番でテキストを読み込むように提唱しております。確かにこんだけ深く読んだら、どんな小説も聖典化するかもしれないですな。これにより、参加者にとってはハリポタが「すべての答えが書かれた精神的な書物」に変わり、より大きな意味を持つようになるわけです。これは面白い試みですなぁ。

 

 

博士いわく、

 

現代の忙しい毎日の中では、自分が何者であるのか、そして何者になりたいのかを振り返る時間を持つのは難しい。メールに返信したり、子供の世話をしたり、洗濯をしたりしているとき、人はたいてい自動に動いており、自分自身を振り返ることが少なくなってしまう。

 

だからこそ、私たしは人生の中で安息日を設けることが重要となる。安息日とは自分の本当の姿を思い出す日のことだ。

 

とのこと。昔は”儀式”のおかげで自分を振り返る時間があったけど、現代ではみなオートパイロットで行動してるんで、強引にでも儀式を設けないとダメなんじゃない?って話っすね。私も非常に身につまされたので、さっそく聖典を選んでみたいと思います(笑


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。