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「頭が良い人ってどんな性格なの?」問題に精度の高い結論が出たぞー

 


頭の良さと性格には関係があるのか?」って疑問が昔からあるわけです。映画や小説では、エキセントリックな教授、気分屋の天才、陰鬱な賢者といったように、ステレオタイプなキャラがいろいろと存在しますが、それってどれぐらい正しいのか?ってことですね。

 

この問題については、すでに複数の研究例があるんですけど、性格と知能の関係については、まだそこまで大きなデータを使ったものがなく、「まぁ好奇心とかは関係ありそうだけど……」「神経症傾向が強いと知能は低いかなー」ぐらいの、ややフワッとした見解に落ち着いていたんですよ。

 

が、このたび過去最大級のデータセットを使ったメタ分析(R)が出まして、「頭の良さと性格には関係があるのか?」問題に、かなり精度が高い結論を出してくれておりました。

 

これはギリアド・サイエンシズ(世界第2位の大手バイオ製薬会社)の先生方が手がけた研究で、どんな調査なのかを簡単にまとめると、

 

  1. 過去に行われたパーソナリティ研究から、ハードディスクに何十年も眠っていて、いままで発表されたことがない調査、軍や民間企業が集めた独自のデータなど、ありとあらゆるデータを14年かけて集めまくる。

  2. 結果、世界の50カ国以上、1,300の研究、200万人以上の人から得られた巨大なデータセットが完成。ここには、79の性格特性と97の認知能力が含まれており、ここから知能と性格の関係を分析した。

 

みたいになります。ご覧のとおり、気が遠くなりそうなほど大規模な調査を行ってまして、ここまでやってくれたチームの労力には、まことに頭が下がる次第です。まさに過去最大のパーソナリティ研究でして、ここから今後もいろんな分析が出てくるんだろうと思うとワクワクしますね。

 

さて、分析結果を見ていく前に、いちおう「性格」と「知能」をざっくり定義しておくと、以下のような感じです。

 

 

  • 性格:ある人が、だいたいの場面でどのように考え、どのように感じ、どのように行動するかを表すもの。ここでは、神経症傾向、外向性、誠実性、開放性、協調性というビッグファイブをベースにしている。また、今回の調査で使われたデータセットには、それそれの性格をさらに分解したサブ特性もふくまれており、たとえば「神経症傾向」だったら「抑うつ」「疑い深さ」、「協調性」だったら「礼儀正しさ」「共感性」といった細かな性格特性も考慮されている。

 

 

  • 知能(認知能力):ある人が、どれだけ情報を理解し、活用できるかを表すもの。知能は大きく2種類に分けられ、「獲得知識」は、トレーニングや学習によって得た特定のスキルや知識を指す。もうひとつの「非獲得型知識」は、それ以外のすべての認知能力を指す。性格と同じように、この2種類の知能は、ワーキングメモリー、パターン認識、言語能力など、さらに細かいサブ項目に分けることができる。

 

 

従来の調査とは異なり、それぞれの大きな性格を構成する下位の項目まで組み込まれていて、こちらもかなり良い感じですねー。

 

でもって、これらの定義をふまえた上で、分析の結果がどうだったかと言いますと、以下のようになります。

 

  • 開放性は、新しい考えや経験に積極的に関わろうとする意欲のことで、いわゆる好奇心を表すパーソナリティ特性。昔から知能との関連性が言われてきたが、予想通り、ここでも開放性は、一般的な知的能力と中程度の相関があった。

 

  • 誠実性は、セルフコントロールの能力や、規則正しさなどを求めるパーソナリティ特性。こちらも、全体的に「誠実性が高い人ほど知能も高い」という傾向が見られたが、「用心深さ」や「規則正しい生活を求める」といった、いくつかのサブ項目については、認知能力の低さと関係があった。

 

  • 外向性は、社交性や熱意の高さと関係があるパーソナリティ特性。こちらは、全体としては知能との関連はごくわずかで、頭の良さを予測する指標としては弱い。しかし、外向性のサブ項目である「活動的」という側面は、より強く知能と関係があった。逆に、「社交性の高さ」というサブ項目は、これが高くなるほどいくつかの認知能力が低い傾向があった(ここは、個人的におもしろポイントでした)。

 

  • 神経症傾向は、ネガティブな感情になりやすいパーソナリティ特性。当然ながら、ネガティブな感情は高度な思考を阻害するので、神経症傾向のレベルが高い人ほど、知能のレベルが低い傾向があった(ただし、私が思ってたよりは相関は弱かったので、神経症傾向が高めな人間としてはちょっと安心)。神経症傾向のサブ項目の中では、「気分の変わりやすさ」と「抑うつ」が、特に知能の低下を強く予測した。

 

  • 協調性は、他人とうまくやっていくことに関係するパーソナリティ特性。この性格は、全体的に知能との相関が最も弱かったが、「思いやり」と「対人感受性」(コミュニケーションのなかで相手と自分のなかに起きた変化を察知する能力)というサブ項目については、高い方が一般的な知能を中程度に強く予測した。逆に「礼儀正しさ」が高い人は、いくつかの認知能力が低い傾向があった。

 

というわけで、『知能が高い人』の性格を雑にまとめると、

 

  • 好奇心いっぱいでいろんな物事に手を出すが、つねに気分が安定して思いやりがあり、セルフコントロールが上手い人

 

みたいになりますね。なんだか「MASTERキートン」みたいなキャラですな。

 

というと、このデータをもとに「よし!頭が良い性格に生まれ変わるぞ!」と考えたくなりますが、ヒトの性格ってのは生涯にわたって安定しているので、そこそこ大変な作業だとお考えください。まぁ近年では「人の性格には一定の弾力性があるから、ある程度までなら変えられるよー」って見解が一般的なので、超地道にパーソナリティを改善していけば、どうにかなるかもしれません。

 

ちなみに、この研究で「思いやりと好奇心がある人ほど知的」って結果が出た理由はいまのところよく分かっておりません。今回のデータを見ると、

 

  • 好奇心が高い人や、思いやりがある人、セルフコントロールができる人、活動的な人は、認知能力をよく使う活動をしやすいから、人生が自然と脳トレになっているのでは?

 

  • 知性が高い人は理性で否定的な感情を抑えられるから、そのおかげでセルフコントロールが高くて、より思いやりのある人間になれているのでは?

 

といったあたりは仮説として考えられそうっすね。このあたりのメカニズムについては、この研究を手がけたスタネック&オーンズ先生が本を書いているそうなので、これに詳しく書いてあるんじゃないでしょうか。こちらも楽しみ。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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