いろんなことに手を出して何も身につかない!は、実はそんなに悪いことじゃないよ!という話
日ごろいろんな質問をいただくんですが、たまにあるのが、
- いろんなことに手を出して何も身につかない!
ってお悩みです。とにかく移り気な性格で、今日は英語に熱中したかと思えば、翌日は統計をやりたくなり、そのまた翌日は楽器を弾きたくなり、といった具合で、次々に興味の対象が変わって育成で、結局はどんな分野も身につかなくて落ち込んでしまう……みたいなお悩みですね。
好奇心や向学心が強いといえば聞こえはいいものの、あまりに気まぐれに趣味を選んでは、すぐにやめてしまうのは、やっぱり問題がありそうですもんね。特に現代ってのは、しばしば専門性が称賛されがちなので、広く浅い趣味を持つ人ほど自分のことが心配になりやすいとこはあるかもしれません。
かくいう私も、なにかひとつのことを極めたような経験がなく、いろんなことに手を出しては半端に終わってたりします。求道者とか、憧れますなぁ。
では、このような「いろいろと首を突っ込む人」は良いのか悪いのか?ってことですが、そこで参考になるのが、2022年に発表された研究(R)であります。
これは高齢の参加者を対象にした法さで、みんなを中央値で11年間ほど追跡し、認知症になりづらい人の特徴をチェックしたんですよ。結果、研究の期間に3,095人が認知症と診断されまして、このデータを元に、脳の衰えが少ない人をあぶり出してみたら、
- いろんな趣味を持っていると答えた人ほど、認知症のリスクが低い!
って傾向が見られたらしいんですな。さらに詳しく言えば、
- 少なくとも一つの趣味を持っている人は、なにも持っていない人に比べて、リスクが18%低い。
- 多くの趣味を持つ人は、認知症のリスクは22%低い。
- 趣味による脳のプロテクト効果は、特に中年者(40~64歳)と高齢者(65~69歳)で見られた。
ってことで、ひとつの趣味に打ち込むよりも、できるだけ多様なものごとに手をつけた方が、脳の機能がキープされやすいみたいなんですな。
要するに、多面的な好奇心ってのは、優柔不断さの表れではなく、むしろ多様な経験によって脳をトレーニングしてくれる、まことにありがたい特性なのかもしれないわけです。これは多趣味な人にはうれしい結果じゃないでしょうか。
こうなると、なんで多趣味によって脳を守られるのかってとこが気になりますが、このポイントについて参考になりそうなのが2021年の研究(R)であります。
この研究は、我々に「幸福な人生」をもたらすものは何か?って問題について考えたもの。まずは、従来の心理学で「幸福に欠かせない要素」をどう考えてきたかと言うと、
- 快楽的な幸福(美味いメシとかスポーツとか)
- 意味的な幸福(子育てとか新しい知識の学習とか)
って2つを重要視してきた歴史があるわけです。しかし、この論文では、充実した人生に不可欠な要素として、もうひとつ「『心理的な豊かさ』って概念が必要なのでは?って考え方を提示しておられます。
「心理的な豊かさ」ってのは、快楽や意味の喜びに焦点を当てるんじゃなくて、「いろんな体験をすることで人生をいろんな視点から見られること」みたいな状態を意味してます。たとえば、武術を趣味にしたことで身体が鍛えられ、ガーデニンで忍耐力が養われ、アートによって感性が磨かれ、言語を学ぶことで異なる文化に親しみ……ってなことを重なるうちに、世界を複数の視点から見られるようになり、自分の暮らしの物語が多様化し、これが人生の豊かさを生むのだって話あります。
この研究によりますと、実験に参加した人の多くが、「快楽や意味を犠牲にしても、心理的に豊かな人生が良い!」と答えたとのこと。それぐらい心理的な豊かさってのは、実感できるメリットが大きいんだってことなんでしょうな。
ちなみに、心理的に豊かな人生を送っている人ってのは、「好奇心がとにかく高い」「包括的な思考ができる」(ひとつひとつの部分に注目するのではなく、パーツの全体的なつながりに注目する考え方)「政治的な態度はリベラル」といった傾向があるそうな。まぁ複数の視点からものごとを見てたら、自然とこういった嗜好にはなりそうですね。
ってことで、以上の話をまとめてみると、
- いろんなことへ中途半端に首を突っ込んでみるのは悪いことではなく、おそらく脳の機能を維持するトレーニングになる。
- 複数の趣味を持つことには、複数の視点を持たせる働きがあり、これによって人生が豊かになる。
って感じですね。多様な趣味を持つことは、全体的な幸福の指標だし、脳の健康を守るプロテクターの役割も果たしてくれるわけですね。ということで、興味のままにいろんなことへ手を出しがちな私としても、とりあえず今までのやり方を変えずにいこうと思った次第です。