古代ギリシアの考え方で人生が改善しまくるぞ!という本を読んだ話
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「ストア派・マインドセット(The Stoic Mindset)」ってタイトルの本を読みました。著者のマルク・タイテルトさんは元スピードスケートの選手で、バンクーバー冬季オリンピックの1500メートルで金メダルを取った方だそうです。
タイテルトさんはストア派哲学のファンで、ゼノンやクリシッポスの考え方を実戦することで、スポーツで高いパフォーマンスを上げてきた実感があるんだそうな。
なので、あくまで個人の体験を述べた本ではありますが、近年では、最新の心理療法(ACTとかメタ認知療法とか)がストア派の考え方を使って成果を出してたりするんで、本書の内容にも学ぶところは多いように思いました。「ストア哲学で人生を良くしよう!」みたいな本が山ほどあるなかで、その考え方で、実際にデカい結果を出した人が語っているところが本書のおもしろポイントですね。
ってことで、いつもどおり本書から勉強になったところをまとめてみましょうー。
- トップアスリートほど、勝利という目標にばかり目が向きやすい。しかし、ストア派の人間は、勝つことではなく、正しい選択をすることにエネルギーを注ごうとする。目標を達成できなかったフラストレーションは脇に置いて、自分がコントロールできることに全力を注ぐのがストア派のやり方である。そして、このように考えることで、実際に目標を達成できる可能性が高まりやすくなる。
オリンピックの決勝戦の直前など、ストレスや困難な状況に陥ったときは、必ずこの教訓について考える。それにより、レースの結果ではなく、自分の内面的な状態に集中することができるようになる。
- 実際のところ、勝利はコントロールできないが、最善の準備をすることならコントロールできる。ストア学派は、「相手や状況をコントロールすることはできないのだから、気にするな」という視点を何よりも重んじる。目標に取りつかれたプレイヤーは、心が安らぐことがないからである。心を安らげようと思ったら、実際のアクションの中に見いだすしかない。
- セネカは「社会における人間は、橋を構成する石のようなものだ。石が相互につながり、結束することで、橋はしっかりと固定される」と言っている。自明のことだが、コーチやチームメイト、パートナーやスタッフと協力し、意識的にお互いの良さを引き出せるように取り組むのは、良いパフォーマンスを発揮するには欠かせない作業である。
ストア派は、出自、地位、人種、性格に関係なく、自分自身や周囲の人々と同じように、世界中のすべての人を大切に扱う点を重んじる。これを一言で言えば「チームの利益は自分の利益である」と表現できる。ストア学派が言うように、人間は協力し合うように設計された生き物だと言える。
- 目標にばかり目を向けることの問題は、幸福についても同じことが言える。幸福をゴールとして追求すると、常に次の勝利を求めてしまうため、不幸になる可能性がある。一方で、古代ギリシア人は、「エウダイモニア(心の安らぎがある状態)」を目指した。これは、正しいことを追求するために自分自身の改善に取り組むときに発生しやすく、外的な結果に左右されることなく、自分の中に充実感を見出せる可能性が高くなる。
- エウダイモニアは、最終的なゴールではなく、ある種の「状態」だと言える。ゼノンは幸福を「徳のある人生の良い流れ」と定義した。これは独立した幸福の形であり、他人の心の状態や自分の所有物とは関係なく達成される。
言い換えれば、エウダイモニアは、困難に立ち向かって成長しないと得られない。学習して向上を続けた結果、心の平静を見出すのが古代ギリシアスタイルの幸福である。それはエウダイモニアの重要な部分であり、金メダルや富や地位よりもはるかに遠いところにある。幸福は最終目標ではなく、そこに至るまでに発生する副産物だと言える。
- 港に向かうには、まず正しい方向を定める必要がある。同じように、人生においても、まずは自分の方向を見すえる必要がある。目標を設定するのは簡単だが、正しい方向に何年も進み続けるのは難しい。その方向性は人によって千差万別なので、自分の適性を研究して自分に合ったことをするのがよい。
ただし、ここで難しいのは、自分が正しい方向に向かっているかどうかは、歩き始めてから初めてわかるという点である。そのため、正しい方向を見つけるには動き出すしかないし、そのプロセスでは回り道が避けられない。
- 人生の方向性を見つけるためには、生まれ持った好奇心に従うのがベスト。自分の内面には、性質、価値観、興味、性格という名の羅針盤が備わっているので、そこに従うしか方法はない。まず自分の方向性を決めてから旅に出れば、ゴールは自ずと見えてくる。
事実、ストア派の賢人たちは、みな行動しながら人生と向き合っていた。ゼノンは哲学者であると同時に商人でもあった。クリシッポスも哲学者でありつつ、スポーツ選手、科学者、作家でもあった。セネカは領事であり、作家であり、哲学者だった。マルクス・アウレリウスは皇帝であり哲学者でもあった。彼らはみな、自分の羅針盤を調整することを学び、人生の外に出ることによって、自分だけの役割を見出したと言える。
- ストア派の考え方で最も重要な質問は、「どうすれば良い人格を育てられるか?」である。優れた人格は、勇気、節制、正義、知恵という4つの重要な価値観の上に築かれる。これらは、自分にとっても他人にとっても良い人生を送るために、誰もが実践できる性格特性だと言える。成功によって他者を犠牲にする必要はない。人格の探求は、良き人生の探求につながる。
ってことで、本書の要点を見てみました。ざっと見ちゃうと「なんだか古くさい説教だなぁ……」という感想を持つ人もいるでしょうが(私も20年前ならそう思ったはず)、こういったストア派の考え方は、ここ十数年で出てきたポジティブ心理学の知見ともバッチリ整合性があって、「おっしゃるとおりでございます!」としか言いようがないんですよね。「昔の人は偉いもんだ……」とかあらためて思っちゃいますなぁ。