人生にはときに「勘違い」も必要だという話
ここ数年、心理学の世界では「思い込みや偏見を捨てれば人生は上手くいく!」みたいな話をよく見かけるわけですが、ときには勘違いが役に立つこともあるって話を。
参照するのはオハイオ州立大学の論文(1)。学生たちを対象にした実験でして、彼らに数学のテストとアンケートを行って、客観的な数学力と主観的な数学力の2種類を計ったんですね。
その結果は、
- 自分は数学が得意だと思っていた学生の3分の1が、実際のテストでは平均点より下だった
- 自分が数学が苦手だと思っていた学生の5分の1が、実際のテストでは平均点より上だった
とのことで、多くの人は自分の客観的な能力を理解していないことが、あらためて明らかになった形であります。このあたりは、従来の研究でもさんざん言われてきたことですね。
ただし、この論文には続きがありまして、「自分は数学が得意だ!」と勘違いしていた人は、数学が苦手だと思っていた人よりも、粘り強く問題に取り組む傾向が高かったというんですな。
研究者いわく、
この結果は、わたしたちの生活に大きな関係を持っている。数学が苦手だと思い込んでいる人は、締め切りどおりに作業をこなす確率が低くなるだろうし、保険に対して正しい選択ができなくなってしまう。大量の数字を目の前にすると、彼らは簡単に音を上げてしまうからだ。
とのこと。以前に「『グリット』のお話」でも紹介したとおり、現代の心理学では「粘り強く取り組む能力」が最も大事だと言われてまして、この点では、思い込みや勘違いが人生の役に立つ可能性が大きいわけですね。
もっとも、一方では「勘違い」が「役に立たない自信」を生む原因になるとの指摘もありまして、そのへんのバランスは非常に難しいところ。まぁ、そもそも、何かに苦手意識を持つ人に対して、強引に「自負心を持て!」と言ってもムリでしょうから、まずは自分の客観的な能力を把握したうえで、それぞれの苦手意識や勘違いを有効に使う道を探すほうが生産的な気もしますね。
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