「ヨロコビ」を追い過ぎて逆に幸福が逃げていく仕組みとは?
映画「インサイドヘッド」は、ネガティブな感情の効用を描きながら、同時にポジティブな感情のマイナス面にも触れているのがおもしろいところ。主人公の「ヨロコビ」が、悲しんでいる相手に「元気だせ!」と励まして逆に落ち込ませたり、何もしない「カナシミ」を問答無用で隔離したりと、ポジティブシンキングのウザさがちゃんと描かれておりました。
実際、ポジティブシンキングが効かない例は数多く報告されてまして、当ブログでも、
といった話を書いてまいりました。特にアメリカでは「ポジティブ最強!」みたいな風潮がまだ根強いんで、ネガティブ派からの反動も大きいみたい。
「楽しむぞ!」と意気込むほど幸福感は下がってしまう
ただし、ここ十数年の心理学では、ポジティブシンキングが効かないどころか「幸福を追い求めるのは逆効果だ!」って主張も多く出ているのがおもしろいところです。
その代表が、「予想どおりに不合理」で有名なダン・アリエリー博士による2003年の実験(1)。参加者たちにストラヴィンスキーの「春の祭典」を聞いてもらったんですが、その際に以下の4グループにわけたんですね。
- 曲を聴きながら「幸せな気分になるぞ!」とがんばる
- いつもと同じように聴く
- 曲を聴きながら、自分の気分の変化を数字で採点
- 「幸せな気分になるぞ!」とがんばりながら曲を聴き、気分の変化を数字で採点
その結果は、
- いつものように曲を聞いた参加者は、「幸せな気分になるぞ!」とがんばった参加者にくらべて幸福感が450%も高かった
- 曲を聴きながら自分の気分の変化を採点した場合は、いつものように曲を聞いた参加者にくらべて幸福感が750%も低かった
といった感じ。とにかく「楽しむぞ!」と意気込むほど幸福感は下がってしまうんだ、と。
幸福に価値を置くほど幸福度は下がる
もう1つ面白いのが、ヘブライ大学の研究者が2011年に行った調査(2)。参加者たちに「どれぐらい幸福を大事に考えているか?」をたずねたうえで、過去18カ月に味わったストレスや幸福感のレベルと比較したんですね。すると、「幸福は大事だ!」と答えた参加者のほうが幸福度は低く、ストレスも高い傾向があったんだそうな。
研究者いわく、
一般的に、幸福には大きな価値が置かれている。実際、幸福学の実験データや幸福になる方法を書いた本は増え続けており、現代の西洋人は幸福に取り憑かれていると評する論者もいるほどだ。それだけに、幸福に価値を置くことで逆にマイナスな結果が出てしまう事実は、現代の心理学に重要な影響をあたえるだろう。
今回の結果によれば、幸福を最大にしようとがんばる(よく自己啓発本で薦められるように)のは逆効果だ。幸福に価値を置くほど、人間は逆に弱くなってしまう。
逆に言えば、私たちはジョン・スチュワート・ミルのアドバイスに従うのが賢明かもしれない。すなわち、自分の幸せにこだわってはいけないのだ。
とのこと。どうやら、自分の幸福について考えてすぎた結果、他人との関係がおざなりになっちゃうのが不幸の根源みたい。以前に「幸せになろうと頑張るほど幸せから遠ざかるぞ!という話」で紹介した実験と同じ仕組みですね。映画「インサイドヘッド」で、「ヨロコビ」が幸福感を追求したせいで、「カナシミ」と上手くやっていけなくなった状況に似ております。
ただし、上記の研究によれば、「幸福になるぞ!」って気持ちが良い結果を出すこともあるらしい。その条件とは、
- 慢性的なストレスにさいなまれている人:もともとストレスが多いので、幸福感が期待を下回っても問題が起きない
- セルフコントロール能力が高い人:感情の制御が効くので、ネガティブな感情も総合的に取り込める
- 「幸福感」を喜びや悲しみもふくめた幅広い状態だと捉えられる人:そもそも「幸福感」の定義が違う
の3つであります。要は「ポジティブだけじゃなくネガティブな感情も受け入れよう!」って話でして、「インサイドヘッド」の結論に近いものになっております。いずれにせよ、意識が高い自己啓発にのせられて、無闇に喜びを追ってしまうのは避けたいところですねー。
Credit : http://brandan97.deviantart.com/art/INSIDEOUT-549603749