「年を取ると時間が経つのが速い!」問題の科学的な原因と対策
なぜ 年を取ると時間が経つのが速くなるのか?
「年を取ると時間が経つのが速くなる」と言いますが、私も近ごろは痛感しております。もう年末だというのに、自分の中の体感だとまだ8月の上旬ぐらいですし。
その理由には諸説ありますが、だいたいは「年を取ると子供のような驚きがなくなるから」とか「経験が増えて生活に新鮮さがなくなる」とか、そんな説明がされるケースが多いように思います。
で、新しい論文(1)では、「時間がスピードアップする原因はこれだ!」ってとこを調べてくれてて面白いです。
時間が速くすぎると人生はつまらなくなる
これはカンザス大学の実験で、参加者は107人の男女。研究者いわく、
人生が素早く過ぎてしまう感覚は、心理的に有害なものだ。この感覚が不快なのはもちろん、モチベーションも下がり、人生の意味が低下してしまう。
ってことで、時間のスピードアップ現象について調べてみたそうな。確かに時間が速いのってなんか寂しいですもんね…。
まず最初の実験では、参加者に対して以下の指示をしております。
- 「学校生活」「仕事」「友人関係」などのカテゴリーから好きなものを選ぶ
- 選んだカテゴリーについて、「過去数年の記憶」または「過去数日の記憶」のどちらかで2分ほど考える
その後、全員に「前の年はどれぐらい速く過ぎたように感じますか?」と尋ねたところ、「過去数年の記憶」について考えた参加者のほうが、「過去数日」の単位で考えたときよりも時間がスピードアップしたような感覚になったらしい。
さらにもうひとつの実験では、参加者を以下のグループにわけております。
- 今年に起きた出来事と似たような過去の出来事を書き出す
- 今年に起きた出来事と違う過去の出来事を書き出す
そのうえで時間の感覚を尋ねたところ、今度は「似たような過去の出来事」を書き出したグループのほうが、時間がスピードアップしてたんだそうな。おもしろいですねぇ。
時間が速くすぎる原因は「記憶のチャンキング」
なんでこういった現象が起きたかというと、簡単にいえば「チャンキング」が働くからです。チャンキングってのは多くの情報をひとまとめにすることで、たとえば「5 6 0 7 8 6 5 10 8 2」みたいにランダムな数列を覚えるのは大変ですが、「5 6 0 - 7 8 6 5 - 10 8 2」みたいに区切りをいれるとグッと楽になるのもチャンキングの一例。情報をいくつかの固まりにすることで、頭に残りやすくなるわけですな。
この実験で起きたチャンキングってのは、
- 実験1の場合=「過去数日の出来事」より「過去数年の出来事」のほうが固まりがデカい
- 実験2の場合=「違う出来事」より「似たような出来事」のほうが固まりがデカい
ってことです。要するに、頭のなかで時間的にデカい固まりを作るほど、時間が速く流れていくような感覚が起きるわけです。一般的に「チャンキング」といえば記憶力アップに役立つ手法として有名ですが、いっぽうでは記憶を固めて時間をスピードアップさせる働きもあるんですな。
つまり、人間は年を取るほど人生の記憶が増えていくんで、自然と似たような出来事がチャンク化。その結果、どんどん時間がスピードアップしていくってことですね。まぁ「経験が増えて生活に新鮮さがなくなる」って説明に近いところはありますが。
「記憶のチャンキング」に立ち向かうには?
そんなわけで研究チームは、「時間のスピードを遅くする方法」として「マインドフルネス」をオススメしておられます。「いまここ」に意識を集中すれば、記憶がチャンク化しようがないんで、結果として時間も伸びるのではないか、と。そりゃそうですよね。
研究者いわく、
マインドフルネスの体験は、見慣れたものに対する感覚を鋭敏にしてくれる。そして、人生のスピードアップ化にも立ち向かうことができるようになるだろう。
とのこと。ってことで、マインドフルネスの鍛え方については「瞑想をスタートするために必要なすべての知識をまとめてみたぞ」で説明してますんで、合わせてご参照ください。私も時間感覚がスピードアップしてるっことは、まだまだマインドフルネスが足りないようですなぁ…。