正しい知識を使いこなせる人は、どんな環境で育ったのか?問題
賢者はどんな育成環境で生まれるのか?
以前に「賢者になる方法」なんて話を書きました。ざっくり言えば、時と場合に合わせて的確な知識を使いこなせる人間になるには、以下の3つが必要って話でした。
- 知的謙遜
- 自己超越
- 視点の統合
それぞれの詳細については「賢者になる方法」をご覧いただければと思いますが、ここでもっとも大事なポイントは「他人の視点から物事を考えられるかどうか」だと言えましょう。上の3つは、いずれも自分だけの視点を乗り越えることの大事さを強調してまして、それこそが本当に賢い人間の条件なのだ、という話です。
さて、そこで新しく出た論文(1)では、「どんな環境で育った人のほうが賢者になりやすいのか?」ってところを調べてておもしろいです。
オンラインで賢者の要素を調べた
これはウォータールー大のイゴール・グロスマン博士の実験で、前に「悩みを解決したいときは、他人の視点で考えてみよう!」って研究を紹介した先生ですね。博士いわく、
社会全体の知識は増しているのに、なぜ以前と変わらぬレベルで人間の争いは起き続けているのだろう?
とのことで、知識よりも賢く生きる方法を模索しておられる模様。
実験は2,145人の学生を対象に、オンラインでいくつかの質問に答えてもらっております。具体的には、
- いままで第三者の視点で考えたことはありますか?
- 他者の視点から物事を考えようと努力したことは?
- 自分が悪いのかもしれない、と思ったことは?
みたいな感じ。全体的に、賢者の要素を持っているかどうかを調べたわけですな。
社会階層が低い環境のほうが賢者を生みやすい
そのうえで、すべての答えと参加者の収入などをくらべたところ、
- 社会階層が低い状況で育った人ほど他人の視点を持っている!
って傾向が出たんだそうな。「社会階層が低い」ってのは、貧しい家庭、教育レベルが低いなどの環境のこと。この状態で育った場合、金持ちの家で育った人のおよそ2倍ぐらい他人の視点で考えるのが上手いんだそうな。
また、別の実験では、200人を対象にIQテストをしたあとで「他人の視点で考えられるか」をみたんですけど、その結果はさっきと同じ。IQのスコアは「他人視点」とは無関係で、やはり社会階層の低さとだけ相関があったらしい。
まとめ
こういった違いが出た理由について、研究チームは「ワーキングクラスの環境が原因では?」と主張しておられます。つまり、貧しい環境では他の人とリソースをシェアして生きるスキルが必要なので、中流階級よりも、自然と社交スキルが身につき、仲間との争いを収める能力も発達するのではないか、って説です。うーん、そうかも。
ちなみに、グロスマン博士は「他者視点」を鍛える方法のひとつとして、「自分のことを三人称で表す」って手法をオススメしておられました。これについては、「意志力を手軽にアップさせる秘技「サードパーソン・セルフトーク」」などをご参照ください。