抗うつ剤の効果を3倍にするメンタルテクニック
なぜ抗鬱剤は大半の人に効かないのか?
「抗鬱剤の効果は個人差がやたら大きい!」って話をよく聞くわけです。なぜか半分の人には抗鬱剤がまったく効かないケースが昔から報告されてまして、「なんだろう?」と言われてきたんですよ。
そのため、近ごろは「鬱病って脳内ホルモンより炎症のせいじゃない?」とか「酸化ストレスのほうが大きいんじゃない?」などとも言われてるわけです。
ってところでおもしろいのが、ウプサラ大学の論文(1)であります。なんでも「抗鬱剤の効き目は医者のプレゼン次第!」というんですな。
ニセの情報をあたえて薬を飲んだらどうなる?
これは社交不安障害の患者さんを対象にした実験で、みんなに毎日20mgのエスシタロプラムを飲むように指示しております。エスシタロプラムは脳のセロトニンを増やすタイプの薬で、昔から不安やモチベーションの低下に使われてきたSSRIの一種。シプラレックスって商品名で売ってたりします。
続いて、全体を2つにわけまして、
- 薬の正しい情報を教える(副作用のレベルとか、薬効の出方とか)
- ニセの情報を教える(「あなたが飲む薬は、本物の薬と似た副作用が出ますが、不安は改善しません」みたいな)
9週間ほど過ごしてもらったらしい。みんな同じ抗鬱剤を飲んだにも関わらず、いっぽうのグループにはデタラメを吹き込んだわけっすね。
情報の与え方によって薬の効き目が3倍違う
それでどんな違いが出たかと言いますと、
正しい情報をあたえられた参加者は、ニセの情報を教えられた参加者にくらべて、3倍も薬の効果が高くなった。どちらのグループも、まったく同じ薬を飲んだにも関わらずだ。
ってことで、かなりの差がついております。3倍の差って、薬の実験としては衝撃的なレベルの効果ですな。
さらに、この実験では全員の脳もスキャンしてまして、こちらもおもしろい傾向が出てたりします。なんでも、正しい情報をあたえられたグループは後帯状皮質と扁桃体の活動が収まってたんだそうな。これは不安や恐怖をつかさどる脳のエリアでして、要するに感情の落ち込みに強くなったってことですね。
情報をいかに消化するかで脳への効き目が変わる
研究チームいわく、
この実験の結果は、「患者の予想」によって薬が脳にあたえる影響が変わり、それにともなう認知と感情の相互作用にも影響が出ることを示している。
とのこと。同じ薬を飲んだとしても、受け手のメンタルによって脳への影響が変わるんだ、と。
決して、抗鬱剤は無意味だとか、不安の治療効果がないと主張したいわけではない。しかし、今回の実験は、治療そのものと同じぐらい、治療のプレゼンテーションが大事だということを示している。
ってことで、「やっぱプラシーボ効果って凄いなぁ」といういつもの結論ですが、3倍も違いが出ちゃうと、もはやプラシーボのほうが大事な気すらしてきますな。
つまり、この結果を現実に活かすならば、
- 処方された薬を飲む前に、その薬の正確な情報を調べまくる
- プレゼン能力が高い医師を選ぶ
って感じでしょうか。プラシーボの活かし方にはついては、今後ももうちょい考えていきたいところです。