楽器を練習すると本当に頭が良くなるの?問題
「なんか楽器ができる人って頭がいいみたいだよ!」って考え方があるんですよ。ミュージシャンを集めて脳機能のテストをすると、どうも一般人よりもワーキングメモリが良いことが多いんですな。
ただ、これがどこまで事実かってのはまだ判断が難しいんすけど、「楽器で本当に頭が良くなるのか問題」について信頼性が高いデータ(1)が出てましたのでご紹介しておきます。
これはパドヴァ大学が行なったリサーチで、過去に行われたミュージシャン研究から29件を抜き出したメタ分析になっております。1987〜2016年のデータをまとめてまして、それぞれの研究の参加者は20〜140人ぐらいで、年齢は平均23歳とのこと。
ざっくりデータの内訳を書いとくと、
- 14件は長期記憶について調べたもの
- 20件は短期記憶について調べたもの
- 19件はワーキングメモリについて調べたもの
って感じになってます。いずれも楽器をやってる人は記憶力がいいの?って問題をチェックしていて、なかなか参考になります。
では、まず結論から申し上げますと、
楽器をやらない人にくらべて、ミュージシャンはわずかながら長期記憶に優位性が見られた。また、短期記憶とワーキングメモリについては、それ以上の優位性が確認された。確証バイアスの可能性は低い。
だそうです。やはり楽器をやってる人ほど記憶力がいいのは間違いないんだ、と。ちなみに確証バイアスは、「楽器で頭が良くなる!」ってデータに有利な論文だけが世の中に出てるわけじゃない、ってことです。
軽くおさらいしとくと、ワーキングメモリは人間の暮らしに超大事でして、
なんて話も出てたりします。たんに短時間の情報を覚えとくだけの能力じゃないんですな。
まぁ、いつものように「記憶力がいい人ほど音楽が好きになるのでは?」って仮説も成り立つんですけど、さすがに今回は普通に「楽器でワーキングメモリが育つ」と考えたほうが自然な気はします。なんせ楽器には、いかにも脳に良さげな要素が多いもんですから。
楽器を覚えるには一度にいろんな感覚を使う:
一般的に、いちどにいろんな感覚を使ったほうが脳に良いのは有名な話。いわゆるマルチモーダルって観点であります。
楽器の弾き方を学ぼうとしたら、楽譜の記号を脳内で音声に結びつけて、この情報をさらに体の動きに変換しないといけないもんですからね。そのプロセスには、視覚、聴覚、運動感覚などの要素がふくまれてて、いろんなパターンで脳に刺激をあたえるんですな。
音楽のトレーニングは情報のチャンク化である:
チャンク化ってのは、情報を意味のあるかたまりにまとめることです。たとえば、かつて「年を取ると時間が経つのが速い!問題」で書いたとおり、時間が速くすぎるように感じるのも、脳内で記憶がまとまってるからであります。
で、チャンク化には時間を速くする副作用もあるものの、いっぽうでは記憶力アップに役立つ手法としても知られててたりします。情報がひとかたまりになるせいで、複雑な情報でも脳がすんなり受け入れるようになるんですよ。
考えてみれば、音楽ってのは、本来はなんの区切りもないはずの音の流れに対して、メロディやリズムといった枠組みを使って情報をわかりやすくまとめ、飲み込みやすい形に変換していく作業ですからね。まさにチャンク化そのものなんですな。
ってことで、やはり楽器は脳に良さそうだなーとあらためて思った次第。このデータだとどんな楽器がいいのかまではわからんのですが、普通に考えればどんなものでも良さそうっすね(トライアングルとかはアレですが)。
わたしも昔はピアノをやってたんですが、いつかまた始めてみたいものだなぁ、と(希望)。