2018年下半期に読んで良かった13冊の本
ってことで、例年どおり今年読んだ本でよかったものを並べておきます。今年は143冊ぐらい読みまして、昨年にくらべれば増えましたねー。
あいかわらず論文を読む系の仕事が激増中なので、今年は頭のモードを切り替えるべく、小説を手に取るケースも多くなりました。少し人間らしい生活に近づいたような気がしますね(笑)
では、2018年の下半期に良かった本をダラーっと並べていきます。「上半期に読んでよかった本」は別にまとめてますんで、合わせてご参照ください。
トップ3
〈効果的な利他主義〉宣言!
他人に良いことをするのはもちろんすばらしいけど、どうせやるならデータにもとづいてより効果的な善行をしようぜ!とうったえる非常にナイスな本。エビデンスベースド慈善活動ですな。
この問題意識に照らしたうえで、フェアトレードなんか無駄!とりあえず寄付だ! 人間の命を金に換算せよ!とうったえるあたりとか、みもふたもない善意にあふれてて笑いました。正しい金の使い方を考えるうえでも有用かと思われます。
進化心理学を学びたいあなたへ
デヴィッド・バス!ロビン・ダンバー!ダグラス・ケンリック!ジェフリー・ミラー!などなど、進化心理学のスターがそれぞれの得意分野について小文を寄せまくった、それだけで「買い」な一冊。全体的に読むと、進化心理学の歴史がざっくり概観できるのと、最新の取り組みまでながめられていい感じ。これだけの内容が日本語で読める本ってほかにないですからねぇ。
心の進化を解明する
進化論とコンピュータ科学を使いまくって「人間の心とか意識ってどうやってできたの?」を追求する一冊。正直、論旨は入り組みまくってるし、話がどこに向かってるかもわかりづらいしで、みんなにオススメできるようなもんでもないです。ただ、個人的にはこのまわりくどいデネット節が好きなので、翻訳してくれただけでもありがてぇなあ、という。
読んで損なしの6冊
Starting Strength
いわゆる筋トレのビッグ3について、「いかに効率的に安全にやるか?」をやたらくわしく説明した一冊。とくに難しい英語は使われてないし、イラストと写真だけでも十分に理解できますんで、筋トレをやるならとりあえず持っておいて損はなし。
シンプルな政府:“規制"をいかにデザインするか
オバマ政権下で政策立案をやってたキャス・サンスティーン先生が、いかに行動経済学の知識で社会の非効率を無くしてきたかを語る本。行動経済学の基本的なメソッド解説にもなってて、いかにアカデミックの知識を現実に応用していくかを学ぶのに好適じゃないかと。
ちなみにサンスティーンさんの本だと、「命の価値: 規制国家に人間味を」は、さらに費用便益分析の細かい使いかたまで触れててとても勉強になります。ただし内容は難しいんで、手始めには「シンプルな政府」のほうがオススメ。
ハードウェアハッカー ~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険
有名ハッカーのアンドリュー“バニー”ファンが、いまMAKERムーブメントでなにが起きてるのかを詳述したリアルな一冊。著者のことは全く知らなかったんですが、あのチャンビーを作った人らしい。当時は買おうか悩んだなぁ……。
ただし、私は組み込み系の知識がほとんどないので、前半はなにを言ってるのかほぼチンプンカンプンでした。それでも、「中国の深センですごいことが起きてるぜ!」という熱意が伝わってきて楽しいんですよ。
でもって、後半のハードじゃなくて遺伝子ハックまでふみこんでいくんだけど、このあたりはわりとわかるので「まじか!」の連続でありました。バイオハッキングについては昔から興味があったので、これはちょっと手を出したくなりますね。
そんなわけで、なかなか万人にすすめられない本ながら、「うおー、なんか作りたいぜ!」みたいなモチベーションをかきたてられるナイスな本でありました。
Enlightenment Now
私を進化心理学の沼に引きずり込んだピンカー先生の最新刊(本人は言語学者ですが)。本書をひとことで言えば「科学が世の中をどれだけよくしてるかを改めて見せたるで!」のようになります。というと、このブログのお読みの方は「当たり前じゃないの?」とか思っちゃいそうですが、日本でも現代への無闇な悲観論が多いのは間違いないところですからねぇ。
その意味では2018年の上半期に読んだ「進歩」に近いものの、こっちはもっと徹底していて、「貧困は減った!」「戦争は減った!」「民主主義も広がった!」「格差拡大も心配なし!」「世界の幸福度も高まっている!」って話を徹底的にデータから導き出しております。
ちなみに、本書では「原発には経済合理性がある!」って結論になってて、ここらへんは日本で議論を呼びそう。はやく翻訳されないかなぁ。
Great at Work
カリフォルニア大学のモーテン・ハッセン博士が、およそ5000人分のデータセットをもとに「仕事の生産性をガッツリあげるにはどうすりゃいいの?」ってポイントを4つにまとめてくれた良書。くわしくは「カリフォルニア大学式「仕事が超絶にデキる人間」になるための4つのガイドライン」を参照あれ。とにかく、仕事にお悩みの方には非常に効く一冊なんで、こちらも翻訳されたら即ゲット推奨。
小説部門
最初の悪い男
自分だけの世界観を使って孤独に暮らす中年女性が、生命力の塊みたいな若い女性と暮らし始め、やがて「ファイトクラブ」みたいな話になっていく怒涛の一冊。孤独とかコミュ障とか人生の喜びとか、そこらへんの話をギャグ満載に描いてて最初から最後までずっと楽しいです。
ラストは切なくも優しい展開になりますんで、ふだんから「なんか世の中になじめない……」とか「なんか生きづらい……」とか思ってる方には癒しになるでしょう、ストーリー展開が早いんで、海外文学が苦手な方にも入門編としてオススメ。
もうひとつのワンダー
映画版が良かったので原作を読んでみたら、こちらも傑作でした。難病を抱えた少年が生き抜く姿を描く児童小説……というとお涙ちょうだいな展開を予想しちゃうものの、こちらの予想を裏切って「みんな生きるのは辛いんだよ!」って方向へ進む上質な一冊です。もちろん、これを読むためには前作の「ワンダー」も押さえておかねばならんのですが。
百年の孤独
言わずと知れた世界文学の一大傑作っすね。中学時代に読んで「うおー!これはすげー!」と思って以来、29年ぶりの再読であります。
で、久々に読むとさすがに昔ほどの衝撃はなかったものの、逆に「こんな楽しい話だったのか!」みたいな気持ちになりました。余裕で1冊になりそうなエピソードが数行ごとに出てきて飽きないし、凄まじい凝縮感と情報量。畏敬の念の発生装置としては、いまでも有効じゃないかと。
黄泥街
灰とゴミと糞便にまみれた架空の町で、コミュニケーションがまともにとれない人たちが意味不明の会話を続けるだけの200ページ。目立ったストーリーもないので、わけがわからないものをそのまま楽しめる人にだけオススメです。
正直、私もなにが書いてあるのかさっぱりわからんのですが、読み終わったあとは、辺境の国で行われた珍祭に参加したような気分になれて最高でした(笑)
なんかもったいない部門
瞬間のちから
「アイデアのちから 」や「スイッチ!」などの傑作でおなじみハース兄弟の新作。もっと話題になって良さそうなもんですが、世間でほとんど取り上げられてない不遇の一冊であります。妙に値段が高かったり、なぜか横書きだったりと、謎のブックデザインが足を引っ張ってるんでしょうか。
本書は、ハース兄弟の過去の作品にくらべると構成が乱れた感じなんですけど、とくに前半なんかは「もっといい顧客サービスができないかなぁ……」とか悩んでいる人には超役立つと思われます。自分や他人により良い体験をさせるには?みたいな問題意識がある方には激しくオススメ。