「伝わる文章を書きたきゃベタな比喩を使っちゃいかん!」はどこまで正しいのか問題
なんか文章を書いてる人であれば、「ベタな比喩を使っちゃいかん!」ってアドバイスを一度は耳にしたことがありましょう。ベタな比喩ってのは、たとえば、
- 抜けるような青空
- 爪痕を残した
- 陶器のような肌
- 東京ドーム3個分
みたいなやつですね。こういうフレーズばっか使ってると文章を読んでも印象に残らないので、できるだけ決まり文句は削るべし!みたいな話は、いろんな文章読本で見かけるはずであります。
……なんだけど、プリンストン大学などの新しい研究では、「ベタな比喩は実は役に立つ!」って結論になってておもしろかったです(R)。
これがどんな研究かと言いますと、
- 研究チームが、60の定番メタファーを使った文章、60のメタファーなしの文章、60のメタファーを具体的に適用した文章、という3つのパターンを用意する
- この文章を参加者に読んでもらい、そのあいだの瞳孔の開き具合をリアルタイムで測定する(一般的に、瞳孔が開いたときほど、その文章への注目度や集中力が高まったと考えられる)
みたいになってます。ちょっとわかりにくいですが、たとえば研究チームは、こんな文章を用意したんだそうな。
- 定番メタファー文:「いったん原稿を送ったら、あとは編集者の手の届かない状態になる」「有名人のエピソードがメディアにゆがめられた」
- メタファーなしの文:「いったん原稿を送ったら、あとは編集者が何もできない状態になる」「有名人のエピソードがメディアに間違って解釈された」
- メタファーを文字どおりに使う文:「いったん原稿を送ったあと、編集者はスマホを手の届かない場所に置いた」「有名人の声が機械のエフェクトでゆがめられた」
もちろんどれも原文は英語なんですけど、わりと日本語でも似たような表現で通じるのがおもしろいっすね。
すると、結果はメタファーの勝利で、どんなに使い古された表現だろうが、比喩的な表現のほうが参加者の注意は高まったうえに、「比喩があるほうが豊かに見える」と判断するケースが多かったんだそうな。そう考えると、定番の比喩を使いまくるニュースサイトの文章などは、実は読者の注意を保つためのテクニックとしては的を射ているのかもしれませんな(と、定番比喩を使ってみる)。
研究チームいわく、
定番のメタファー(例:アイデアをよくつかんでいる)は非常によく使われる。その理由として、文字通りの言い換え表現(例:アイデアをよく理解している)よりも、より魅力的に感じられ、より集中的な注意を喚起するからだと思われる。
比喩的な文章と文字通りの文章をデータで直に比べたところ、参加者は比喩的な文章ほど「より豊かな意味を伝える」と判断した。ただし、より多くの情報を伝えるとは判断しなかった。
とのこと。比喩で情報量が増えるわけじゃないものの、「なんかいい感じだよなー」と思わせる力はあるんじゃないか、ってことですね。この結論は、文章を書く人にはちょっと悩ましいとこじゃないでしょうか。
まぁこの研究はすべて英語で行われてますので、日本語でも同じレベルの注意力アップ効果があるかは謎であります。そこらへんは注意しつつも、個人的には「ベタな比喩でも意外と効果的」って知見は、日本語でも得られそうな気がしておりますが(だから定番の比喩として生き残ってきたわけだし)。
あと、ここで調べたのはあくまでベタな比喩なんで、「決まり文句」でも似たような話になるのかも不明であります。たとえば、
- このエビ、プリップリ!
- このパンケーキ、フワッフワ!
- ◯◯さんが苦言!
- もっと考えていく必要があるんじゃないでしょうか!
みたいなやつっすね。こちらはメタファーの異化効果がないぶんだけ、注意力をあげるような働きはなさそうに思えますけど、どうなんでしょうねぇ。