読書で収入が上る人と上がらない人はなにが違うのか?を「学び習慣仮説」から考える話
「大学の条件: 大衆化と市場化の経済分析」って本の9章に出てくる「学び習慣仮説」がおもしろかったのでメモっときます。著者は社会工学者の矢野眞和先生で、「学び習慣仮説」をすごーく雑に言うと、
- なんだかんだで将来の収入を決めるのは「何歳になっても学び続ける態度」だよねー
ってのを計量的に示したものです。もともとは「大学教育って意味なくない?いくら勉強しても社会に出てから役に立たないでしょ?」みたいな考え方が事実なのかどうかを確かめた研究でして、5つの大学の卒業生から約4500人に調査を行い、
- 学生時代にどれぐらい勉強して、どれぐらいの知識があったか?
- 大学時代にどれぐらい読書をしていたか?
- 現在の仕事に対する意欲や満足度がどれぐらいあるか?
- 現在の仕事の収入はどれぐらいか?業績や地位はどれぐらいか?
ってあたりを尋ねたんだそうな。このデータを組みああせて、学生時代の経験が現在の仕事におよびす影響を確かめたわけっすね。
で、この研究では、「大学教育は役立つかどうか?」とか「学歴は選抜のシグナルだって考え方は正しいか?」みたいないろんな論点をあつかってるんですけど、ここでは私がもっとも興味がある「読書は収入のアップに影響するのか?」ってとこだけピックアップしてみると、
- 「現在の読書」(いま習慣的に読書をしているかどうか)はその人の所得に有意に相関する(社会に出てから本を読んでいる人は、ちゃんと収入が多い傾向がある
- ただし、「大学時代の読書」は所得に有意な影響を与えず、現在の読書だけプラスの効果をもっていた(学生時代にいくら読書で知識をためこんでも将来の収入には影響しない)
- が、「現在の読書」は「大学時代の読書」に相関する(大学時代に読書をしていた人は、現在も読書を続けていることが多い)
みたいになります。なんだか複雑に見えるかもしれませんが、簡単にまとめると、
- 大学時代にずっと本を読んでる人は、その後もずっと本を読み続けるし、そのおかげで知識が更新されて収入が上がる傾向があるんじゃないの?
- いくら大学時代に本を読んでいても、卒業後に読書をしなくなると知識がアップデートしないから、所得は向上しないんじゃないの?
みたいな話です。つまり、大学時代の読書が「何歳になっても勉強を続ける」って習慣の形成に役立ち、そのおかげでキャリアの成功にもプラスになるんじゃないか?ってことでして、これを「学び習慣仮説」と言ってるわけですね。知識はつねに更新していかねばならないものの、学生時代につちかった「ずっと勉強するぞ!」て経験の蓄積が、現在の所得を左右しているのではないか、と。
矢野先生いわく、
読書をしているサラリーマンの所得は高いが、読書するサラリーマンは、大学時代も読書をしている。 言い換えれば、大学時代に読書をしていないサラリーマンは現在も読書しない。 だから、所得も上昇しない。
とのことで、なんだかんだんで「学び続けるぞ!」って態度が大事ってことで、これは読書好きにはうれしい話ですねー。
ただし、同時に矢野先生は以下のような指摘もしておられます。
- 人生の成功は素質と運と努力の組み合わせで決まり、収入を左右する原因をいくら探ってみても、全体の6割ほどは運によって決まる可能性が高い
当然ながら人生は運の要素が非常に大きいので、いかに本を読み続けていようが報われないケースもあるんだよーってことで、これまた真実でありましょう(個人的には読書自体を楽しめればそれで勝ちだとも思いますが)。
この知見をもとに、先生は「素質も運もコントロール不能だから、唯一残されたコントーラブルな要因である「学び続けるぞ!」って態度を保つしかない」と主張しておられました。こちらも、まことにごもっともという感じですねぇ。
もっとも、個人的には「運は試行回数を増やせば確率を上げられるから、ある程度まではコントローラブルだよなー」とは思ってますんで、そこは取り組んでみてもいいかもしれません(具体的な手法は「不老長寿メソッド」などにちろっと書いております)。