成功のため必要なのは「能力」かそれとも「幸運」か?みたいな研究の話
「成功には幸運が必要!」ってのは当たり前の話で、才能を持った人が運に恵まれなかったせいで芽が出ないようなケースはざらにあるわけです。そのため、経済学者のロバート・H・フランク先生などは「成功なんて運なんだから、成功者はもっと所得を分配しろ!」(超意訳)といった主張をしておられます。
ただし、ここには心理上の問題があって、
- 成功した人ほど「この成功は実力なのだ!」って思い込みやすい(これは先行研究で何度も確認されている)
- 成功してない人も、成功した人たちの自信にダマされて「実力を伸ばさねば!」と焦る
みたいなバイアスのせいで、運の重要性が軽んじられる方向に向かいがちなんですよ。そりゃあ所得の再分配も進まんわ、という。
で、新しい研究(R)では、中央ヨーロッパ大学などのチームが「運はどこまで必要か? その運を左右するものはあるのか?」ってのを調査してくれてました。どんな研究だったかと言いますと、
- 映画、書籍、音楽、科学などのジャンルから、いろんな有名人のキャリアの変遷を調べまくる
- これを数理モデルに入れて、ランダム性と個人の能力が「作品のヒット」にどう影響するかを割り出す
みたいになってます。調査の対象になった人はジョージ・ルーカスとかシナトラといったレジェンドから、デヴィッド・ゲッタみたいな最近の人も入っておりました。
その結果をすごーくざっくりまとめると、こんな感じになります。
- 大ヒットの発生は本質的にランダムなので、いつになったら売れる作品ができるのかや、科学的な大発見が生まれるかはまったく予想ができない
- 個人のキャリアでヒットが生まれるのは、人生で初の作品かもしれないし、人生で最後の作品かもしれない。こちらも完全にランダムなので、作品発表のタイミングからヒットは読めない
- ランダム性はクリエイティブな分野すべて同じような効果を持ち、その役割は個人の能力がもたらす影響よりも大きい
- ただし、ジャンルによって運の影響度はやや異なり、映画プロデューサー、電子音楽系のアーティスト、本の著者、宇宙科学者、政治科学者、生物学者などは、より幸運の影響に左右されやすい
- 一方で、ヒップホップ、クラシック、コンピュータサイエンスなどは運の影響を受けにくい(ただし、あくまで微妙な差ではありますが)
といった感じで、つまるところ「やっぱ個人の能力より運が大事!」「結局いつヒットするかは読めない!」ってな傾向が出ておりました。まぁそうですよねー。
さらに、研究チームは、「ヒットが続く人の違い」も調べてまして、こんな発見をしておられます。
- ヒットを続けられる人には2種類あり、もっとも多いのがまず最初に良い作品を作り、その後に関連する人たちのあいだで中心的な存在になったおかげで成功が持続するパターン
- もうひとつが、手始めに人的ネットワークの中心になっちゃって、人脈やリソースにアクセスしてからヒットを生み出すパターン
これも納得できる話で、確かに「あの人、よくわからないけどいつも有力者の近くにいるなー」みたいな人が、いつの間にやら人脈のおかげでヒットを飛ばすケースはたまに見ますからね。いずれにせよ、ヒットを続けるには他者のリソースが欠かせないってのは共通してますんで、そこは大事にしておきたいところです。
で、このように言うと「よし!ならばまずは人脈づくりだ!」と思う人もいるかもですが、残念ながら、
- 人的ネットワークの中心に入れるかも、完全にランダムで決まる!
なんて結果が出ちゃってたりします。もちろん個人の能力が無意味とは言わないものの、なんだかんだで最終的には運だってことですな。
まー、この結論をどう考えるかは人それぞれでしょうが、すでに成功を収めている人には謙虚さをもたらしてくれるでしょうし、成功にあがいて落ち込んでいる人にはいくばくかの慰めと希望になるのかもしれませんねぇ。