今週末の小ネタ:ワーキングメモリの訓練で頭はよくなるか? 頭が良くて魅力的に見えるしゃべりかたは? 習慣化には厳しいルーチンが必要?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
ワーキングメモリの訓練で頭はよくなるか?
ワーキングメモリは大事!ってのは間違いない話。ワーキングメモリってのは、頭の中で短期的に情報を操作するために使う記憶で、こいつが優秀な人は成績がよく、さらにはメンタルも健全であるって報告はめちゃくちゃあるんですよ。
では、具体的にワーキングメモリを鍛えるにはどうすりゃいいのか?ってことで、このブログでも2016年に簡単なまとめを書いたことがありました(もう5年前か……)。ただ、その後も、ワーキングメモリを鍛える方法については決定版と言えるものがなく、「Nバック課題とか良さそうだけど、実際に知性があがるかは謎だよなー」って感じだったんですよね。
といった状況下で、「ワーキングメモリのトレーニングには効果があるのか?」をがっつり調べた研究(R)が出てまして、非常に参考になりました。
これは225人の健康なドイツ人の子どもを対象にした研究で、スタート時の年齢はだいたい約14歳。調査の開始時と終了時、ワーキングメモリと知能を評価したうえで、
- みんなに定番のワーキングメモリの訓練を割り当てる(アルファスパン、記憶更新、Nバック課題)
- 訓練は2週間ごとに1時間のペースで行われ、研究の期間中、合計で40時間の訓練を受けた
- 2年後、みんなのワーキングメモリと知能が改善したかどうかを調べる
みたいになってます。ここで行われたトレーニングは、いずれも複雑な情報を頭の中だけで操作するってのがポイントで、これによってワーキングメモリに負荷をかけて鍛えていくわけですな。
でもって、2年後がどうなったのかと言いますと、
- 訓練を受けた子どもたちには、一般的なワーキングメモリの向上が見られた
- しかし、ワーキングメモリが改善されても、知能への転移は観察されなかった
だったそうです。トレーニングによってワーキングメモリの性能は上がったものの、それによって実際に頭が良くなるってことはなかったらしい。うーん、解釈が難しい結果だ……。
ワーキングメモリが上がったのに知能には影響がなかった理由は謎でして、研究チームは「優れたワーキングメモリが推論や学習に役立つことは明らかだけど、流動性知能が働くためにはほかの要素も必要なのかも?」ぐらいに推定しておられます。まー、知能ってのは複雑ですもんね。
ちなみに、研究チームいわく、
これまで研究されてきた脳のトレーニングの中で、確実に知能を向上させることが判明しているものはただひとつ、「教育」しかない。幅広く脳を使うような行為を、1日数時間ずつ何年にもわたって「投与」するしかないのだ。
だそうです。確かに「頭がいい」って状態にはいろんな要素がからむんで、たんにワーキングメモリを鍛えても仕方ないだろうなーってのは理解できるとこっすね。そのためには「教育」の積み重ねしかないってのは、当たり前ながら納得の結論ですねぇ。
頭が良くて魅力的に見えるしゃべりかたのコツ
「頭が良くて魅力的に見えるしゃべりかたのコツはこれだ!」みたいなデータ(R)が出ておりました。まずはざっくりと実験の内容をチェックしておくと、
- 40名(男女各20名)の参加者を集め、「魅力的に見えるように話をしてね!」「自信満々に見えるように話をしてね!」「頭が良く見えるように話をしてね!」「偉そうに見えるように話をしてね!」とお願いする
- それぞれの声を記録して、実際にどのような印象があるかを第三者に評価してもらう
みたいになります。声の出し方によって人に与える印象はどのように変わるのか?ってのを調べたわけですね。
すると、声の出し方と個人の魅力にははっきりした相関がありまして、
- 基本、ゆっくり話したほうが、より頭が良さそうにに聞こえる
- 低いトーンで話すと、男女ともより魅力的な印象をあたえられる(声のピッチを下げ、よりロングブレスで話し方をする)
だったそうな。とにかく低いピッチでゆっくり話すほうが良い印象を与えやすいらしい。さすがに戦場カメラマンレベルで遅くするのはマズいでしょうが、確かにハイトーンの高速スピーチだとミニオンズみたいな印象は与えそうな気がしますな。
研究チームいわく、
私たちのサンプルでは、魅力的な印象を与えるために、男女とも普段の会話に比べて話すスピードが遅くなった。おそらく、声のスピードを遅くすることは、相手に親近感を伝えようとするために進化した試みなのだろう。事実、話す速度を下げると、話し手の評価が上がっていた。
ってことでして、少しでも知的で魅力的に見せたい人は、とりあえずゆっくりしゃべっておいたほうがよさげです。
あんま厳しいルーチンを設定しすぎると習慣化に失敗するかもよ
良い習慣を作るには「同じことを何度もくり返す」作業が必須。要するに、ルーチンを決めてリピートするのが大事ってことですが、「あんま厳しいルーチンを設定すると失敗するかもよー」みたいなデータ(R)が出てておもしろかったです。
これはは、グーグルの従業員2508人を対象にした実験で、
- まずすべての参加者に「ジムに行って運動できそうな日を1日2時間だけ選んでねー」と指示
- その後、参加者を5つのグループに分け、そのうち2つグループには「これから4週のあいだ、自分で決めた時間に30分の運動をするたびに、3ドルまたは7ドルをあげますよー」と伝える
- 残り2つのグループには、「決めた時間とは関係なく、とにかく30分の運動さえすれば3ドルまたは7ドルをあげますよー」と伝える
- 最後のひとつのグループには、運動をしてもお金はあげなかった
って感じで、運動のルーチンを「時間厳守」と「時間は柔軟でOK」ってパターンに分けて、そのうえでみんなに報酬をあたえてどんな違いが出るのかをチェックしたわけですね。
その結果、どんなことが起きたかと言いますと、
- 運動のたびにお金をもらえたグループは、いずれもお金をもらえないグループより多く運動した
- 柔軟な時間に運動ができたグループは、時間厳守のグループよりも、週に1回以上ジムに通った回数が4ポイント以上高かった
- 運動でもらえるお金の額は、運動をする回数に影響を与えなかった
だったそうです。全体的には、柔軟なスケジューリングのほうが習慣化をしやすい傾向がありまして、実験後に行われた追跡調査でもその効果は続いたらしい。
研究チームいわく、
厳格なルーチンは、習慣化において逆効果になってしまうかもしれない。現代のように変化のペースが速い環境においては、厳格なルーチンは、柔軟なルーチンよりも効果が薄いと考えられる。
もっとも、スケジュールが安定したような環境では、厳格なルーチンの効果が高くなるのかもしれないが。
とのこと。現代の仕事はあまりにも変化が大きいので、厳格なルーチンは逆に習慣化の足を引っ張る可能性があるんじゃなかろうかってことで、わかるなーって感じですね。ってことなんで、運動やダイエットなどのゴール設定を過度に高くしがちな人は、「都合のいいときにやるぞ!」ぐらいにしておくのもいいでしょうな。