このブログを検索

目標設定の超定番「SMART」ってのはどこまでデータの裏づけがあるのか?

 


「SMART」っていう目標の設定法があるじゃないですか。これは、私たちがなんらかの目標を決める際に守るべき基準をまとめたもので、

 

    1. S(具体的)=できるだけ具体的に明確な目標に落とし込む
    2. M(計測可能)=目標の達成度が数字で把握できる
    3. A(達成可能)=夢のような目標ではなく、現実に達成できそうなレベルを選ぶ
    4. R(関連性)=自分に関係があるかどうか
    5. T(締め切りが明確)=いつまでの目標を達成するかを決める

 

の頭文字をとったものです。要するに「ダイエットするぞ!」みたいにフワッとした目標を立てるのではなく、「3ヶ月後までに(期限が明確&具体的)、2キロの体脂肪を落とす!(達成可能&計測可能&関連性)」みたいに、SMARTの要素を取り込んだほうがゴールを達成する確率が高まるって考え方ですね。

 

 

もう40年以上も前に発表された考え方ですが、いまもビジネス書や自己啓発書などでは定番のネタでして、実務で使っている方も多いのではないでしょうか。事実、米国スポーツ医学会などもSMARTを推奨してたりしますしね。

 

 

が、ここで問題なのは、「SMARTって意外とデータの裏づけがなくないか?」ってところです。もともとSMARTがはじめて世に出た1981年の文献(R)には、理論的な枠組みや実証的な証拠への言及はなく、あくまで実務家の経験から生まれたフレームワークでしかなかったんですよね。

 

 

もちろん、その後はSMARTに関する研究も行われてはいるものの、その結果はバラバラだったりして、正味な実力はよくわからなかったんですよ。定番のテクニックに意外と裏づけがないってケースはよくあることですが。

 

 

そんな状況下、「SMARTってどこまで証拠があるのか?」を突き詰めたナラティブ・レビュー(R)が出まして、かなり参考になりました。

 

 

これはサザン・クロス大学などの先生方によるレビューで、SMARTに関する過去の研究から147件をピックアップ。ここから「結局のところSMARTってどこまで証拠があるの?」を掘り下げてくれたんですよ。これは本気で助かる……。

 

 

で、結論から言うと、チームはかなりSMARTに否定的でして、いくつかの批判を行っておられます。その中から、個人的に勉強になったポイントをまとめると、以下のようになります。

 

 

  • 問題1 SMARTの「S」が、過去の研究と食い違う問題

    • SMARTは「目標の具体性」を重視するが、実はこの要素は、そこまで確立されたものではない。運動の目標設定を調べたメタ分析では、具体的な目標と曖昧な目標を比べた場合、ゴールの達成度に有意差がないと報告している(McEwan et al., 2016)。つまり、目標は具体的でなくても、運動の量を増やす効果はある


    • さらに、ビギナーが「学習の初期段階」などに「目標の具体性」を重視すると、逆にパフォーマンスが低下する可能性も指摘されている。たとえば、運動ビギナーがはじめて運動をするときは、具体的でない目標のほうが運動量が増えるケースは多い。これは、ビギナーほど具体的な目標に失敗するケースが多いため、そのせいでモチベーションが下がるのだと思われる。


    • 以上のことから、SMART目標でよく使われる「具体的」は、目標達成に効果がないどころか、悪影響をもたらす可能性もある。

 

 

  • 問題2 SMARTの「A」と「R」も、過去の研究と食い違う問題

    • SMARTは、目標の「達成可能」と「現実的」を重視するが、実際には、目標は「挑戦的」であるほうがゴール達成率は高くなる。これは、広範な研究によって確認された事実で、目標は「ちょっと達成が難しいかも……」と思えるぐらいチャレンジングなほうがよい(Locke & Latham, 1990, 2013)。


    • 具体的な研究では、挑戦的な目標を持った人は、現実的な目標を持った人よりも運動が多くなる例が多く、目標の難易度が少し高いほうが身体活動は増えやすことが報告されている。同じような現象は子供を対象にしたテストでも認められている。


    • つまり、SMARTの「A」と「R」を支持する証拠はないと考えられる。

 

 

  • 問題3 SMARTは目標の種類を無視してる問題

    • 目標には多くの種類があり、それぞれが異なるパフォーマンスをもたらしうる。研究では、私たちが抱く目標には大まかに20種類以上あり、それぞれが個人のパフォーマンスや経験に異なる影響を与える(Grant, 2012)。


    • 代表的な目標のパターンとしては、パフォーマンス目標と学習目標、行動目標と成果目標、ポジティブな目標とネガティブな目標、他者と比べる目標と過去の自分と比べる目標、短期(=今日、今週)目標と長期(=今年、継続)目標などがある。このような目標の複雑さを無視して、ひとつのフレームワークに落とし込むのは無理がある。


    • たとえば、「1日1万歩を目指す」といった日単位の目標と、「1週間150分以上を目指す」といった週単位の目標を比べた場合、前者は身体活動を増やすのに有効だったが、週単位の目標は有効でなかった。つまり、同じような目標をSMARTで立てたとしても、一方は効果があり、他方は効果がない可能性がある。

 

 

  • 問題4 SMARTの基準に重複がある問題

    • SMARTの頭字語には、しばしば重複が見られる。たとえば、「測定可能な」目標のなかには、すでに「具体的」という要素が含まれており、両方の言葉を使わねばならないケースは少ない。


    • 同じように、「現実的」と「達成可能」という用語も、ほぼ似たような考え方であり、やはり両者を使わねばならない理由がない。

 

 

ってことで、いろいろ書いてきましたが、いずれも「そうですよねー」って感じでして、非常に納得させられました。確かに、「ちょっと挑戦的なゴールのほうが達成度が高い」ってのは「ヤバい集中力」でも書いたことですしねー。

 

 

まー、これらの話をもって、必ずしも「SMARTは否定された!」と言えるわけじゃないものの、「妥当性が高い批判がいっぱいある」ってところは知っておいたほうがいいでしょうね。とりあえず、自分の本とかでは取り上げないかな……。


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。