【質問】死んでる菌を使った腸内細菌サプリって意味あるんですか?
こんなご質問をいただきました。
腸内細菌のサプリには、生きた菌と死んだ菌の両方がありますよね?生きた菌のほうが体に良いイメージがあるのですが、死んだ菌にも意味があるという話も聞きます。死んだ菌を使ったサプリには、本当に意味があるのでしょうか?
このブログでは、定期的にプロバイオティクス( 腸内細菌サプリ)の話題を取り上げてまして、「風邪に良いかも?」とか「脳に良いかも?」といった報告が多く出てたりするわけです。
しかし、ご存じのとおり、腸内細菌サプリには「生菌」と「死菌」の2種類があるんですよね。死菌ってのは、名前のとおり加熱処理などで不活性化させた細菌で、海外では「ゴースト・プロバイオティクス」などと呼ばれたりもします。「ゴースト・プロトコル」みたいで、かっこいいですね。
当然、死んだ菌よりは生きた菌のほうが体に良さそうな気がするわけで、果たして「死菌を使ったサプリに意味があるの?」ってのは、気になるところです。
で、まず死菌の効果についてざっくりした結論から申し上げますと、
- 意味はあるだろうが、さすがに生菌よりもデータが不足しているなぁ……
ぐらいのお答えになります。もうちょいデータは欲しいんだけど、私としては、死んだプロバイオティクスでもメリットはあるだろうと思ってるんですよね(ちなみに、厳密な定義だと死んだ細菌はプロバイオティクスとは言えないんですが、ここでは世間で使われる一般的な用法を採用しておきます)。
そもそもの話をすると、死菌のメリットが認識され始めたのは1980年代初頭のころで、だいたいこの時期に、熱で殺した乳酸菌に関する研究が発表され始め、消化器系のトラブルに効果があることが示され出したんですよ(R)。どうやら、腸内細菌ってのは、熱で不活性化された後でも、体に良い成分を分泌してくれているらしいんですね。
でもって、ここ10年ぐらいで、この「ゴースト・プロバイオティクス」に関する研究が急速に進みまして、少しずつ生菌との違いがあきらかになってきた感じです。いまの時点では、死んだプロバイオティクスに関する研究のほとんどは、消化器の健康に焦点を当てたものが多くて、
- 胃腸にたくさんのガスがたまった状態に効いた(R)
- 赤ちゃんが胃腸に激しい痛みを感じる(R)
- 下痢などにも効く(R)
- 腸内環境の問題が原因で起きるいくつかの皮膚疾患(アトピー性皮膚炎など)の管理にも使えるかも(あくまで動物実験)(R)
- ストレスや不安の管理など、より多様な分野での利点がある可能性がある(あくまで動物実験)(R)
といった報告が出ております。まだ動物実験も多い印象ではありますが、消化器系のトラブルについては、かなり見込みがあるんじゃないでしょうか。
さらに、死菌には、生きた細菌を上回るメリットも指摘されてたりもします。一部の研究では、熱で不活性化した菌は、生きた細菌の欠点を打ち消してくれる可能性も指摘されているんですよ。こちらもざっくり申し上げますと、
- 腸のバリア機能がちゃんと働いていない人が生菌を使った場合、腸壁から細菌が血流に吸収されてしまうリスクが存在する(わずかなリスクですが)。一方で、加熱殺菌された菌には、腸壁から体内に入ってしまうリスクはない。
- それと同時に、死菌には抗生物質の耐性遺伝子を獲得・伝達するリスクもないし、新生児の場合は腸内フローラの正常なコロニー形成を阻害するリスクもない。
- 生きている細菌は安定性が低く、保存の状態によっては劣化が起きちゃうが、死菌にはそのようなデメリットもない(当たり前の話ですが)
-
腸内細菌を熱処理する際に細胞壁が破裂し、DNAなどの細胞内容物や、ペプチドグリカンやリポテイコ酸などの細胞壁を構成する成分が放出される(どちらも免疫調節作用で知られている)(R)
といったあたりがあります。一般的には生菌のほうが良さそうな印象がありますけど、必ずしも生菌が上だってこともないんですよ。一方で、死菌には生菌のデメリットを克服しつつ、生菌のメリットをそのまま得られる可能性も十分にありまして、そのへんの判断はちょっと難しいんですよね。
ということで、いろいろ書いてきましたが、以上の結論は「生菌より死菌が良いのだ!」と言いたいわけではないので、そこはくれぐれもご注意ください。加熱殺菌された細菌が人体にどんな影響を及ぼすかについては、まだ解明されていないことが多いもんですから(それは生菌も同じですが)。
ただし、死菌でも腸のバリア昨日を改善したり、体内の炎症をやわらげてくれる可能性は十分ありますので、個人的には死菌サプリでも意味はあるだろうなと思っております。