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「時間が足りない!」の焦りから解き放たれるのに役立つ小説8選



こないだお伝えしたとおり、新刊「YOUR TIME ユア・タイム」のイベントを紀伊國屋書店さんでやってきました。中学のころから通っていた書店さんでイベントができるのは感慨深いぜ……。

 

 

で、今回のイベントは「ユア・タイム」の販促で行ったものですが、せっかく紀伊國屋さんでやらせてもらうので、「時間感覚の調整に効く小説をたくさん紹介するぞ!」というスタイルでやらせてもらいました。

 

 

これは「ユア・タイム」の4章で伝えているポイントでして、この章では、現代人は忍耐が足りないせいでいつも時間が足りない感覚に陥っていおり、その対策として小説が効くよーという話をしているんですよ。くわしくは「ユア・タイム」をお読みいただければ幸いですが、なにせ現代人は集中力が激減しているので、脳の我慢力を鍛えるのは超大事なんですよね。

 

 

ってことで、「焦りのない時間」を生み出すために、このイベントでは、以下の小説を紹介させていただきました。興味がある方はどうぞー。

 

 

三体 三部作

 

当ブログでも何度か取り上げてきた超壮大SF。尻上がりに話がデカくなっていって、最後は1890万年後の未来とか出てきますんで、そんな壮大な時間の流れに身をゆだねるだけでも、時間の感覚が調整されるはずであります。そもそもエンタメとして激しくおもしろいので、広くおすすめできる一冊ではないかと。

 

 

 

順列都市

 

人の精神活動をモデル化してVR空間に走らせる話で、「私たちは一貫した時の流れを感じているが、そんなものは幻想だ!」という考え方が、大きなテーマのひとつになっております。要するに、「ユア・タイム」の1章で書いたことと似たような話題を扱ってまして、「自己の一貫性とは……」とか「時間の流れとは……」という根本的な問題に興味がある方には超おすすめ。内容はムズいですけど、わからないとこはなんとなく読むぐらいで構いませんので。

 

 

 

魔の山

 

 

言わずと知れた、トーマス・マンの名著。いろんなテーマをふくむ作品なんだけど、全体的には「環境の違いにおける時間の流れの変容」をあつかっていて、「退屈なときは時間が長くなり、後から振り返ると時間が短くなる」といった現象を、読み手に味わわせるようにできているんですよね。要するに、私たちが日常で味わう時間の変化をピンポイントで体感させてくれる、時間変容シミュレーター文学なんですよね。長い小説ですが、そんな視点から読みすすめると良いのではないかと。

 

 

 

ダロウェイ夫人

 

主人公の記憶と意識の流れを書いた名作。なんのストーリーもなしに主人公の内面がひたすら描かれ続けるので、最初のうちは「読みづら!」と思うかもですが、だんだん「ダロウェイ夫人」のノリに慣れてくると、「これが人生だなー」って気分になるから不思議なもんです。私の解釈だと、これは「人間の時間は脳内にわきあがる断片的なイメージのつながりから生まれる!」って事実を、そのまんま書いたものだと思ってまして、そのように読むと時間に対する理解が深まって良いのではないでしょうか。

 

 

 

密林の語り部

 

アマゾンの部族の語り部を描いた作品。もともと「アマゾンの現住民は西洋人と時間の感覚が違う」って話はよく言われてたんですが、本作では、彼らに特有の時間感覚をそのまま描いた内容になっております。ここに登場する語り部の物語は、徹底的に時系列がバラバラで、思いつくままに話の時間軸が飛び、あるときは世界の始まりについて語ってみたり、そうかと思えば昨日の狩りについて話してみたりするんですな。つまり、時間の枠組みを取っ払って、完全に自由に話を展開させていくわけです。

 

なので、慣れるまではめちゃくちゃ読みにくいものの、小説のノリが少しずつわかってくると、なんだか時間から自由になったような感覚になるんですよ。「ユア・タイム」にも、「『時間は未来へ一直線に進む』という認識が現代人にプレッシャーを与えている」って話を書きましたけど、そんな状態から解放される助けになるんですね。

 

 

 

アフリカの日々

 

アフリカの農園に移り住んだ西洋人の体験談をまとめたエッセイ文学。「最高の体調」にも書いたとおり、アフリカの時間感覚は西洋とは異なるりまして、一部の民族では「1日」という言葉すらないなんて話もあるんですよね。本作では、そんな時間感覚の違いが美文で描かれていて、「西洋から見た異質な時間」の感覚を理解しやすい作品になってるのではないかと思うわけです。

 

 

 

裸のランチ

 

1959年に出版された小説で、「麻薬中毒の幻覚や混乱した超現実的イメージ」が中心になってます。明確なストーリーはほぼないし、「まぴくぴく鼓動する目が一つついたピンク色のぴかぴかした卵」みたいに、意味不明の珍文がひたすら並ぶ小説なので、かなりの人は前半の数ページで挫折するはず。なんせ作者自身が「自分の小説は二度と読めない」と言ってるぐらいなんで、読者が挫折するのも当然でしょう。

 

なんだけど、こういう珍文を読んでいると、だんだん脳がボーッとしてきまして、なんだか時間が止まったような気分になるから不思議なもんです。意識のレベルが低下してきて、それと同時に時間の感覚も変わっていく感じっすね。このような、時間が消えたような感覚を味わいたい方におすすめです。

 

 

 

フィネガンズ・ウェイク

 

「文学史上で最も難しい小説!」とか「人類には早すぎる小説!」などと言われる、1939年の超珍作。「川走、イブとアダム礼盃亭を過ぎ、く寝る岸辺から輪ん曲する湾へ」みたいに、少しも理解できない文章が2000ページ近く続く地獄の書であります。正直、この本を読むのは苦行中の苦行。

 

かくいう私もストーリーはほぼ理解できていないわけですが、どうにか我慢に我慢を重ねて読んでいくと、やがて時間が伸びたような気分になるから、これまた不思議なもんです。おそらく、脳内がカオスな情報で満ちあふれるおかげで、「ユア・タイム」の4章で紹介したような印象的な記憶が増加し、おかげで時間の流れが遅くなったんじゃないかと思ってますが。

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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