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2023年5月に読んでおもしろかった6冊の本

 

月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2023年5月版です。ここで取り上げた以外の本や映画については、TwitterInstagramのほうでも紹介してますんで、合わせてどうぞー。しかし、本の執筆が終わらん……。

 

 

 

WORLD WITHOUT WORK――AI時代の新「大きな政府」論

 

「AIで仕事は減るのか?」って問題についてはいろんな説がありまして、ざっくり「AIは人間から仕事を奪うのだ!」派と、「逆にAIが新たな雇用を生むのだ!」派にわかれるわけです。

 

そこで、本書では、これまでの技術の進化と雇用の歴史をおさらいしつつ、ここにAIだけの特性も交えて今後を考察していくんですな。その予想が当たるかどうかはわからないものの、従来の論点がうまくまとめられていて、前半を読むだけでも未来の見通しが利くようになるはず。

 

で、著者の結論は「やっぱAIで仕事はなくなっていくよねー」って感じなんですが、本書の後半では、そこからさらに「人間の尊厳とは?」「政府の役割とは?」「教育の重要性とは?」みたいなとこまで射程を伸ばしていくのがまたオモロ。AIの問題に興味がある方であれば、基本書のひとつとして参考になるでしょう。ちなみに、個人的には「今後の世界は、すべて競技エンタメになるのかなー」みたいな感想を持ちました。

 

 

 

もうダメかも 死ぬ確率の統計学

 

人は必ず死ぬ!しかも、思わぬことで死ぬ!ってのは人生の真実ですが、とはいえ「全身麻酔で死ぬ可能性は?」「タバコを4本吸うと寿命はどれぐらい縮む?」「CTスキャンで死ぬ確率は?」といった細かなリスクについて、正味なところはまったくわからないわけです。

 

そこで本書は、「マイクロモート」(平凡な1日の死亡リスクを表す単位)と「マイクロライフ」(平凡な人間の人生を100万等分した単位)を開発。この尺度をベースに、いろんな行動の死亡リスクを、わかりやすいように示してくれるんですね。

 

例えば、「喫煙者は非喫煙者より肺がんを患う確率が50%上がる」みたいな表現はよく聞きますが、「たばこを4本吸うと寿命が1日あたり1時間30分減る」と言われたほうが、ぎくっとなるじゃないですか。そんな事例がたくさん載ってて、読み物としておもしろいんですよね。

 

もちろん、これを読んだとて自分がいつ死ぬかはわかりようもないんですけど、「死」への解像度は格段に高まるはずであります。

 

 

 

会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか

 

「どうすれば会話上手になれるのか?」ってのを教えてくれるハウツー本ではなく、「人にとって会話とはなんぞや?」「人間の会話を無意識に支配する暗黙のルールとはなにか?」をひもとく一冊。「人間は0.1秒ぐらいで会話のターンを切り替える」とか「返事が200ミリ秒を過ぎると、相手はこちらの意図を疑う」とか、多くの人が知らずのうちに使っている会話のルールがいろいろ出てて楽しいです。

 

まぁこれを読んでコミュニケーションに活かすのは不可能でしょうが、「そもそも会話の研究ってこうやるのか!」というおもしろさがありまして、そこらへんが読みこどころでしたねー。

 

 

 

ザ・パターン・シーカー: 自閉症がいかに人類の発明を促したか

 

共感する女脳、システム化する男脳」で有名なサイモン・バロン=コーエン先生が、「自閉症スペクトラムは世界の規則性を探す能力が秀でており、それゆえに人類を繁栄させてきた!彼らこそパターンシーカーなのだ!」って仮説を述べた本。先生がずっと提唱している「システム化脳」が、最新バージョンになってもどってきた!って感じで、楽しく読ませていただきました。

 

ここで展開される認知進化の流れについては、まだ異論も多いところかと思いますけども、「世界にパターンを見出す人は、if-and-thenの思考でものごとをとらえている」って考え方には納得するところが多く、この仮説自体がパターンシーカーの思考過程を覗き見てるみたいでいいですねー。

 

ちなみに、巻末には自分の脳タイプを判断する簡単なテストもついていて、私はバランス型でした。この結果もわりと納得。

 

 

 

43回の殺意

 

2015年に起きた少年殺人事件のルポルタージュ。ある少年が命を落とすまでのプロセスを追いかけ、なにかを声高に糾弾するでもなく、結論ありきで話を進めるでもなく、ただ事件発生のプロセスを丁寧に積んでいく書きっぷりに感心しまくり。

 

誰が悪いかと言えばもちろん加害者が悪いものの、事件が起きるまでプロセスの複雑さを見ると、すべてのパーツが悪い方向に重なってしまったとしか言いようがなく、被害者の父親が言う「運が悪かった」という一言が重すぎ。最後は、誰の人生にも起こり得る理不尽さをガツンと突きつけられまして、普遍性のあるドキュメンタリーになっておりました。

 

 

 

 

シティライツ

 

大喜利が強い漫画家さんだとは知ってたものの、作品を読むのは初めて。なんというか大喜利の答えをそのまま伸ばしてショートストーリーにした感じというか、ギャグでもあり、あるあるでもあり、シュールでもあり、文学でもあり……という感じで、読み終わったあとにはなぜか生きる気力がわいてくるという不思議なセンスで、めっちゃおもしろかったです。空気階段とかが好きな人がハマりそうな気がする。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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