スタンフォード大学の専門家「『自分』なんて他人との関係で生まれるフィクションだと考えると楽だぜ!」
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「無我(Selfless)」ってタイトルの本を読みました。著者のブライアン・ローリーさんは、スタンフォード大学の組織行動学の先生らしい。
で、本書は「自己ってなんなの?」「“自分を自分だと認識する”とはどういう現象か?」を掘り下げた内容でして、私の「無(最高の状態) 」に近い感じです。こういう本を組織行動学の先生が書いてるのがおもしろいですね。
本書のなかから、個人的に勉強になったポイントをまとめると、以下のようになります。
- たいていの人は、「自己は体の中にある」と考えているし、実際の感覚でも体験しているが、実際には、自己の感覚は余裕で肉体の外に出ることができる。
- たとえば、VR技術を使った実験では、参加者に「自分の後ろ姿を自分で見ている状態」見てもらうと、自分のなかにある「自己」が、目の前のアバターに向かって流れ出す感覚を得られる。
これは小規模な実験だが、「自己は体内にある」と思いがちな体験が、決して当たり前ではないことを示している。
- 自己の感覚を外に出すことができるように、他の人の感覚を自分のなかに取り込むこともできる。たとえば、参加者の前に他人を座らせ、その人の顔を羽でなでながら、同時に自分の顔をなでられるのを見ると、その後、相手の感覚が自分のなかに取り込まれたように感じられる。
この現象は、私たちが他者の感覚を取り込むことで、自己の感覚を広げられるという能力を持っていることを実証している。
- 事実、心理学者のエレイン・アーロンらの研究では、相手と親密な関係を気づいている人ほど、他者の自己を自分の自己の中に取り込んでいるという事実が示されている。
- 私たちが取り込むのは「他者」だけでなく、コミュニティ、家族、国家なども取り込むことができる。この働きにより、私たち自分のアイデンティティを定義し、そのコミュニティにいることができるかが決まる。
それは「性別」についても同じで、男であること、女であること、あるいはノンバイナリーであること、その他の性別であることなどは、肉体の作りだけでなく、コミュニティの中で決定される。
着る服や身のこなし、使用する代名詞などは、すべて「特定のジェンダー・アイデンティティ」という共同体の創造物なのだと考えられる。このように、アイデンティティの一部は、私たちのコミュニティにおける人間関係によって決定される。
- そのため、「自己」を持つことは、自由の制限につながる。自由とは、他者に束縛されることなく、自分の望むことを言い、行うことだが、上で見たとおり、「自己」とは人間関係やコミュニティーの中で構築されるものだからである。
私たちが持つアイデンティティは、私たちを取りまく人間関係や、他の人々が私たちをどのように見ているか、どのように関係しているかの関数だと言える。
- もっとも、自己が自由を制限するといっても、この制限が心地よく感じられることは十分にありえる。このような制限は、「私は自分が何者であるかを理解している」「人々が私に何を期待しているかがわかる」「人々が私にどのように関わるかを理解している」といった感覚を与えてくれるからである。自己の制限はわずらわしい一方で、世界の中で私を位置づけ、自分という存在を安定させてくれる。
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さらに、「自己」は「人生に意味がある」という感覚を生み出すのにも役立つ。ローリー博士自身が行った調査では、現在の自分が将来も続くと信じている人ほど、人生が有意義であるという感覚も大きい。
おそらく、人生に意味や目的を持たせるためにも、「自己」は有効かもしれない。
- 人間は、自分がいずれ死ぬことを自覚している唯一の生物である。社会心理学者の中には、人間は生を欲するように進化しており、そのため、あらゆる人間の文化は、死への恐怖からうまれていると考える人もいる。これは「恐怖管理理論」と呼ばれる。
例えば、死後の世界を信じていない人に死を意識させると、「私が住む国の文化は永遠に存在する!」と考える傾向がある。これは、自分の国家で定義された「自己」を拡張して、死への恐怖を乗り越えようとする試みである。
- 以上の考え方をまとめると、私たちの「自己」は、コミュニティ内の関係の中に存在し、他人との短いやり取りから構築される。その働きは、自分という存在の一貫性を保つためのものだが、他方では自由を制限しするデメリットも持っている。
最も重要なことは、「私」という感覚が、自分一人では存在し得ないということを理解することである。私たちは他者との相互依存で形作られた存在であり、他人なくして自分はありえない。この事実をみんながもっとはっきりと認識したら、世界はもっと良くなるんじゃないかなぁ……。