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依存症は病気ではない?「依存症を超えるには想像力の力を使え!」という本を読んだ話

 


囚われた想像力(The Captive Imagination)」って本を読みました。著者のイライアス・ダクワル先生はコロンビア大学精神医学准教授で依存症の専門家だそうな。

 

当然、本書も依存症を掘り下げた内容なんですが、

 

  • 依存症は単なる病気や道徳的な欠陥ではない!
  • 依存症は人々の現実感をゆがめる!
  • 依存症が人生の意味の探求に大きな影響を与える!

 

といった感じで、類書にはない観点が散りばめられている良い本でした。通常の「依存症本」よりも根本の話をしてくれているので、このテーマに興味があるなら楽しく読めるでしょう。ということで、いつものように本書で勉強になったポイントをまとめてみましょうー。

 

 

  • 近ごろ、メンタルの薬には「役に立たない」「逆に危険」といった声が多い。一般的には、薬物には誤用や中毒を引き起こすイメージが強いからである。そのため、世間的には、薬物は多かれ少なかれ脳の回路を変え、薬に依存させてしまったり、薬を飲まずにはいられなくなってしまうとの印象が強い。

 

 

  • もちろん、薬物の害に焦点を当てるのは大事なことだが、実はデータでは、このような「精神薬はヤバい論」は支持されていない。精神薬どころかヘロインや覚醒剤のような悪玉の薬物ですら、ほとんどの人は、レールから外れることのない使用法を維持することができている。言い換えれば、薬物を使用する人のうち中毒になるのはごく一部であり、実際は薬物そのものは主要な問題ではないのだと言える。

 

 

  • 薬物そのものが原因でないとしたら、いったい何が原因なのだろうか? ある特定の人たちは、他の人々よりも依存症にかかりやすい傾向があり、この性質には、遺伝、性格、環境などが関係しており、一概に言うことはできない。事実、神経画像データを使った研究の多くは、依存症になりやすい人の脳とそうでない人の脳では、異なる活動パターンを示すことがわかっている。これは、依存症が脳の問題であることを意味する。

 

 

  • ただし、依存症を「脳の問題だ」と言ってしまうのにも問題がある。私たちの行動は単に脳の特性だけに影響されるわけではなく、社会、生態学、人間関係、文化、価値観、人生の目的など、あらゆるものに影響される。これらの要因は、脳を重視する依存症のモデルでは軽視されやすい。

    実際のところ、依存症の行動には、宗教、ナショナリズム、消費主義、軍国主義などへの傾倒に近いところがある。そのため、依存症は人間の苦しみの根幹に関わるものだと考えられ、しっかり治療するためには、より人間の深い側面を考慮しなければならない。

 

 

  • それでは、なぜ依存症の人は「わかっちゃいるけどやめられない」状態におちいってしまうのだろうか? この問題について、多くの人は、「脳が乗っ取られたからだ」という表現を使うことが多い。脳がハイジャックされたせいで、自分で正しい選択をしたり、自分をコントロールしたりする自由がなくなった……という考え方である。

    しかし、実際に依存症者に起きているのは、「異なる現実への移行」である。例えば、アルコールに依存する人は、酒を特定の悩みを解決してくれる「聖域」のようなものだとみなすことが多い。そのため、アルコール依存の人は、現実には酒で問題が起きていても、アルコールを救済だとみなし続ける。

    また、人間の脳は、いったん「これは現実だ」と考えると他の現実に意識が向かなくなり、修正が困難になってしまう。これは薬物への依存だろうが、イデオロギーへの傾倒だろうが、宗教への狂信だろうが変わらない。自分にとって深い意味があり、説得力があると思えば、誰もが擬似現実にハマってしまう性質を持っている。

 

 

  • 異なる現実への移行」の問題は難しいが、状態をやわらげることはできる。擬似的な現実を作る際に使ったのと同じ想像力を使えば、私たちは世界を根本的に異なる方法で想像し直すことができるからである。

    これは臨床データで裏付けられた話であり、一部の患者の中には、依存症の緩和を「夢から覚めた」と表現する人がいる。ある現実から別の現実へ移行すると、古い現実はリアリティを失い、より人生の役に立つ別の現実がリアリティを持つ。

    つまり、現実を変容させる私たちの力こそが、依存症を悪化させる原因であり、逆に依存症を乗り越える力なのだと言える。自分たちが持つこの能力に意識を向け、想像力をよりうまく使うことで、私たちは依存症の根源とその治療法をよりよく理解することができる。

 

 

  • 以上の議論をふまえ、依存症を理解する最も有益な方法は、この現象を、人間なら誰もが持っている苦悩の現れだとして理解することである。私たちは誰でも、人間として意味ある人生を求め、世界を理解したいと願う欲求がある。これは、依存症の患者であろうと、芸術家であろうと、ビジネスマンであろうと、科学者であろうと変わらない。要するに、依存症には人間の深い欲求と結びついた側面があり、これが問題の原因になっているのである。

 

 

  • 依存に変わる新たな現実を生み出す方法はいろいろあるが、効果的なものに共通するポイントは重なっている。断酒会、治療共同体、ヨガ、瞑想、ナラティブセラピー、宗教、先住民の儀式への参加などは、すべて世界における自分の居場所、そして人間関係を根気よく再構築する作業が行われる。これによって別の現実に移行できれば、すべて依存症の緩和に役立つ可能性がある。

 

 

  • もちろん、医学的なアプローチには十分な価値がある。しかし、依存症とは、通常考えられるよりもはるかに複雑な現象であることも認識している必要がある。ここには、人間が持つ深いプロセスが関わっており、私たちの価値観、文化、実存など、あらゆる人に共通する問題に関わっている。たとえあなたが薬物やアルコールに手を出したことがなくても、基本的なプロセスは大いに関係がある。

 


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