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加圧トレーニングで筋肥大は加速するのか?問題を詳しく調べた研究の話

 

ひさびさに加圧トレーニングの話題など。

 

加圧トレーニングってのは専用のバンドやカフを使って腕や脚を締め付けて、筋肉への血流を制限する筋トレ法のこと。これによってトレーニング中の酸素供給が減り、結果的に代謝ストレスが増大した結果として、「軽い負荷でも高強度トレーニング並みの効果が得られる!」みたいに言われてるんですよ。軽負荷、短時間でも効果を得られるトレーニングとして、一定の評価を得ている手法ですね。

 

が、そこでひとつ気になる疑問が、「もし加圧の代謝ストレスが直に筋肥大を促進するなら、加圧しながら高強度トレーニングを行えば、さらに筋肉が成長するのでは?」というものです。もし代謝ストレスが「筋肉が増える」主な原因なら、「高重量トレーニング」に加圧を加えればさらに成長するんじゃないかと考えるのは自然ですからね。逆に、高重量トレーニングに加圧を加えても筋肉が増えないなら、代謝ストレスの影響はあんまりなくて、実際には「高重量による筋繊維の負荷」が重要だと考えられますんで。

 

そこで、新しい研究(R)では、「加圧トレーニング+高負荷で筋肉は育つのか?」ってところを調べてくれていて有用でした。言い換えれば、代謝ストレスってのは、どこまで筋肉の発達に役立つのかってことですな。

 

では、研究に入る前に、まずは「代謝ストレス」についておさらいしておきましょう。こいつがどんなメカニズムなのかと言いますと、

 

  1. 筋トレをすると、筋肉内でエネルギー(ATP)が消費される。その際には、通常は遅めのシステムでエネルギーが補充されるが、強度が高いトレーニングをしている時には、それらの供給スピードが間に合わなくなる。

  2. そこで活躍するのが、解糖系(嫌気性代謝)ってシステムで、こいつはエネルギーの補充スピードが速い。

  3. ただし、この解糖系は効率が悪く、代謝の過程で乳酸や無機リン酸、水素イオンといった副産物を大量に生み出す。

  4. これらの副産物が蓄積すると筋肉のpHが低下し、疲労が増えちゃう。この状態を「代謝ストレス」と呼ぶ。

 

みたいになります。体がエネルギーを生み出す際にできる残りかすのようなものが筋肉を刺激し、そのおかげで筋肉が成長するのではないかと考えられてるんですよ。もうちょい細かく言うと、

 

  • 細胞膨張の促進:副産物のおかげで筋細胞がパンプアップし、成長シグナルが強化される。

  • 成長ホルモンなどの分泌増加:代謝ストレスによってホルモン環境が筋肥大に有利に働く。

  • 高閾値運動単位の動員:疲労が進むと、より大きな筋繊維が動員される。

 

といったところです。こうして見ると、「代謝ストレスで筋肉が増えまくる!」って説は、いかにも正しそうな感じがするわけです。

 

そこで今回の研究では、「加圧トレーニングに高重量トレーニングを組み合わせると、筋肉はさらに増えやすくなるのか?」って疑問をチェック。あんま筋トレをしたことがない健康な男性10名(平均22歳)を選んで、以下のようなトレーニングを指示しております。

 

  1. 片足は通常のレッグエクステンション(1RMの80%ぐらいの高負荷)
  2. もう片足は加圧を加えたレッグエクステンション(1RMの80%ぐらいの高負荷)
  3. セット数・レップ数・休憩時間はすべて統一(休憩中は加圧を解除)
  4. 期間は10週間で、前半5週間は3セット、後半5週間は4セット

 

こんな感じで通常の高負荷トレーニングと、加圧した高負荷レーニングの違いをチェックしたわけですな。

 

その結果がどうだったかと言いますと、

 

  • 加圧トレーニングの要素をBFRを加えることで、確実に代謝ストレスは増加する。これは筋内への酸素供給が減ったのが原因だと思われる。
  • 代謝ストレスのマーカー(脱酸素ヘモグロビン濃度)も、通常のトレーニングよりも高かった。
  • が、筋肥大には有意な差がなかった
  • 筋力増加(1RM)の伸びにも有意な差がなかった。

 

みたいになります。確かに加圧のほうが代謝ストレスは大きかったけど、両グループともに大腿四頭筋の成長率はほぼ同じだったらしい。つまり、「代謝ストレスが増えても、それがそのまま筋肥大につながるわけではない」ってことですな。

 

ただし、この研究だけを見ちゃうと「代謝ストレスは筋肥大に無関係!」「加圧トレーニングの限界!」みたいな解釈をしたくなっちゃうんだけど、個人的にはそんなに単純な話でもないかなーとか思った次第です。というのも、過去の研究では、加圧トレーニングによって“軽負荷トレーニング”の筋肥大がブーストしたって報告もあるもんですから(R)(ただし、メリットがないと報告した研究もある)。

 

まぁこれはあくまで「軽負荷の場合」に限った話でして、高重量のトレーニングではすでに機械的な刺激が十分に強いので、代謝ストレスの影響が限定的になっちゃうんでしょうな。高重量トレーニングだと筋線維がほぼマックスで使われているので、追加の代謝ストレスが不要なんだと思われるわけです。

 

ということで、私見を交えながら今回の研究結果をまとめると、次のようになります。

 

  • 加圧トレーニングは低重量トレーニング(<30 li="">
  • 高重量トレーニングでは、加圧トレーニングを加えても筋肥大は増えないので、ジムでちゃんとやれてる人は意味がないかも。すでに機械的刺激が十分で、追加の代謝ストレスが無駄になる可能性があるんで。

 

ってことで、やはり筋肥大のカギはあくまで「機械的刺激」がメインで、負荷をしっかりかけることが最優先。代謝ストレスは「おまけ」程度に考えておくのが良さそうな気がしております。どうぞよしなにー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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