「Who」と「What」のズレが人生を空虚にする?使命を取り戻す科学的ヒント
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『ミッション・ドリブン(Mission Driven)』って本を読みました。著者のマイク・ヘイズさんは元ネイビーシールズ司令官で、2,000人規模の特殊部隊を率いたのち、ホワイトハウスで政策を立案し、さらに民間企業の経営幹部としてもキャリアを積んだ凄い人なんだそうな。ネイビーシールズ系の本って定期的に出てる印象ですけど、この著者さんは特に経歴が頭一つ抜けてる感じっすね。
で、本書のテーマは「人生に使命(Mission)を持とうぜ!」みたいになってます。「このまま今の仕事を続けていていいのかな……」「自分の人生が薄っぺらいような気がする……」って人に、「使命がないからだ!」と喝を入れる内容になってるんですな。
というと、「軍人っぽい精神論」が展開されそうな感じがしちゃいますけど、中身は最近の心理学や幸福研究の知見が使われてて良い感じでした。そこで今回は、本書から特に勉強になった教えをまとめてみましょうー。
- 人生の虚しさは「Who」と「What」のズレから生まれる。ヘイズさんいわく、「人生における最大の空虚感は「Who(自分が誰でありたいか)」と「What(実際にやっていること)」のギャップから生まれる!」ってことで、もうちょいくわしく説明すると、
・Who:価値観・原則・ありたい姿(例:探究者、支える人、創造者など)
・What:職業や役職、日々の活動内容(例:営業職、エンジニア、学生など)
みたいになる。心理学の世界には「自己一致感」という概念があり、研究によれば、この感覚が高い人ほど幸福度が高く、ストレスが低く、燃え尽きにくいとされる。逆にWhoとWhatがズレまくっていると、「なんか違うんだよな……」という感覚が積もり、鬱や離職につながりやすい。つまり、いくら「安定した職」「高収入」を得ても、自分のWhoに合ってなければ空虚さは埋まらないと考えられる。
- 「Who」と「What」のズレを確かめるには。紙に縦線を引き、左に「今の仕事・日常でやっていること」を書き出し、右に「ありたい自分(Who)」をリスト化。そのうえで「両者は一致しているか?」をチェック。ズレが多いなら、そこが人生の“虚しさホットスポット”となる。
- 野心は正しい方向にセットしないと詰む。ヘイズさんいわく「野心は燃料にすぎない。エネルギー自体は素晴らしいが、方向を間違えれば『他人の人生』を猛烈なスピードで走らされるだけだ」とのこと。これは心理学でいう「社会的比較理論」と深く関係している。人間はどうしても他人と比べる習性があり、特に上方向(自分より優れている人)への比較は自己効力感を削り取ってしまう。結果として、「すごい頑張ってるのに、満たされない」という状態にハマる。
ヘイズさんが師と仰ぐ元インテルCEOのパット・ゲルシンガーは「高い基準を掲げ、正しい方向に向ける」ことを徹底したとのこと。つまり、野心は“誰のための基準か”が命で、自分のWhoからずれた基準を追ってしまうと、努力が空回りしてしまう。
- 野心の問題を解決するには、自分の目標を「誰の期待を満たすためか?」と問い直すのがよい。他人ベースなら見直せばいいし、自分のWhoベースならそのまま進む。
- 「与える人」こそ長期的に勝つのは有名な話。「Give & Take」で有名なアダム・グラント教授の研究からもわかるとおり、短期的にはテイカー(奪う人)が得をするけど、長期的に最も成功するのは“ギバー(与える人)”だと示されている。
ヘイズさんもこのポイントを実体験から強調しており、かつて彼が負傷兵を見舞ったときには、相手を励ますつもりが逆に自分がエネルギーをもらったことを記している。さらに「与えること」はネットワークや信頼資本を育て、後に思わぬ形で返ってくるため、「戦略的にギブ」しても全然かまわない(つまり、下心でギブするのも全然アリ)。つまり、「見返りを考えたら偽善じゃないか?」などと悩む必要はなく、これは人間の進化戦略に深く根づいた自然な行動様式なのだと考えたほうがよい。
- 「与える」を実践するには、週1回「戦略的ギブ」を計画すべき(知人の紹介、シェア、アドバイスなど)。信頼の貯金をしている感覚でやるのがお勧め。
- キャリアは「トップダウン」で設計すべきである。ヘイズさんの経験では、シールズの仲間たちが民間に出るときには、「誰かから紹介された仕事にとりあえず応募する」パターンで失敗しがちとなる。これはボトムアップ型のキャリア設計で、選択肢はあっても“使命”は見つからない状態である。実際、キャリア研究には「ジョブ・クラフティング」という考え方があり、これは「与えられた役割をどう自分のWhoに合わせて作り変えるか」という理論だとも言え、幸福度やパフォーマンス向上に寄与すると報告されている。
- ヘイズさんは、この考え方をさらに進め、「最初からトップダウンで自分のWhoに合う仕事を探せ」と言う。つまり「どんなオファーがあるか」ではなく「自分が本当に求めるミッションは何か」から逆算せよ、ということである。
- トップダウンの設計を行う時は、「自分がエネルギーを感じる瞬間」を3つリスト化し、それが社会にどう役立つかを書き出すと良い。そこから逆算して「理想のキャリア像」を描いていくのが重要である。
- 「社会を動かす“誰か”は、あなたであっていい」と考えるのも重要である。「自分には影響力なんてない」と思った瞬間、人生は受け身になり、幸福感が下がってしまうからである。しかし、「小さなことでも動かせる」と信じた人は、周囲を巻き込みながら世界を変えていくことができる。これは、めっちゃシンプルながら心理学的にも重要なポイント、『自己効力感』を高めた人は、幸福度、健康状態、キャリア成功のすべてで優位にあると示されている。なんでもいいので、自分が他者に影響するような“小さな行動”を毎日積み重ねることこそが使命につながっていく。
ってことで、ヘイズさんによる「使命ドリブンで生きよ!」ってお話でした。心理学的に言えば「自己一致 × 自己効力感 × 利他性」って話でして、なかなか説得力のある話でした。「使命」なんて聞くと壮大で重たく感じちゃうけど、実際には毎日「Whoとズレてないか?」「小さくても自分の影響を信じられるか?」を問い直すだけなんで、わかりやすくて良いのではないでしょうか。