「目的がないと人間は幸せになれない!」って考え方はどこまで正しいのか問題
インタビューなどでよく聞かれて困るのが「人生の目的はなんですか?」って質問であります。というのも、わたくし幼いころから人生に目的がない人間でして、1年先の目標を立てるのもめっちゃ苦手。だいたい3ヶ月先のことまでしか計画を立ててなかったりします。なので「何を成し遂げたいのか?」とか「どうなりたいのか?」と言われると、モニョニョした返答しかできないのがいつものことなんですが。
が、その一方で、ポジティブ心理学の世界などでは、「幸福のためには目的意識が必要だ!」や「目的があってこそ、人は幸せになれる!」って考え方が優勢なのも事実。観察データでも、幸福と目的には一定の相関が見られることが多く、私のような人間には困っちゃうところなんですよ。
では、実際に「幸福には目的が必要なのか?」ってことで、新しい研究(R)をチェックしてみましょう。
これはジョージ・メイソン大学などの研究で、「幸福感と人生の目的意識はどう影響し合うのか?」って問題を、303名の成人を2年間も追跡調査したものになっております。ここでチェックした指標は、おおよそ以下のようなものです。
- 幸福度:「人生を楽しめているか?」(7段階評価)
- 目的意識:「自分の人生の計画が、自分の価値観と一致しているか?」(5段階評価)
まあ、この指標については『社会は、静かにあなたを「呪う」』でも書いたとおり、幸せの総体を把握するにはイマイチ物足りないところもあるんですけど、ざっくりした傾向をつかむ一助にはなりましょう。
で、分析の結果わかったのは、以下のような傾向です。
- 幸福度が高い人は、18ヶ月後に目的意識も高まっていた
- 一方で、「目的意識が高い人が後に幸福になる」といった関係性は示されなかった
ということで、これを見ると、「目的が幸福をもたらす」というよりも、むしろ幸福が土台となって目的が芽生えるって流れのほうが支持されてる感じっすね。
この結果の解釈について、研究者たちは次のように述べております。
幸福を感じているとき、人は自分の注意を“成長”や“リスク”に向けやすくなる。
たしかに、人生の意味やビジョンを考えるには、ある程度の心理的な余裕が必要ですからねぇ。目の前のことで精一杯なときに「自分は何を成し遂げたいのか?」とか考えられないし、疲れきっていると目標なんてどうでもよくなりますし。つまり、先に“幸せ”という土台を整えることで、目的や意味を考える余力が生まれるよーって話ですね。
たしかに、我が身を振り返ってみても、「科学を通じて人の役に立ちたい」とか「世の中に影響を与えたい」といった気持ちはまったくなく、「科学おもしろー」「文章は得意じゃないけど書けるなー」くらいの感覚で続けてきたら、結果として仕事が生まれて今のような生活になっていた感じですからねぇ。自分の心地よさを優先してたら、長期的に目的らしきものにつながっていたのかもしれませんな。
ということで、もしあなたが今「自分には何のビジョンもない……」「やりたいことがわからない……」と感じているなら、まずは目的探しをいったん止めて、「今日の幸福」に目を向けてみるのがお勧めです。たとえば、
- 小さな快感を意識的に拾って、「いま楽しい」と思える時間を増やす系
- お気に入りのコーヒーを飲む
- 気持ちよく歩ける散歩コースを見つける
- 思わず笑ってしまった瞬間に気づく
- 喜びのログを取って日常の幸福に意識を向ける系
- 1日の終わりに「楽しかったこと」を3つ書く
- 今日、おいしいランチが食べられた
- 同僚がさりげなく手伝ってくれた
- 子どもが「ありがとう」と言ってくれた
- 意味のないことをしてみる系
- 役に立たない趣味
- 成果の出ない読書
- ただ笑うだけのコメディ動画
- 毎日夜に30分、「無目的タイム」として確保する
- 土曜日の午前中は「誰のためでもない時間」と決める
- 月に一度は“強制的に意味のない休日”をつくる(予定なし・目的なし)
ここらへんの小さな実践を積んでおけば、今は何もない人にも人生のフックが生まれて、それがじわじわと生活を変えていくんじゃないかと。
いずれにせよ、今回のデータを見る限り、「幸福のためには目的が必要だ!」ってことはないみたいだし、むしろ幸福が先にこないと目的も生まれないっぽいんで、自分が楽しめることを優先するほうが先かもですな(もちろん、「幸せが先だ!」みたいな呪いになったら逆効果ですけど)。
そのためには、
- 小さな快感を見つける力
- 喜びを記録し、思い出す力
- 意味のないことを楽しむ力
みたいな3つのスキルが必要なんだろうなーとか、あらためて思った次第です。私のように「目的なんて持ったことがない!」という人も、そこはいったん置いておいて、「今日を少し良くする」ことから始めてみるとよさげであります。