希望があるだけで「人生の意味」が増すという、ちょっと面白い研究の話
「人生の意味がわからない……」とか「生きてる実感がない……」みたいな悩みをお持ちの方もおりましょう。物価は上がるし将来は見えないし……みたいな問題については、『社会は、静かにあなたを「呪う」』で「いや、そんなに絶望しなくていいよー」って話を書きましたけど、現代では人生に対してポジティブな希望を持ちづらい空気感はあるんでしょうな。
そんななか、最近ちょっと興味深い研究(R)が出てまして、「人生に意味を感じるかどうかは、希望という感情とかなり密接に関係しているぞ!」って主張を展開してておもしろかったです。というわけで今回は、このデータをもとに、
- なぜ希望の気持ちが「人生の意味」をつくるのか?
- 希望を育てるには、具体的にどうすればいいのか?
といったあたりを概観してみましょう。
まず前提として、そもそも「希望」の定義をまとめておきましょう。希望と言われると一般的には、
- 「何があってもあきらめないこと」
- 「自分の力で未来を切り開こうとする意志」
- 「ポジティブ思考」
みたいなイメージがあるんじゃないでしょうか。実際、心理学の世界でも、希望ってのはずっと「行動的・認知的なもの」だと考えられてきたんですよね。
たとえば、ポジティブ心理学で有名なチャールズ・スナイダー博士が定義したモデルでは、希望を2つの要素に分解しております。
- 経路の認知:望むゴールにたどり着くためのルートを想像できること。
- 意志の力:そのルートを歩き続けるやる気や根気を持っていること。
つまり、「未来に向かって考え、行動できる力」こそが希望だって考え方でして、納得できる人は多いんじゃないかと。
では、“希望”にはどれぐらいの効果があるのかってことで、今回の研究チームは「希望が人生の意味を感じる力にどのように影響するか?」って問いを検証しております。「人生の意味」もまた心理学で注目される概念で、以下の3つの要素が含まれております。
- 目的:自分の人生に明確な目標や方向性があるか
- 一貫性:過去〜現在〜未来が自分のなかでつながっている感覚
- 実存的な重要感:自分の人生には意味がある、価値があると感じること
これらの「意味の感覚」を持っている人は、メンタルヘルスが安定しているのはもちろん、身体の健康やストレス耐性も良好なことがわかっているんですな。なので、希望と人生の意味が相関していたら、自ずと希望のメリットも明らかになるわけですな。
ってことで、このテーマを調べるために、研究チームは6つの研究を行ってます。
- 研究1〜2(横断研究):アメリカ人183名、中国人755名の「希望レベル」と「意味の感覚」を調べたところ、希望の感情は、「やる気」や「ポジティブな気分」などを差し引いても、人生の意味感に強く影響するとの結論だった。
- 研究3(日記研究):大学生132名に1日ごとの希望の気持ちと「意味感」を記録させたところ、その日の希望の感情が、その日の「意味感」にダイレクトに影響していた。
- 研究4(縦断研究):301名の大学生を対象に、1学期を通じて希望と意味感を追跡したら、希望の感情が高い学生ほど、長期的に「人生の意味」を感じ続けていた。
- 研究5(媒介分析):941名を対象に、ポジティブ感情と人生の意味の関係において「希望の感情」が中間に入るかを分析したところ、希望の感情が「ポジティブ感情→人生の意味」へのルートを媒介していた。
- 研究6(実験研究):希望を喚起する文章と、絶望を喚起する文章を読ませて影響を比較したら、希望を感じたグループは、その直後に「人生の意味」を強く感じていた。
ということで、かなり多角的な手法を使って調べたにも関わらず、結果はどれも同じ。「希望の感情は、他のポジティブ感情よりも人生の意味を高める!」って傾向が見られたんですね。これはなかなか強めな証拠じゃないでしょうか。
では、希望の感情がどうして人生の意味を生み出すのか?ってとこが気になりますが、この点について、研究チームは以下のような仮説を立てております。
- 未来へのつながりが強くなる:希望は「まだ訪れていない未来」に焦点を当てる感情なので、自分の人生がどこかに向かって進んでいる感覚(=目的や一貫性)を感じやすくなる。
- 逆境のなかでも保ちやすい:たとえば、震災や病気など人生の逆境に直面したときに、希望は「今はつらいけど、いつか良くなるかもしれない」と感じさせてくれる唯一の感情だと言える。幸福感や楽しさのように、その場限りで消えてしまわないのが希望の強みだと言える。
- 自己とのつながりが深まる:希望を感じているとき、私たちは「自分は未来をつくる主体である」と感じやすくなる。これが実存的な意味感=「生きていてよかった」と思える土台になるのだと思われる。
いずれも非常に納得の観点でして、せんじつめれば「希望がある人は人生の意味も高まり、それによって心身のパフォーマンスも上がりやすくなるかも……」とは言えるでしょうな。
じゃあ、「人生の意味を高めるために、希望の感情を育てよう!」となったときに、具体的に何をすればいいのか? 研究で紹介されていた方法をいくつかピックアップしてみましょう。
- 前向きな情報を意図的に選ぶ:たとえば、環境問題の改善事例、医療やテクノロジーの進歩、社会がよくなっているニュースなど、こうした「未来に希望が持てる情報」に触れてみましょう。それだけでも希望の感情は喚起されますんで。この点については『社会は、静かにあなたを「呪う」』をお読みいただくと、希望が持てて良いのではないでしょうか(ステマ)。
- 希望を感じた過去を思い出す:過去に「希望を感じた出来事」をノートに書き出すだけでも、希望の感情が戻ってくるという研究もあるそうな。具体的には、困難を乗り越えた経験、人から支えられたエピソード、自分の成長を感じた瞬間など、こうしたエピソードを1日1つ思い出すだけでも、かなり効果的とのこと。
- 象徴的なイメージを眺める:意外なことに、赤ちゃんや若木の写真を眺めるだけでも希望が高まるというデータもあったりします。これらは共通して「新たな始まり」「成長の可能性」「未来への希望」を象徴するビジュアルなので、たった数秒の視覚刺激でも、脳は無意識にポジティブな未来を想起するみたいなんですな。手軽でいいっすね。
ということで、「希望の気持ちを持つだけで人生の意味が増すよー」という、パワフルな知見のご紹介でした。「前向きに考えよう!」と頭で考えるよりも、希望を感じる情報に触れる、希望を感じた体験を思い出す、希望を象徴するものを見るといった“感情ベースのアプローチ”のほうが、脳と心に届きやすい感じなので、意図的に希望を醸成するように心がけておくと良さそうであります。どうぞよしなにー。