「なぜ正しいアドバイスほど嫌われるのか?」──リアクタンス理論で考える人間関係の落とし穴
友人や同僚にアドバイスをしたが、なぜか相手にムッとされたり、逆ギレされてしまったりといった経験をしたことがある人は多いでしょう。たとえば、友人が高額なサプリメントを定期購入しようとしていたので、「もっと安くてエビデンスがあるサプリがあるよ!」と助言したところ、「余計なお世話だ!」と怒られちゃったり……みたいなことっすね。
では、なんでこういうことが起きるのかってことで、良く持ち出されるのが「リアクタンス理論」ってやつです。これは心理学者のジャック・ブレームが1966年に提唱したもので、ざっくり言えば「人間は自分の自由が脅かされたと感じると、反発して逆の行動をとる」みたいな理屈です。
- 「やめろ」と言われると、余計にやりたくなる
- 「絶対こっちのほうが正しい」と押し付けられると、意地でも従いたくなくなる
みたいな現象は、日常的によく見かけるものでしょう。いわゆる「天の邪鬼」的な反応は、リアクタンスのたまものだと考えられるわけです。
リアクタンスが起こるプロセスは、基本的に以下の二段階だと言われております。
- 「自由を制限された!」と感じられるような刺激を受ける(例:「こうしなさい」と言われる)
- 自由の制限を打ち消そうとするため、天の邪鬼な反応が起きる(例:わざと逆をする、言ってきた相手を低く評価する)
つまり、アドバイスを受けたときに「自分の選択肢が奪われた」と感じれば感じるほど、人はその助言から距離を取ろうとするってことですな。これは誰にでもある心理でありましょう。
でもって、この理論をもとに、ルイジアナ州立大学などの研究チーム(R)が面白い実験を行っております。こいつがどんな実験だったかと言いますと、
- 被験者は平均年齢19歳の大学生たち。彼らに、ケーシーという架空の人物が病院に入院したというシナリオを提示。
- その際に、入院の理由を「虫垂炎(=コントロール不能な出来事)」と「飲みすぎによる体調不良(=自己責任っぽい出来事)」の2パターンにわける。
- その際のアドバイスの求め方も、「『どうしたらいい?』とハッキリ尋ねる(明示的リクエスト)」と「『ストレスでどうしたらいいかわからない』とぼやく(暗示的リクエスト)」の2パターンにわける。
みたいになります。この手順を踏んだうえで、参加者たちに「どんな気持ちになったか」(怒り、苛立ちなどのリアクタンス感情)を自己評価してもらい、実際にケーシーへ助言を書くよう指示。最後に研究チームが、そのアドバイスを有効性や実現可能性、相手の気分への配慮などの観点で採点したんだそうな。
その結果がどうだったかと申しますと、
- 入院理由が「自己責任っぽいもの(飲みすぎ)」だと、リアクタンスが強まりやすい
- アドバイスの求め方が「間接的(暗示的)」だと、こちらもリアクタンスを増幅させやすい
- リアクタンスが強くなるほど、助言の質は低下する(短く、効果も薄く、相手の気持ちに配慮しない内容になる)
だったそうな。つまり「自分でまねいたトラブルなのに、しかも回りくどい頼み方をしてくる」相手に対しては、人は無意識に反発心を持ち、その結果アドバイスも雑になってしまうわけですね。「そりゃそうだよなー」って感じの結論ですけども、この知見は私たちの日常にもかなり当てはまるものでして、
- 部下が明らかに自分のミスでトラブルを起こしたのに、よくわからない説明をされたせいで「なんじゃそれ……」とイラっとしてしまう
- パートナーが「疲れすぎて、どうしたらいいかわからない」とざっくり言ってきたため、「運動したら?」と短絡的な答えを返してしまった
- 子どもに「勉強しなさい」と言うと、余計にやらなくなる
ってあたりは、皆さんも身に覚えがあるのではないでしょうか。難しいもんですねぇ。
では、この実験の知見をふまえた上で、実際にどうすれば「届くアドバイス」になるのか?ってのを考えてみましょう。リアクタンス理論の知見をふまえると、以下のような工夫が考えられます。
- 相手の「自由」を尊重する:アドバイスを一方的に押し付けるのではなく、あくまで「選択肢の提示」として伝えるのがポイント。「こうしたほうがいい」よりも「こんな方法もあるけど、どう思う?」と聞くほうが受け入れられやすい。
- タイミングを見極める:相手が明確に「助言を求めている」ときのほうが、リアクタンスは起きにくい。逆に「暗に察してほしい」といった状況では、こちらから踏み込みすぎないほうが良いこともある。
- 感情を理解してから言葉にする:研究によれば、自分自身の感情をうまく理解できている人ほど、アドバイスの質が高まるとのこと。つまり、まずは相手の話を聴きつつ、自分の中の「イラ立ち」や「助けてあげたい」という感情を客観視することが大事。
- 相手の自己責任を責めない:「そもそもお前のせいだろ!」と思った瞬間、助言はトゲだらけになりがち。ここで大事なのは「責任追及」よりも「次の一手」を一緒に考える姿勢だと言える。
ということで、こんな感じでリアクタンス理論を知っとくと、「正しいことを言ったのに相手が従わない」というイライラの正体がよくわかるのでお勧め。とりあえず、多くの人は正しさよりも「自由」を大切にしているので、「自由を奪われた!」と感じた瞬間に、どんなに正しい助言も拒否するようになっちゃうってとこだけ覚えておくとよいでしょう。
繰り返しになりますが、相手に届くアドバイスのポイントってのは、
- 相手の選択肢を尊重する
- 明確に求められたときだけ差し出す
- 感情を理解したうえで言葉を選ぶ
- 相手を責めない
みたいになりましょう。こうした基本を押さえるだけで、人間関係の摩擦はぐっと減るんじゃないかと。「正しいことを言ったのに伝わらない」と悩んでいる方は、ぜひリアクタンス理論を頭の片隅に置いてみてくださいませー。