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「食べて動け」が最強?──2万人調査で判明した「カロリー×運動と寿命」の意外な関係

  

 

「食べる量を減らせば長生きできる!」という考え方がありますな。これは動物実験の世界では鉄板の話で、マウスやサルにカロリー制限(以下CR)をさせた実験では、

 

  • インスリン感受性の改善
  • 酸化ストレスの軽減
  • 細胞修復メカニズムの活性化

 

みたいな現象が起き、寿命が延びるケースが何度も報告されているんですよね。さらには人間でも似たような報告がありまして、「CALERIE試験」なんかでは、2年間ぐらいカロリー制限を行った人たちは、血圧や脂質の値が改善したって結果が出てるんですよ。

 

とはいえ、これらの考え方には異論も出てまして、一方では「カロリーを減らしすぎると筋肉が落ちる」「高齢者には逆効果になる」といったデータも出てきてまして、一概に「食べる量を減らせば健康になる」とは言い切れない感じなんすよ。難しいもんですなぁ。

 

そこで登場したのが、今回の新しい研究であります(R)。これはアメリカのNHANES(全米健康栄養調査)の大規模データを使って、「カロリー摂取量」と「運動習慣」の組み合わせが、死亡率にどう関係するのか?を調べた、なかなかナイスな研究になってるんですな。

 

より具体的には、2007~2018年のNHANESに参加した21,618人を対象にした調査で、追跡期間の中央値は6.75年。研究では全体を以下のように分類して、それぞれの死亡率と比べております。

 

  1. 高カロリー+運動不足
  2. 低カロリー+運動不足
  3. 高カロリー+十分な運動
  4. 低カロリー+十分な運動

 

ここで言う「十分な運動」ってのは、週600 MET分以上(中強度の運動150分、または高強度運動75分)と定義されてまして、ざっくり「週150分の中程度の運動」にあたります。WHOや米国ガイドラインが推奨している、超定番の運動量ですね。

 

また、カロリーについては、アメリカの食事摂取基準をもとに定義されてまして、

 

  • 高カロリー
    • その人の年齢・性別ごとに推奨されている摂取量の下限以上を食べている状態。
      • 19~30歳女性:1,800~2,400 kcal → 1,800 kcal以上なら高カロリー扱い
      • 31~59歳男性:2,200~3,000 kcal → 2,200 kcal以上なら高カロリー扱い
      • 60歳以上男性:2,000~2,600 kcal → 2,000 kcal以上なら高カロリー扱い

 

  • 低カロリー
    • その人に推奨されている最低必要量を下回っている状態。
      • 26歳女性で1,700 kcalしか食べていない → 低カロリー
      • 35歳男性で2,100 kcalしか食べていない → 低カロリー

 

みたいになります。要するに、年齢・性別に応じた“必要量を満たしている”人たちを「高カロリー」と定義してまして、決して“暴飲暴食の人”を指すわけではないのでご注意あれ。

 

では、分析の結果を見てみましょう。今回の研究では、以下のような傾向が見られたそうな。

 

 

ポイント1. 運動していれば、食事のカロリーは多めでも長生きできる

まず最も重要なポイントとしては、

 

  • 高カロリー+運動あり → 全死亡リスク41%減
  • 低カロリー+運動あり → 全死亡リスク31%減

 

みたいな感じです。つまり、カロリーを減らさなくても、運動さえしていれば長生き効果が出るってことでして、しかも低カロリーよりも高カロリーのほうが、その効果は大きかったってことですね。ちゃんと体を動かしていれば、ちゃんとたくさん食べたほうがいいんじゃないか、と。

 

 

ポイント2. 心血管死亡に効いたのは「高カロリー+運動あり」だけ

続いて、病気との関係をチェックしてみると、

 

  • 高カロリー+運動あり → 心疾患による死亡が36%減
  • 低カロリー+運動あり → 有意差なし

 

って結果も出てて、こちらもおもしろいですね。つまり、心臓を守るのは「食べて動く」パターンだけだったというんだから、これまた驚きの結果であります。

 

 

ポイント3. がん死亡には影響なし

がんによる死亡率については、カロリー摂取と運動に関して明確な関連は見られなかったらしい。まあ、がんは要因が複雑すぎるので、これはまあ仕方ない感じですね。

 

 

ということで、基本的に「高カロリー+運動が最強!」って結果が出たわけですけども、ここで気になるのが、「なぜ低カロリーより高カロリーの方がよかったのか?」という点でしょう。上述のとおり、近ごろは「カロリーを制限したほうがよい!」って主張も多いので、この食い違いは気になりますわな。

 

ここらへんはいろんな解釈があり得ると思うんですけど、個人的に「あり得そうだなー」と思うのは、以下のポイントっすね。

 

  1. 高エネルギー・フラックス仮説:「高エネルギー・フラックス」とは、たくさん食べて、たくさん動く状態のこと。この状態だと、基礎代謝が高く維持されるし、同時に筋肉量が落ちにくいし、食欲のコントロールが効きやすいので、健康にプラスの効果が出やすいような気がする。逆に「低カロリー+運動なし」のような低フラックス状態だと、代謝が下がって脂肪がつきやすくなり、体も弱りやすくなるのかなー、という。


  2. 筋肉量の維持:低カロリー食はどうしても筋肉が落ちやすく、特に高齢者では、筋肉減少(サルコペニア)が死亡リスクを一気に上げるのは間違いなし。その点で、高カロリー食+運動は、筋肉を維持しつつ代謝を高められるので、心血管疾患のリスクが減る可能性はめっちゃありそう。


  3. 運動の“相乗効果”:高カロリーでしっかりエネルギーを摂ると、運動のパフォーマンスも上がる。結果として、心肺機能や代謝への効果が大きくなり、死亡リスク低下につながる可能性もありそう。

 

もちろん、これらは仮説でしかないし、カロリー制限にメリットがあるのも確かではありましょう。とはいえ、カロリー制限を長く続けるとリスクが高まるのも事実でして、

 

  • 高齢者は筋肉量が落ちて転倒リスクがあがりそう
  • 栄養不足による免疫の不調も心配
  • メンタル面でのストレスやQOLの低下も起きそう

 

といったあたりは十分に考えられますからねぇ。実際、日本の高齢者データでは、カロリー摂取量が少ないほど筋肉量が減りやすく、死亡率も高くなる傾向が報告されてたりしますし。

 

なんで、ここまでの話をふまえると、私たちが実生活で取り入れるべきポイントはこんな感じになるでしょう。

 

  1. とにかく運動最優先:死亡率を下げる最大の要因は「運動」なので、まずは週150分の中程度運動(早歩き、軽いジョギング、サイクリングなど)を目標にしたい。

  2. 食べすぎより「食べなさすぎ」が問題:無理にカロリーを減らさないこと。特に50歳以降の方や持病のある方は、しっかり食べて、しっかり動くほうが長生きにつながる可能性大。

  3. 「高カロリー=悪」ではない:高カロリーでも運動していれば死亡率は下がるので、「食べた分、動けばいい」と考えるのが一番シンプルで現実的かもしれない。

 

個人的にも、この研究は「低カロリーか高カロリーか」って二択ではなく、「食べるなら動け」こそが健康の基本だと示してくれた気がしております。どうぞよしなにー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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