このブログを検索




ネガティブ思考って本当にダメ?科学が示す「反すう」の新たな可能性とは?

 

 

このブログでは、よく「反すう思考は危険だ!」みたいな話をしております。これは「嫌なことが頭から離れない!」って心理現象のことで、たとえば友達から言われた嫌なことを、「なんであんなことを言われなきゃいけないんだ…」みたいに、いつまでも考えてしまう状態のことですな。

 

一般に、これは「抑うつ症状の原因」とされてまして、反すう思考が多い人ほどメンタルを病みがちなのは有名な話。まあネガティブなことをいつまでも考えていたら、気持ちがヘコむのは当然ですもんね。

 

が、近ごろ新しく出た研究(R)は、「反すうはいつも悪者なわけじゃないよ!」という結果になってて面白かったです。

 

 

これはブリティッシュコロンビア大学(UBC)の先生方による研究で、「誰かと一緒にやるなら“反すう”は役に立つのでは?」って仮説をチェックしたものです。反すう思考ってのは、一人で行うとメンタルへのダメージが甚大なんだけど、誰か親しい人と行うなら逆にメンタルの改善につながるんじゃないか、と。

 

参加したのは21歳前後の男女112人で、実験の流れはこんな感じです。

 

  1. 初対面の参加者にペアを組んでもらい、簡単な質問ゲームを通して「初対面でも仲良くなった感じ」を演出する(たとえば「有名になりたい?」「いま一番感謝していることは?」といった質問を投げ合ったりする)。

  2. そのあと、全員に「自分の人生で最もストレスだった出来事」を思い出してもらい、一気に気分を下げる。

  3. それから、参加者を4つの条件に分けて、感情の変化を比較する
    1. 一人で反すう(たとえば、「あの会議の失敗は最悪だったな…」と繰り返し頭の中で反省し続ける。)
    2. 一人で気晴らし(たとえば、嫌なことを思い出したときに、ひとりでお気に入りの音楽を大音量で聴いたり、YouTubeでお笑い動画を観て笑う。問題自体は考えないようにして、気分を切り替えるやり方。)
    3. 二人で反すう(たとえば、ペアを組んだ相手に「すごく落ち込むことがあって…」と打ち明け、一緒に「どうしてそう感じるのか」「どう対処したらいいか」を話し合いながら、ネガティブな出来事を反復して考える。)
    4. 二人で気晴らし(たとえば、ペアを組んだ相手と楽しい音楽を聞いたり、楽しい動画を見たりなど、悩みには触れず、楽しむことで気分をそらす。)

 

ってことで、嫌なことがあったときに私たちがよくやる感情のコントロール法を4つのパターンにわけ、それぞれの反応をチェックしたわけっすね。この時に、個人の感情やストレス反応は、アンケートによる感情の評価と、唾液中の生理的ストレス指標の両方で測定してまして、なかなか実験としても丁寧なデザインだと言えるでしょうな。

 

さて、分析の結果がどうだったかと言いますと、

 

  • 「気晴らし」を使ったグループは、一人でも二人でも、思ったほどストレスが減らなかった

  •  一方で、「反すう」を使ったグループは、最初はストレスが上がったものの、時間が経つと落ち着いてきた

  •  特に「二人で反すう」をしたグループは、身体的ストレス反応(唾液など)も大きく下がった

 

だったそうです。誰かと反すうを行った場合は、メンタルが悪化するどころか、逆に身体のストレス反応まで改善したわけっすね。これは面白いですなぁ。

 

この結果について研究チームいわく、

 

ネガティブな感情を処理せずにおくと、“跳ね返り”がくるかもしれない。むしろ、「反すう」を使ってでも、その場で向き合って処理した方が、長期的にはストレスが下がるようだ。

 

とのこと。つまり、嫌な経験をした場合は、気をそらして意識から遠ざけようとするより、一度じっくり向き合った方が「情報の処理」ができるってことですな。

 

となると、この研究を現実のストレス対策に活かすためには、以下のポイントを守る必要があるんじゃないかと。

 

  • 「反すう」で情報を処理する時間は必要:あまりにネガティブな経験をしたら、一時的に気晴らしをするのもいいんだけど、そのあとでちゃんと「反すう」を行って、自分の体験を整理する時間をつくる作業は必要と心得ておく。ただし、従来の実験でもわかるとおり、何日も何週間も同じことを繰り返し考えるタイプの「反すう思考」はうつ症状や不安の悪化につながりやすいので注意。今回の実験のように、時間を限って“短期集中型”で行う「反すう」であれば、感情の整理が早めに進むのだと考えられる。

 

  • 「反すう」は誰かと一緒に行うべし:この研究によると、ほかの人に聞いてもらいながら(あるいは一緒に考えながら)反すうを行った参加者は、「感情と身体のひっかかりが解けた!」みたいな感覚を得られたらしい。たんに「話を聞いてくれる人がいる!」って感覚があるだけでも、嫌な情報の処理は進むんでしょうなぁ。

 

  • 「反すう」を行う時は「意味づけ」タイプで行う:今回の実験で参加者に与えられた課題は「自分の内面を振り返る」形式だったので、「この出来事から何が学べるか?」「なぜ自分はこう感じたのか?」といったように、分析的に考えるタイプの反すうが自然と促された可能性がある。つまり、反すうを行う時は、たんに自分を責めるための反すうではなく、「理解のための反すう」を意識して行うほうが良い。

 

ここらへんを念頭に置いておくと、普段は悪者あつかいされやすい「反すう思考」を有効に使えるんじゃないでしょうか。もし頭の中がグルグルして苦しいときは、「これは自分の心が処理してるフェーズなんだ」と捉え直したうえで、「よりよい反すうができないか?」と考えてみるのがお勧めであります。どうぞよしなに。


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM