心理学から見た詐欺師の行動パターン──感情をハッキングする14の手口をチェックした本を読んだ話
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『詐欺師の解剖(Anatomy of a Con Artist)』って本を読みました。著者のジョナサン・ウォルトンさんはリアリティ番組プロデューサーで、過去に「親友」だと思っていた女性に1,000万円超をだましとられた経験をもとに、詐欺師の研究をスタート。被害者や心理学者たちにインタビューを重ね、詐欺師が使う手口を理解しようと試みたんだそうな。
その結果、本書は“心のハッキング術”大全みたいな内容になってまして、「詐欺にだまされたくない!」って人だけじゃなくて、逆に「他人をコントロールしたい!」という邪な欲望にも対応できる感じになってました。ここでウォルトンさんがまとめた「詐欺師の危険信号」は14種類ありまして、まずはこの点を概観してみましょう。
- やたらと親切にしてくる:初対面で、こちらが頼んでもいないのに手助けを申し出てくる人には注意が必要。
- あまりにも優しくなるのが早すぎる:出会って間もないのに、まるで旧友のように接してくる。
- いつも「緊急事態」が起きている:遺産トラブルや病気、家族との揉め事など、次々とドラマチックな話を展開してくる。
- あなたを孤立させようとする:「他の人には言わないで」「誰にも相談しないで」と、あなたの相談相手を奪おうとする。
- 「自分は特別だ」と匂わせてくる:「私は特別な立場にいる」「あなたには理解できないかもしれないけど…」といった態度で、自分を上に見せようとする。
- スマホやデジタル画面で“証拠”を見せてくる:SMS、銀行口座、メールのスクリーンショットなどを提示して、信用させようとする(実際は簡単に偽装可能)。
- 「今しかない」「急がないと損する」と煽ってくる:“限定”や“締め切り”を強調して、冷静な判断を奪おうとします。
- やたらと贈り物やサービスを提供してくる:高価な食事をおごる、プレゼントを渡す、親切すぎる行動で「恩」を売ってくる。
- 信頼されやすい職業についている:役所勤務、金融業界、法曹関係など、社会的信用のある職業を使って安心感を与える。
- 銀行振込や送金を勧めてくる:現金の受け渡しではなく、追跡が難しい形での送金を選ばせようとする。
- 頻繁に引っ越しや移動をしている:転居が多い、今は海外にいる、など、物理的な足取りを追いづらくしている。
- 遠く離れた場所の話ばかりする:「アイルランドの親族が」「フランスの弁護士が」など、検証しづらい土地を舞台に話を展開する。
- 早い段階で深い秘密を打ち明けてくる:こちらの同情を引くため、早くから壮絶な過去や個人的な話を語り、信頼を築こうとする。
- “人たらし”のテクニックを駆使してくる:相手の名前を頻繁に呼ぶ、褒める、聞き役に徹するなど、カーネギーの本に書いてある通りの親密化戦略を実行してくる。
ってことで、どれも「あるなー」って感じですね。特に3番の「いつも緊急事態が起きている」とかは、詐欺師だけでなくナルシシズムやサイコパス系の人にもよく観察できる資質な気がしました。
当然、ここでは本書の内容をすべてさらうわけにはいかんので、個人的におもしろかったポイントをチェックしときましょう。
- ウォルトン氏は“詐欺師はあなたより賢いわけじゃないが、感情で出し抜く”と指摘している。著者自身がダマされた体験によれば、約4年にわたって「親友」だと思っていた女性から、「家族から見捨てられた過去」を打ち明けられて強く共感し、それによって心を許してしまったのが原因だった。このような手口を使う詐欺師は多く、たとえば「親族に遺産を奪われそう」みたいなドラマを語ることで、こちらに「この人を助けなきゃ!」と思わせるのが定番である。
- 多くの人は、怪しい勧誘電話や見知らぬ人の話には注意を払うが、ウォルトンさんは「詐欺師はあなたの身近にいる」と警告する。実際、「知人や友人に金を騙し取られた!」という詐欺被害が非常に多い。そのため、被害者は「恥ずかしい」「私は愚かだ」といった思いに捕らわれ、その恐怖によって声を上げられなくなってしまう。
- 詐欺師が仕掛ける罠のド定番が、“親切”を演出しまくるという手法である。たとえば、
・メシを奢ってくれる
・プレゼントをくれる
・子どもの面倒を見てくれる
・感情的に寄り添ってくれる
といったやり方が定番である。こうした“恩”を受けると、人は自然と相手に心を開き、情報も返したくなるもの。そこから詐欺師は自分の“暗い過去”を語ったり、こちらにも秘密を語らせたりして、相手に「私も秘密を打ち明けよう」という気持ちにさせる。これは“TMI(Too Much Information)”と呼ばれる手法であり、これによってターゲットの本物の秘密を探り、詐欺が発覚しても「暴かれたくない…」という気持ちが被害者を縛りつけてしまう。
- スマホの画面を使うのもよくある手口のひとつで、詐欺師は自作の偽の“テキストメッセージ”や“メール”を用意し、まるで現実の証拠かのように見せかける。ウォルトンさんのケースでは、
・“弁護士からのメール”を巧妙に用意された
・「家族からこんなヒドいメッセージを送られた!」という偽造メッセージを見せられた
みたいな“デジタル演出”が使われた。スマホの画面を偽造できることは誰でも知っているが、信頼する相手から目の前に出されると、その瞬間に人は無条件で信じてしまう。
- “まともな職業”を持つ詐欺師ほど警戒が必要となる。詐欺師の多くは、社会的に“信頼されやすい立場”に身を置いており、市役所職員や金融アドバイザーなど、安心感を与える肩書きを手にしている。それによって「職業がしっかりしている=信頼できる人」という無意識のバイアスを利用して近づいてくる。
- 詐欺師は「被害者の人生ドラマ」をうまく脚色する能力に長けている。たとえば、離婚したばかりの男性に「私は家裁の調査官だから助けられるかもしれない」と持ちかけてみたりと、ターゲットの状況を“救える存在”として自分を演出するのが非常にうまい。つまり、相手の課題を巧みに見抜き、“理想の味方”として登場するスキルに長けていると考えられる。
- また、「遠く離れた国や、会ったことのない第三者を巻き込む」というパターンも定番である。たとえば「アイルランドにいる叔父が訴えてきて…」「フランスの弁護士から今日中に返答が必要で…」のように、検証が難しい状況を持ち出してプレッシャーをかけてくる。冷静に考えればおかしいことはすぐわかるが、「国が違うから事情も違うかも」などと思わせ、心理的な盲点を突くのがお決まりの手口である。
- 詐欺師は、人間関係の操作を“エンタメ”として楽しんでいる。多くの詐欺師は、スリルとコントロールの快感を求めて犯罪を働いており、そこから得られる収入にはさほど興味がないケースが多い。つまり、「自分の作り上げた世界に他人を引きずり込むこと自体が喜びになっている」わけで、これはある意味で“現実を舞台にした一人芝居”であり、被害者は知らずにその脚本に出演させられているのだと言える。
ってことで、本書のごく一部を紹介しましたが、単なる詐欺対策マニュアルではなく、人間心理と信頼のメカニズムに踏み込んだ一冊になっていて、「カルトの洗脳」「悪質セールス」「SNSでの恋愛詐欺」あたりに興味がある方にも、楽しく読めるのではないかと思いました。おそらく、これは邦訳が出るでしょう。