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陰謀論を信じるのは特殊な人ではない? 誰もが陰謀にハマる思考のワナを持ってるから気をつけようねー、という研究の話


   

陰謀論が好きな人は「ワクチンは有害だ!」「月面着陸はウソだ!」みたいなことを言うわけで、はたから見ていると「なんでこんなことを……」という気分になるはずであります。

 

その原因はいくつも考えられますが、よくあるのはこんな考え方です。

 

陰謀論を信じる人は、証拠を吟味するのをめんどくさがるからだ!

 

いわゆる“認知的怠け者(cognitive miser)”仮説ってやつで、ヤバい陰謀を信じる人ってのは、物事をしっかり考えずに、パッと目についた情報に飛びついてしまうのだって話ですね。これはなかなかありそうな仮説ですよね。

 

では、実際に陰謀論者は認知的な怠け者なのかってことで、心理学者のサミュエル・ロブソン先生らが行った研究(R)を見てみましょう。

 

 

実験1・2:信じる人も信じない人も、強い証拠を選ぶ

まず研究チームは434人の参加者を集めて、次の4つの陰謀論を信じるかどうかでグループ分けしました。

 

  • ワクチンは有害である
  • 気候変動はでっち上げだ
  • 地球は平らである
  • 月面着陸はウソだ

 

で、すべての参加者を「陰謀論を信じる派」と「陰謀論を信じない派」に分けたうえで、架空の専門家レポートを2パターン読んでもらったんだそうな。

 

  • 強いレポート:論理が一貫していて、専門的知識がしっかり示されている
  • 弱いレポート:矛盾が多く、趣味の話など無関係な情報が混ざっている

 

そのうえで「どちらのレポートが、どれくらい説得力があるか?」を評価させたんですね。

 

すると、実験の結果はシンプルで、どちらのグループも「強い証拠」のほうを明らかに高く評価したんだそうな。つまり、陰謀論を信じる派だからといって無条件に情報を飲み込むわけではなく、ちゃんと強い証拠と弱い証拠を区別して、説得力のある情報を見抜くことができていたってわけです。

 

 

実験3:時間を制限すると弱い証拠に流されやすい

続いて374人を対象にした実験では、今度も上記と同じように、参加者に架空の専門家レポートを読むように指示。ただし、この実験に限っては「読む時間」に制限をつけたんだそうな。

 

  1. 無制限で読めるグループ
  2. 30秒しか読めないグループ
  3. 30秒ってのはざっくり斜め読みはできるけど、細部までチェックするのは難しい時間です。

 

すると、今度は少し結果が変わりまして、「強いレポート」が相変わらず「説得力ある」と判断されたのは同じだったんですが、短時間でレポートを読まされたグループは、陰謀論を信じると信じないとに関わらず「弱いレポート」にも騙されやすくなったんですよ。これはつまり「時間に追われると、誰でも誤った情報を鵜呑みにしやすくなる」ということを示しているんでしょうな。

 

じゃあ、なぜ最終的に陰謀論を信じる人と信じない人の違いが生まれるのかってことですが、研究チームの結論は明快で、「(陰謀論者)は情報を集める努力が足りないのではなく認知バイアスの方向性に問題がある!」としております。

 

具体的に挙げられている要因としては、

 

  • 動機づけられた推論
    • → 自分が信じたい結論に合う情報だけを重視してしまう。
    • → たとえば「政府は信用できない」と思っている人は、それに合う証拠を強調して読む。

 

  • 過信 → 「自分は分析が得意だから間違えない」と思い込み、慎重さを失う。

 

  • 専門家不信 → 内容の正しさよりも「誰が言ったか」を基準に評価してしまう。

 

  • 証拠の基準が違う → 科学的データより「直感」や「自分や知人の体験」を“真の証拠”として扱う。

 

要するに、「陰謀論者は情報の精査を怠けて考えない」のではなく、考える基準がズレているだけなんだってことですね。げに恐ろしきは、認知バイアスであります。

 

でもって、さらに重要なのは、このような傾向が「陰謀論を信じる人だけ」に当てはまるわけじゃないってところです。

 

  • 誰でも時間がないときは、弱い証拠に引っかかりやすくなるよ!
  • 自分が信じたいストーリーに沿った情報は、強く感じられてしまうよ!

 

これらの傾向は陰謀論者でなくともよく見られるものでして、つまり「陰謀論に騙される人=特殊な思考の人」ではなく、私たちもいつ同じ土俵に立たされるやもしれないのだと申せましょう。「いや、自分は陰謀論なんて信じない!」と思う人も多いでしょうが、ちょっとした条件(疲れている、急いでいる、不安が強いなど)がそろえば、誰でも似たような判断ミスを犯す可能性はありますんで。これは『社会は、静かにあなたを「呪う」』にも書いたポイントに近いところでして、私も気をつけないとなー、とか。

 

ってことで、この研究をもとに、私たちが心がけるべきポイントをざっとまとめておくと、以下のようになるでしょう。

 

  1. とにかく判断を急がない:実験3で分かったように、短時間だと弱い証拠にもだまされやすかったりする。なので、大事な判断をするときは「一晩寝かせる」ぐらいの余裕を持ったほうが賢明。メールの返信やSNSでの反論も同じで、即レスしたくなったときほど「ちょっと待て」を合言葉に。


  2. 「なぜ自分はそう思いたいのか?」を自問する:動機づけられた推論を避けるには、判断のたびに「自分はどんな結論を望んでいる?」と問いかけてみるのが有効。「これは自分の信じたいストーリーに合うから正しいと思いたいのか?」と一歩引いてみるだけで、だいぶ冷静になれるはず。


  3. 「証拠の基準」を共有する:議論がかみ合わないのは、証拠の基準がそもそも違うから。「自分にとっての証拠はデータだが、相手にとっての証拠は体験談」とジャッジしちゃうのはよくある話なので、そんなときはまず「どんな証拠を信じるか?」という前提を共有することが大事になる。ここをすっ飛ばすと、いくら話しても平行線になっちゃうので。

 

そんなわけで、今回の研究に照らせば、陰謀論者は決して「知性の低い怠け者」なのではなく、結局のところ人間を分けるのは「努力するかどうか」じゃなく「どういう基準で世界を解釈するか」だってことがわかるわけです。上記のポイントは、『社会は、静かにあなたを「呪う」』にも書いた「呪いから身を遠ざける方法」にも近いので、あらためて脳に入れておくと良いのではないかと。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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