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落ち込んでるとき、なぜか判断ミスが増える理由を考えてみた研究の話

 
 

ネガティブな感情が離れない!みたいな日は、誰にでもあるんじゃないでしょうか。友人とケンカをした後で、「仕事に集中しなければ」と頭ではわかってるのに、どうしても感情が脳内から離れてくれず、目の前の資料がまったく頭に入ってこない……みたいな状況ですね。

 

このような状態について、最近ちょっと興味深い研究(R)が出まして、「ネガティブな感情は認知リソースをどれだけ食いつぶすか?」を実験的に検証してくれてて面白かったです。「感情的に揺さぶられたとき、人間の注意力や思考はどう変わるのか?」みたいなポイントを、調べてくれたわけですな。

 

 

「ネガティブな感情は注意を狭める」説を再検証してみよう!

この研究は、ライデン大学の研究チームによるもので、彼らが着目したのは心理学の世界で有名な「ブロードン&ビルド理論」であります。これは、ざっくり言えば、

 

  • ポジティブな気分のときは視野が広がり、創造性や柔軟性が高まる
  • ネガティブな気分のときは視野が狭まり、細部への注意が強くなる

 

……みたいな考え方ですね。心理学の教科書にも載ってたりするし、私も自著の中で何度か取り上げているので、ご存じの方も多いでしょう。

 

でもって、ここで研究チームが注目したのが、「この理論って現実のシチュエーションではどう再現されるんだ?」という素朴なポイントであります。たしかに、実生活では感情が100%ネガティブとかポジティブになることって多くないので、この理論が現実ではどう使えるのかを考えるのは大事っすね。

 

ということで、ここで研究チームが導入したのが「ナボン課題」という心理実験であります。これがどういうものかというと、

 

  1. 被験者に「大きなアルファベット」を見せる
  2. その文字は「小さな別の文字の集合」でできている(例:「H」で構成された大きな「E」みたいな)

 

という画像を使い、参加者が「大きなアルファベット」と「小さなアルファベット」のどちらに注目するかをチェック。これにより、みんなの注意が「全体を見る」か「細部を見る」のどちらに向かっているのかを調べたんですな。これを「ブロードン&ビルド理論」に当てはめると、当然ながらネガティブな気分のときには細かい「H」に目がいきやすく、ポジティブな気分のときは全体の「E」が目に入りやすくなるだろうと考えられるわけです。

 

で、実験では、被験者に自分の過去のポジティブ or ネガティブな出来事を思い出してもらい、その後でナボン課題を解いてもらったとのこと。その結果、何がわかったかと言いますと、まずブロードン&ビルド理論の通りに、ポジティブだと視野が広がり、ネガティブだと狭まるという傾向は部分的には確認されたものの、それより注目すべきは以下の点でしょう。

 

  • 感情的な刺激は、注意を引きつけるだけでなく、思考の資源をロックしてしまう傾向がある!

 

要するに、ネガティブな感情が強いと、その感情が脳のリソースを専有してしまって、次のタスクのパフォーマンスが落ちるってことですな。

 

これは、おそらく誰もが心当たりのあるところでして、

 

  • ケンカの後、メールの文章がやたらと書けなくなる
  • ミスを引きずって、集中力がガタ落ちする
  • 落ち込みすぎて、文章の「読み返し」が増える

 

みたいな問題は、まさに「感情が脳内の作業メモリを食ってしまってる」ことにより起きるのだと考えられるわけっすね。

 

 

感情を切り離せると、人生の質が上がる

では、「感情による脳内メモリの侵食」はどうすればいいのかって話になるわけですが、今回の研究を見る限り、「感情の処理を後回しにして無理やり思考に集中する」って手段は、あまり現実的ではないみたいっすね。むしろ、まず感情をきちんと認識し、処理してあげることが、結果的に思考のパフォーマンスを高めることにつながるんだろうと思うわけです。

 

つまり、

 

  1. ネガティブな気分になっていることを認識する
  2. それによって、今は思考リソースが奪われやすい状態だと理解する
  3. 無理にタスクを詰め込まず、まずは感情に向き合う

 

みたいなプロセスをふまないと、なかなかこの問題は解決しないのだろうと思われるんですよね。

 

個人的には、ここでのキーワードは「感情の明確さ」だと考えてまして、これは「自分の感情を正確に認識し、適切に対処できる能力」のことことです。『無(最高の状態)』にも書いたとおり、この力が高い人は、感情に呑まれずに、パフォーマンスを維持しやすいことがわかってまして、同じことは「感情による脳内メモリの侵食」にも当てはまるんじゃないか、と。

 

この能力を高める方法はいろいろあるんだけど、

 

  • 日記を書く(感情の言語化)
  • 瞑想(思考と感情の距離を取る)
  • 感情ラベリング(「これは怒り」「これは不安」と明確化する)

 

といった習慣が効果的だと思いますんで、日常的にやっておきたいところっすね。

 

ということで、簡単にまとめると、私たちの思考は感情のせいで簡単に低下するものなので、「なんか今日は集中できないな……」と思ったときは、もしかしたら感情の明確さを意識してみると対処しやすいかもしれません。心がもやもやしているなら、タスク管理アプリを開く前に、自分の感情にラベルを貼ってみる……みたいなことでして、それだけで、案外スッと集中力が戻ってくるかもしれませんなぁ。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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