このブログを検索




「一番メンタルが崩れるのは50代・低所得層だった」件について

 
 

こないだ「近年は若者のメンタルがヤバいのでは?」みたいな話を書きました。昔は「たいていの人は中年期にメンタルが低下する!」みたいに言われたもんですが、近年は「若者のほうがヤバい傾向があるんじゃない?」って報告も出てるよー、って内容ですな。

 

でもって、新たな研究(R)も「中年の危機」にまつわる問題をあつかってまして、こちらでは「本当にしんどい中年層はちゃんと存在している!」って結論になってて、これもまた納得感がありました。

 

これはスタンフォード大学の研究チームによる研究で、アメリカの公的データベース(BRFSS)を使って、2003年から約20年間にわたって集められた530万人分の健康データを分析。身体とメンタルの調子が悪かった日数、日常生活がうまく送れなかった日数などを収集し、所得や人種などを考慮に入れたうえで「中年層の健康状態の推移」をチェックしたんだそうな。

 

その結果、はっきりわかったのは以下のポイントであります。

 

  • メンタルが最も落ち込むのは、50代でなおかつ低所得の層だった

  • 「低所得」といっても、最下層(15%以下)だけではなく、「所得が下〜中の下くらいの層(16〜45%)」もガッツリ影響を受けていた
  • 対照的に、60代以降は低所得でもメンタルが持ち直す傾向があった

 

ってことで、簡単にまとめると「中年期にメンタルを大幅に崩す人はいる。しかし、すべての中年がそうなるわけじゃなく、収入の低さが原因かもしれない」ってことですな。うーん、しんどい結論だぜ。

 

 

なぜ50代の低所得層だけがこんなにしんどいのか?

となると、ここで不思議なのが、「なぜ60歳を超えるとメンタルが持ち直す人が多いのか?」ってとこでしょう。普通に考えると、高齢になるほど健康問題は増えるはずですし、収入だって減るはずですからねぇ。それなのに、60代のほうがメンタル的には良好なんだから不思議なもんです。

 

その理由として、研究チームは以下の仮説を立てておられます。

 

  • 60歳以降は社会保障(メディケア、メディケイド、年金)を受けられるようになる
  • 50代のうちは、そうした制度の恩恵にまだ完全には預かれず、かつ将来への不安がのしかかりやすい
  • その結果、「病気になるには早すぎる。でも将来の見通しは暗い」という状態に陥りやすくなる

 

というわけで、こないだのアメリカ大統領選でも話題になった「忘れられた中流」の問題が、ここに表れているんじゃないか、と。研究チームは、こうした50代の低所得者層を「絶望死」にもっとも近い存在として位置づけてるんですが、これは過去にアメリカの疫学研究で問題になった話で、

 

  • 近年、中年の白人アメリカ人が、アルコール依存、ドラッグの過剰摂取、自殺のせいで死亡する確率がめっちゃ増えている

 

って現象を意味します。アメリカでは中年が社会的に追い詰められることが多く、その結果としての死亡リスクが増加しちゃっているというんですな。しかもこの傾向は、特定の人種に限らず広範囲に見られたそうで、なかなか深刻な話です。ここらへんに興味がある人は「絶望死のアメリカ」などをチェックしてみてくださいな。

 

もちろん、これはアメリカの話なので日本だとまた事態は変わってくるんでしょうが、個人的には似たような事態はありそうだなーとか思っております。というのも、日本では高齢者への公的支援はわりと手厚い一方で、

 

  • 40代〜50代の中高年層

  • 特に独身・子なし・非正規雇用者

 

ってのは、支援の網からスルッと抜け落ちてしまうケースが多いんで。実際のところ、特に日本は40〜50代男性の孤独感が高いって話もあるし、年収300万円未満の層のストレスレベルが高いって報告もあるんで、今回のスタンフォード研究が指摘する「50代・低所得者層のメンタル悪化」は、未婚・非正規・低年収の中年に強く当てはまる可能性があるかもなぁと。特に今の50代は、バブル崩壊や就職氷河期をくぐり抜けて、長時間労働や非正規雇用を経験してきた上に、今でも格差が固定されちゃった世代ですしねぇ。日本では全年齢で国民皆保険なので、アメリカほどではないかもしれませんが。

 

なんだか気が重くなる話ですけども、ここで研究チームは以下のようなポイントをまとめてくれております。

 

  • 60代以降にメンタルが改善するのは、「社会的支援」が整っているからである
  • つまり、公的制度があるだけで、人にメンタルはめっちゃ安定し得る

 

つまり、「50代の中年ってのは公的支援の谷間にいるから、ここのサポートを厚くするといいよねー」ってことですな。ここらへん、『社会は、静かにあなたを「呪う」』でも触れたとこですけど、不況の割を食った世代はどうにかして欲しいもんです。とりあえず、政治の話は面倒に感じがちだけど、自分に直結する制度(年金、医療、生活支援など)の予算がどうなるかはチェックしとくと良いでしょうな。あと、いまの50代の人は、「この年代は、周囲からのサポートが薄くなりがちだ!自分は若者でも高齢者でもない『はざま世代』なのだ!」って意識を持ちつつ、自分のメンタルの異変をモニタリングしとくしかないでしょうね。

 

いずれにせよ、この研究でわかるのは、「年を取るからしんどい」のではなく、「サポートのないまま年を取るとしんどい」という事実なんで、そこを念頭に置いておくだけでもある程度の自衛になるんじゃないかと。


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM