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感情に左右されない人の秘密は、「感情に気づける力」なんだなぁ、という話

 
 

皆さんも、こんな経験はありませんでしょうか?

 

「なんかよくわからんけど、この選択はやめておいたほうがいい気がする…」

「どう考えても、こっちのほうが合理的なのに、つい逆の選択をしてしまった…」

 

このような「感情」にもとづいた直感でなんらかの判断を行うような場面は、仕事でもプライベートでも日常的によくあるんじゃないでしょうか。

 

で、ここで取り上げるのは、まさにこの「感情」と意思決定の関係を検証した研究(R)でして、ビクトリア大学のチームが「感情知性(Emotional Intelligence、以下EI)」がどこまでリアルな判断力に影響を与えるのかをテストした内容になっております。

 

その結論をまずは申し上げますと、

 

  • 「自分の感情を理解する力」が高い人は、高リスクな状況でも正しい判断を下せる傾向がある

 

というものでして、なかなか興味深い結果になってるんじゃないかと。

 

感情知性(EI)って言葉については、近年はだいぶポピュラーになってきましたけども、その定義をざっくり分けると以下の2つの視点にわかれてます

 

  • 自己理解(Intrapersonal EI):自分の感情を識別し、うまく扱える能力

  • 対人理解(Interpersonal EI):他人の感情を読み取り、適切に反応できる能力

 

今回の研究では、この2つのどちらが「実践的な判断力」に関わっているのかを調べるため、いくつかの実験タスクを使っております。

 

この実験では、18〜35歳の男女149名に対して、「MSCEIT」という感情知性の能力テストを実施。その後、以下のような判断タスクに挑戦してもらってます。

 

  1. アイオワギャンブル課題(IGT)→ 高リスク高リターン vs 低リスク低リターンのカードを選び続けるテスト。だんだんと「どのデッキが損か得か」が見えてくる構成で、いわば“経験学習型”の判断力を測定している。

  2. バルーン課題(BART)→ 風船を膨らませるごとにポイントが増えるけど、割れると全部パーになるというゲーム。割れるタイミングはランダムなので、運と感情のせめぎ合いが試される。

  3. コロンビアカード課題(CCT)→ 32枚のカードから、どれをめくるか決めるテスト。損が出る確率が高い場合は、早くやめるのが正解。

 

いずれの課題も、うっかりテンションが上がるとミスしやすい構造になってまして、冷静さと感情コントロールが大事になってくるところが共通しております。

 

さて、それではこのテストで良い成績を出したのは、どういうタイプの参加者だったのか?

 

  • 全体として、感情知性が高い人ほど、的確な判断を下せた
  • なかでも特に成績が良かったのは、「感情の理解」に関するスコアが高い人だった
  • 他人の感情を読む力や、感情をコントロールする力よりも、まずは「自分の感情をちゃんと理解できているか?」がカギだった

 

ということで、実験の結論としては、「自分の感情を見極める力が、リスクの高い状況でも冷静な判断を可能にする」という、このブログではおなじみのメッセージが導かれたわけですね。やっぱ自分の感情を理解する能力は大事ですねぇ。

 

というと、「感情を理解したところで、意思決定の質まで変わるものなの?」って疑問を持つ方もおりましょう。しかし、たとえばSNSで見たインフルエンサーの投稿に心がざわついてしまい、「私も〇〇をやらなきゃ!」と焦ってよくわからんセミナーに申し込んでしまいそうになった……みたいな状況があったとするじゃないですか。こうしたときに、自分の中で「いま私は興奮してるな」「いま私は不安で焦った判断をしてるな」「いま私は見栄で判断してるっぽいな」みたいな感じで冷静に感情をキャッチできれば、誤った判断を防ぐ可能性は上がるはずであります。今回の研究が示すとおり、「感情の理解力」こそが、戦略的かつ合理的な意思決定を可能にしてくれるわけですな。

 

では、この「感情の理解力」はどうやったら鍛えられるのかってことですが、これは完全に私見ですが、以下のようなアプローチが有効かと思っております。

 

  • ジャーナリング(感情記録):1日3分でいいので、今日感じた感情とその理由を簡単に書き出す。習慣化すると、感情のラベリング能力が向上する。

  • マインドフルネス瞑想:特定の感情に気づいて、流していくトレーニング。特に「オープンモニタリング型」が有効とされている。

  • 内省的質問を自分に投げる:「いま何を感じてる?」「この感情はどこから来た?」といった問いを日常的に持つことで、感情を“俯瞰”できるようになる。

 

ちなみに、こうした練習によって感情知性が高まると、単にリスク判断が上手くなるだけでなく、人間関係の質やストレス耐性も向上するとする研究も多いんで、やっぱこれはトレーニングしとくと良さそうですな。我々はとかく、「合理的に判断しているつもり」でいて、実は感情に乗っ取られていることがよくありますんで、そういうときに自分の感情を理解して距離を取ることができれば、より良い選択ができる可能性がグッと高まるっぽいので。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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