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「年寄り扱いされたくない!」と思う気持ちが、実は寿命を延ばすかもしれない件

 
 

年を重ねるにつれて、「物忘れが多くなったなぁ」とか「体力の衰えを感じるなぁ」と思うことが増えるわけです。私自身、加齢の影響をひしひしと感じることが多く、「固有名詞が出ない!」とか「心肺機能が落ちた!」などと想ってしまう機会も増えてまいりました。

 

そんな中、加齢に対する考え方、つまり「老い」にどんなイメージを持っているかが、寿命にまで関わってくるという研究(R)が出たんですが、これがまた一筋縄ではいかない話になっていて良かったので内容をメモっておきましょう。というのも、この研究は「年寄りなんてヨボヨボでしょ」といったステレオタイプな“エイジズム”が、なぜか私たちの寿命を延ばすかもしれないって結論になってるんですよ。

 

 

エイジズムは悪ではなかった?問題

まずは前提から整理しておきましょう。エイジズムってのは、簡単に言えば「年を取ってる=ダメ」と決めつける偏見のこと。たとえば、

 

  • 「高齢者はテクノロジーに弱い」
  • 「年寄りは頑固」
  • 「年を取ったらもうチャレンジできない」

 

みたいなもので、こういったイメージが、それに当てはまるかどうかに関係なく、すべての高齢者に対して貼られちゃうって問題であります。これまでの研究では、こうしたエイジズムを内面化した人は寿命が縮む傾向があると言われてまして、たとえば2009年にベッカ・レヴィ博士が発表した「ステレオタイプ内在化理論」(R)によると、「自分は老いた」「もう無理だ」と信じてしまうと実際に健康が悪化し、死亡リスクが上がるとされているんですな。だからこそ、「老いにポジティブなイメージを持ちましょう!」というキャンペーンが世界中で行われてきたわけですし、私も「エイジズムはよくないよー」って話を自著にも書いてきたわけです。

 

が、今回フリードリヒ・シラー大学のチームが行った最新の研究(2025年)では、「年寄りはダメだ」と思っている人のほうが長生きするかもしれないという真逆の結果が出てまして、なんとも不思議なわけです。

 

研究の概要を簡単にチェックしとくと、研究チームは30〜80歳のドイツ人768人を15年にわたって追跡調査。その間に、「老いに対してどういうイメージを持っていたか」と、実際の寿命との関係を分析したら、以下のような傾向が見られたらしいんですな。

 

  • 「世の中の年寄りは人付き合いが少ない」と思っていた人のほうが長生きだった
  • ただし、「自分が年を取ったら人付き合いが少なくなる」とは思っていなかった

 

ということで、従来の考え方とはやや異なり、「年寄りは衰える」と思っている人は実は長命な傾向があったんだ、と。しかし、ここにはちょっとしたツイストがありまして、「他の高齢者は衰えているけど、自分は違う!」と信じていた人のほうが、長く生きる傾向があったって感じでまとめられるでしょうね。

 

 

 

キーワードは「ディスシミラリティ・サーチモード」

ではなんで、こうした“エイジズムっぽい考え方”が長寿につながるのかってことですが、研究者たちは、このメンタルの動きを「ディスシミラリティ・サーチモード(非類似性探索モード)」と呼んでおります。簡単に言うと、

 

  • 「老いってイヤだよねー。でも、私はその“老い”とは違う存在なのだ!」

 

という思考スタイルを意味しております。なんだか嫌なヤツっぽい考え方のようですが、このモードに入ると、私たちは「老い=ネガティブ」という社会的な刷り込みにある程度まで同調しつつ、自分自身はそこから距離を取ることができるんですね。その結果、

 

  • 健康的な行動を維持しようとする(まだ若いと思っているから)

  • 社会的にもアクティブであろうとする(老いを拒否しているから)

  • 認知機能の低下を自分事と思わない(ので対策を取るから)

 

といった行動が引き出されると考えられるわけです。エイジズムを認めることで、それが逆にアンチエイジングのモチベーションをブーストするってことですね。

 

と、ここまで聞くと、「じゃあ、むしろ“年寄りはダメ”って思ってたほうがいいのでは?」と思ってしまいますが、話はそう単純じゃなかったりします。というのも、この「自分と高齢者を切り離す戦略」ってのは、一種の現実逃避に近い面もあるんですよね。「いつかは自分も老いる!」「年を取ったら身体的にも精神的にも変化は避けられない!」みたいな現実から目を背け続けると、かえって心の準備ができないまま、急激な衰えに対応できなくなってしまうリスクもありますからねぇ。

 

これに加えて、「他の年寄りを見下す」ような感覚を持ち続けると、社会全体の高齢者観も悪化しちゃって、結局は自分に跳ね返ってくる可能性があるのも怖いところです。いわゆる構造的エイジズムってやつですな。

 

というわけで今回の研究を通してわかるのは、

 

  • 老いに対して完全にネガティブな見方を持つのはリスクである

  • でも、「自分はまだ老いていない」と思うことは、健康に良い影響を与えるかもしれない

  • 最終的には、「他人の老い」には距離を取りつつ、「自分の老い」とは丁寧に向き合うことが大切だよなぁ

 

みたいなとこじゃないでしょうか。そう考えると、「老い」に対するスタンスってのは、なかなか絶妙なバランスが求められる感じですかね。とりあえず、老いのステレオタイプには敏感になりつつも、常に「それって本当?」と問い直すクセをつけつつ、新しい趣味に挑戦したり、軽めの筋トレや散歩を日課にするなど、「若々しい自分」を実感できる体験を積み重ねる……みたいなイメージになるかもしれませんなぁ。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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