「自分は幸福のためにお金を使えてるか?」を判断する32のチェック項目
「消費資本主義!」って本を読みました。著者は進化心理学者のジェフリー・ミラーで、過去に「恋人選びの心」っていう楽しい本を出した人。
私たちはなんでモノを買うのか?
ざっくりいえば「人はなんで不要なモノを買うの?」って問題をとりあつかった本で、そこらへんを進化心理学ベースで解説していくの本です。日用品なら金を出すのも仕方ないけど、なんでムダに高い高級車を買ったり、やたらと海外旅行に行ったりするのか?みたいな。
というと、一般的には「金持ち自慢」とか「センス自慢」みたいな指摘をされがちですが、これは進化論の本なので、もうちょい下のレイヤーを見ていくわけです。では、人間は高級品を買うことで何がしたいのかといえば、周囲や異性に「自分は健康で頭が良くていい人間だよ!仲間や恋人に選ぶには最適だよ!」と知らしめたいからであります。
そもそも人類が進化した環境では、
- 恋人を作って子孫を残す
- 仲間を増やして生存率を上げる
ってのが2大テーマだったため、周囲に自分の健康さや頭の良さをアピールするように、遺伝子ができあがってきたんだ、って考え方ですね。ここらへんは非常に納得しやすいところではないかと。
現代人はIQと性格アピールのために金を使っている
では、具体的に現代人がどんな特性をアピールしたいのかというと、
- IQ(一般知性)
- ビッグファイブ
の2つです。どちらも当ブログではおなじみのポイントで、「IQが15ポイント上がると21%長く生きられる」とか「3分で自分の性格を正しく理解するショートビッグファイブ検査」なんてのを取り上げております。要するに、ヒトは現在の状況に応じて、自分の知性とキャラクターを周囲に伝えるためにモノを買うんだ、と。
本書の例で言いますと、
- デビッド・リンチの映画は「こんな作品を見ても正気でいられるほど自分のメンタルが強い!」ことのアピール
- わざわざペットを飼うのは「こんな手間のかかる生き物を飼う俺は誠実性が高いぜ!」アピール
- 断捨離やミニマリスト的な暮らしは「俺は消費社会に惑わされない知性の持ち主だぜ!」アピール
みたいな感じ。
もちろん、たんに「猫は癒される!」からペットを飼う人も多いので、すべてに当てはまるわけじゃありません。あくまで、どんな消費の裏にもIQとビッグファイブアピールの要素は忍び込むよーってことです。
ここらへんの事例はとてもおもしろいんで、マーケティングとかが好きな人には参考になるところが多いんじゃないでしょうか。
「自分は幸福のためにお金を使えてるか?」を判断する32のチェック項目
以上の話をふまえたうえで、本書の後半では「アピール消費にまどわされずに、人類の進化にもとづいた行動をして幸せになろう!」という「パレオダイエット」的な話に進んでまいります。このあたりは、「他人のためにお金を使う方が幸せになるぞ!」や「モノよりも経験を買うべし!」みたいなポジティブ心理学の主張とも通じるところですねー。
ってところでミラー博士は、「いまの自分がどれだけ進化にもとづいた幸せな暮らしができているか?」を判断するチェックリストを提供してくれております。診断は簡単で、この1か月で、以下のような体験をそれぞれ何回ずつしたかを数えてみればOK。
- 赤ちゃんをゆすって寝かせつけた
- お話を作って子供に聞かせた
- 暖かい日の出の光を顔にうけた
- 熟した果物を食べて空きっ腹を満たした
- 冷たい水を飲んでのどの渇きを癒した
- 子供を危険から守って勇気を示した
- 緊急時に指導力と創意工夫を発揮した
- 親や兄弟姉妹その他の親族と食事を分け合った
- 旧友と噂話に興じた
- 新しい友達をつくった
- 何か美しいものをつくって誰かにあげた
- 壊れたものを修理した
- 勤勉に練習して技能をのばした
- 身の回りに生きている植物や動物について何か新しいことを知った
- 新しい証拠にもとづいてなにか大事なことについて考えをあらためた
- 年長者のよい助言にしたがった
- 有用な技能や魅力的な芸術や面白い事実を年下の人間に教えた
- 犬、猫、サルといった毛皮のふさふさした動物をなでた
- 土、粘土、石、木、繊維をいじった
- 今際の際にいる人を看取った
- 丘を越えたり川を渡ったりした
- さえずりで鳥の種類を聞き当てた
- 地域の式典、祭り、劇、パーティーで大事な役どころを担った
- 他人といっしょに集団の目標を達成するために体を動かして働いた
- 愛情を示すために言葉を発さないままアイコンタクトを交わした
- もっと大事な良いことのために、誰かひどい振る舞いをしている人間を恥じ入らせた
- ユーモアや情動の自己制御や対人的な共感を使って深刻な議論を解決した
- 友人たちといっしょに歌ったり踊ったり楽器を演奏したりした
- 友人たちを爆笑させた
- 性的パートナーと2人一緒にとろけるようなオーガズムに達した
- 背筋がぞわぞわするような崇高な美を経験した
- 宇宙と一体になって広大な大海のような広々とした感覚を経験し、「教会はこうあるべきだ」と考えたりした
- 誰か困っている人を助けた
- 星空の下でたき火をたいて暖まった
すべてをカウントしたら、あとは各項目の数字を合計すれば終了。合計スコアが100未満で普段から幸せを感じられてないなら、ちょっと自分の金づかいを考え直しつつ、上のような行動を増やしていく方がいいかも。
「買ったもので幸せになれたか?」を判断する「所有者の練習問題」
また、個人的にもうひとつ参考になったのが「所有者の練習問題」ってやつ。本当に自分の金の使い方で幸せになってるのか?を手っ取り早く判断するには最適ではないかと。
具体的なステップはこんな感じです。
- これまでお金を払ったなかで、いちばん高価なモノを10個リストにしてみる(製品、サービス、体験など何でもOK。住宅や結婚式、離婚、税金もふくむ)
- いちばん買って幸せになれたと思うものを10個リストアップする
- 両方のリストに出てきた品目がどれぐらいあるかを比べてみる
これまた、自分がお金を有効に使えてるかどうかを判断するには、なかなかよい練習ではないかと。私の場合、両方のリストが7個ぐらい一致してたんで、とりあえずいいのかな、と(ほとんど旅行とガジェットでしたが)。
まとめ
そんなわけで、 「消費資本主義!」は進化論で現代の「金づかい」を説明した楽しい一冊でした。余分な描写がかなり多いんで、手放しでオススメできないのが残念なんですけど、マーケティングや心理学に興味がある方なら得るものも多いかと存じます。
あと、個人的にはジェフリー・ミラーだと「恋人選びの心」のほうをオススメします。こちらは進化心理学で男女の出会いを読み解いた本で、そこらの恋愛本とかよりよほどモテるようになります(笑)。ただし今は絶版で古本に高値がついちゃってますが…。