「食後のインスリンが増えやすい人ほど太ってる!やはり糖質制限は正しかった!」ってどこまで本当?
近ごろ出た論文(1)が、糖質制限ダイエット界で「インスリンが肥満をもたらす証拠だ!」と騒がれておりました。これがなかなか面白い内容なので、ちょっとご紹介します。ややマニアックな話になるんで、めんどうな方は一番下の「まとめ」に飛んでくださいませ。
わりといい感じの研究法「メンデルランダム化」(読み飛ばし可)
これはボストン小児病院が手がけた研究で、およそ47万人のデータを使った観察研究になっております。というと、普通は「観察研究だとそこまで信頼がおけないなー」と思いがちなんですけど、この研究では「メンデルランダム化」って手法を使ってるのがポイント。
これは、すごーくざっくり言うと、遺伝子の個人差を使って原因を特定する方法のことです。たとえば、「悪玉コレステロールが多いと心臓病になるの?」って問題を調べたいときに、普通に一般人の日常を観察しただけだと、
- 運動をしてるかどうか?
- タバコを吸うかどうか?
- 野菜を食べてるかどうか?
- 年齢や性別の違いは?
などなど、いろんな要素がからみあっちゃって、何が原因で結果なのかすらわからないことになりがちなわけですね。
が、ここでみんなの遺伝子を調べて、
- 悪玉コレステロールが増えやすい(減りやすい)遺伝子を持ってるかどうか?
をチェック。そのうえで、悪玉コレステロールが増えやすい遺伝子を持ってる人が一貫して心臓病にかかりやすい傾向があれば、「やっぱ悪玉コレステロールは良くないんだろうなー」と言えるわけです。これでもまだ問題は残るものの、そこそこ精度の高い判断ができるんですな。
また、ここで逆に心臓病になりやすい遺伝子を持ってる人を調べれば、「コレステロールで心臓病になるんじゃなくて、心臓病がコレステロールの増加を起こすんじゃないの?」みたいな疑問についても調べられるのが嬉しいポイント。なんだかややこしい話ですが、リサーチの手法としてはわりといい感じなのだとお考えください。
食後のインスリンが増えやすい人ほど太っていた!
さて本題にもどりますと、今回の研究では、
- 食後にインスリンが増えやすい遺伝子を持ってる人
をピックアップしております。ご存じのとおり、糖質制限ダイエットは「食後のインスリンが肥満の原因なのだ!」って考え方なんで、上のような遺伝子を持ってる人ほど太ってるはずだ、と考えたわけです。
さて、それで何がわかったかと言いますと、
- 食後のインスリンが増えやすい人ほど太ってた!
って事実です。具体的には、インスリンが増えやすい人ほどBMIの数値が高い傾向が、ハッキリと確認されたんだそうな。これは確かに、糖質制限ファンが喜ぶのもわかりますねー。
インスリンは本当に肥満の原因なのか?
では、いっぽうで私はどう感じたかと言うと、このデータを見て、逆に「あー、やっぱインスリってダイエットに関係ないんだな」との思いを新たにしました。というのも、以下のグラフをご覧くださいませ。
これは、ざっくり言うと、インスリンが出やすい人はどれだけ太ってるのかを、データセットごとに示したもの。おわかりの通り、インスリンの出やすさとBMIの関係は、標準偏差が0.01から0.1の間に散らばっております。
インスリンではBMIの変化をほとんど説明できない
要するに、すごーく簡単に申し上げますと、
- インスリンは太る原因の1〜10%しか説明できない!
ってことです。逆に言えば、残りの90〜99%にはインスリンとは無関係の要素が働いてるわけでして、このデータで「インスリンが肥満の原因!」と主張するのは無理筋なんじゃないかと。
まぁこれまで当ブログでも、
なんてデータを紹介してきまして、「糖質制限ダイエットって他の方法より優れてるわけじゃないよなー」って結論だったわけです。インスリンが1〜10%ぐらいしか関係してないなら、それもそのはずと申しますか。
ちなみに今回の研究は、私が知ってるなかでは、インスリンと体型の関係についてもっとも徹底的に調べた内容かと思います。その結果、インスリンがどれだけ肥満に関わってるかが出たのは良いことっすね。
まとめ
というわけで、以上の話をまとめますと、
- 今回の研究は、これまでで一番ちゃんと「インスリンが多く出ると太るのか?」について調べている
- 確かに、インスリンが多い人ほど太い傾向があった
- しかし、インスリンとデブの関係は1〜10%しかなく、残りの90〜99%はインスリンで説明できない
- 結局、やっぱり「インスリンが肥満の原因」って考え方には無理がある
といったところです。いやー、糖質制限って本当にいいものですね(適当な締め)。