「初対面の人の会話がうまくいかなくて……」を克服するための心理学
初対面の人と話すときは誰でも緊張するもんです。わたしもコミュ障ぎみなんで、つい「この人にどう思われてるんかな……」と不安になることはよくあります。歳をとったせいでだいぶマシになりましたが、20代のころはゴリゴリの社交不安でしたね。
ってことでここでは、そんな方に役に立ちそうなデータ(1)のお話です。
これはハーバードやイエール大学などの共同研究で、「どうやら人間には『自分は他人から好かれないのだ……』と思いやすいバイアスがあるらしいぞ!」って現象を確かめた内容になっております。
まずは結論部から引用しますと、
今回の研究が示したのは、「会話の相手がこちらのことを好きかどうか?」を正しく判断するのは、私たちが想像するよりもはるかに難しい作業だということだ。この作業は社会生活には不可欠な要素で、多くの人は日ごろから大量の経験を積んでいるにも関わらず、相手の好意を推し量るのは難しい。
って感じ。とにかく人間ってのは相手の好意レベルを見抜くのが苦手な生き物なんだ、と。そのせいで無駄にコミュニケーションの食い違いが起きてるんじゃないか、と。
この結論を出すにあたって、論文では5つの実験を行っております。たとえばひとつめの実験では、
- 被験者たちに初対面の相手とペアを組ませる
- 5分間だけ好きなように会話をしてもらう
- 会話が終わったら、全員に「どれぐらい相手を気に入りましたか?」や「自分の会話をどう思いましたか?」を尋ねる
ってデザインで、会話中の心の動きを調べたんですな。すると、
- だいたいみんな「俺のことはそんなに気に入らなかったろうなぁ……」と考えた
- ところが、実際のレーティングでは、みんな「会話の相手に好意を持った」と答えた
って傾向が出たんですよ。つまり、たいていの人は、コミュニケーションの自己採点がムダに低くなりがちなわけですな。
研究者いわく、
大半の被験者は、「自分が何を言うべきか?」や「相手が自分を気に入ったサインを送っていないか?」といった心配ごとに飲み込まれていた。その様子は、会話を客観的に見ていた第三者からはすぐに見抜くことができた。
とのこと。どうやら人間のコミュニケーション評価には食い違いがあるようで、研究者はこの現象を「好意ギャップ」と読んでおります。
また、その他4つの実験でもほぼ同じ結果が出てまして、
- たいていの人は自分のコミュニケーション能力を過小評価しすぎ(「あそこでもっとうまいことが言えたのに……」とか、あとでダラダラ悩むケースが多い)
- 長い会話をしようがラボではない現実の会話だろうが「好意ギャップ」は起きる
- いったん「相手に気に入られなかった……」って気持ちが生じた場合、その感覚は数ヶ月にわたって続く
みたいな傾向も確認されてたりします。ネガティブな気持ちが数ヶ月も続くってのは驚きですが、自分の過去を振り返ってみれば確かにそうだったかも。
日常的なコミュニケーションの場では、私たちが相手に与えた印象について自信が持てず、会話中にとった行動に対して必要以上に批判的な目を向けてしまう。
一般的に、人間は他の場面ではとても楽観的な生き物だ。それにもかかわらず、コミュニケーションでは急に悲観的になってしまうのは驚くべき現象だ。
とのこと。たとえば、多くの人は「自分は間違いなく平均より頭がいい!」と考えがちだし、「他人より長生きするはずだ!」とか思っちゃう楽観バイアスがあるのは有名な話。ところが対人コミュニケーションでは、一気に人間はペシミストになっちゃうわけですな。おもしろいもんです。
言うまでもなくヒトは社会的な生物なんで、こういった現象が起きるのは不思議な気もするわけですが、研究者は以下のように説明してます。
おそらく、これは自己保身のための悲観主義なのだろう。私たちは、他人が本当に自分のことを嫌っている事実に耐えられないので、その前に相手が自分を気に入っていないと推測するのだ。
「好意ギャップ」は自分を守る予防線として働いてるって考え方ですね。思わず保険をかけちゃうぐらい、ヒトは他人の悪評を恐れる生き物なんだってことですな。うーん、身につまされる。
このバイアスをすぐに解除する方法はないものの、とりあえず「たいていの場合、相手は自分が思うよりもこちらを気に入ってるもんだ!」って事実を知るだけでもだいぶ解毒剤にはなるんじゃないでしょうか。どうぞよしなに。