絵がうまくなるにはどうすればいいのか?#2「ビジュアルセレクション」
ちょい前に書いた「絵がうまくなるにはどうすればいいのか?」シリーズの2回目です。
ざっくりおさらいしますと、「イラスト上達には何をすればいいの?」って疑問にお答えしたもので、第1回目では、
- 目と手の動きがスムーズにつながるトレーニングがいいよ!
- 目で見たものを細かく記憶する能力を鍛えてみよう!
といった話を描いてみました。そこで第2回目では、もっともイラストの上達に欠かせない「情報の取捨選択能力」について考えてみましょう。
ビジュアルセレクション
情報の取捨選択ってのは、要は「描きたいものからもっとも大事なものを選ぶ能力」です。たとえば「ラクダを描きたい!」と思ったら、とりあえず2つのコブを再現して、なんとなく間延びした顔が表現できれば……みたいに重要な部分が思い浮かぶはず。
こういった情報の選択をできるだけシンプルに素早くできる人は、基本的に絵がうまいんですな。科学的には「ビジュアルセレクション」と呼ばれるポイントです。
これがバツグンに得意だったのがピカソで、一時期は下のようなシンプルな線画を描きまくってたとか。ただの一筆書きなんですけど、ラクダの特徴が一発で伝わってくるから面白いもんです。
参照:http://www.picasso.com/picasso-line-art.aspx
「ビジュアルセレクション」の研究例としては2010年にニューヨーク市立大学が行った実験が有名で、アーティストと一般人をくらべたところ、
- 絵が上手い人ほど対象の重要なポイントをすばやく見抜く
- ついでに、対象を最小限の線で描くこともできる
って違いが出たんですな。当然、この能力は萌えイラストを描くにも必須でありましょう。
では、この実験では、どのような手段で「ビジュアルセレクション」を計測したかというと、
- 被験者にリアルな「象」の写真と、70本の細いテープを渡す
- 「できるだけ少ないテープで象を表現してね!」と指示する
みたいな手順になっております。すると、絵が下手な人はテープを使い切っても象に見えなかったのに、アーティストは10枚そこらで「これは象だ」とわかる作品を作り上げたんだそうな。おもしろいですねぇ。
ってことで、「ビジュアルセレクション」を鍛えようと思うなら、まずはできるだけミニマルな線で好きなものを再現するようなトレーニングを積むと吉でしょう。たとえば、「100本の線だけで描いてみる!」とか事前にルールを決めて練習したりとかですね。
その際には、つねに「この対象でもっとも大事なポイントは?」と自分に尋ねてみるのもアリかと思われます。
ネガティブドローイング
もうひとつ「絵の対象と情報選択」に関しておもしろいのが、2014年に行われたロンドン大学の実験(3)。これも美学生と一般人をくらべた研究で、その結論をざっくり言えば、
- 絵が下手な人は対象と対象の関係性を見抜くのが苦手
って感じです。たとえば人間の前にイスがあったりすると、ヒトと物体が重なるエリアをどのように表現いいかがわからなくなっちゃうんだそうな。確かに絵が苦手な人って、どんな三次元物体もエジプト壁画みたいにペターっとした感じで描きますもんね。
ってことで、ここらへんの能力を鍛えるために研究チームがオススメしているのが「ネガティブドローイング」であります。聞きなれない言葉かもですが、要は以下の画像のようなイラストのことです。
参照:https://www.pinterest.jp/cassiakiteart/positive-negative-space-drawings/
脚立を再現するときに物体の線を描くんじゃなくて、椅子が形作る空間から描き起こしていくわけですな。もし2つのオブジェクトがあれば、その物体同士のあいだにある空間を描いていけばOKであります。
なんだか奇妙なトレーニングのようですけど、これが物体同士の関係性をつかむには有効でして。なんだか「パースがゆがむなぁ……」みたいな場合にもよろしいのではないかと思われます。
まとめ
ってことでいろいろ描いてきましたが、とりあえず続けられそうなテクニックから手をつけてみていただければ幸いです。いずれにせよ練習を積まねばならないのは間違いありませんので。
で、最後にもうひとつ、2011年にニューヨーク市立大学が行なった実験(4)では、「絵が上手い人ほどアート制作でポジティブになりやすい」って結果が出てますので、ぜひ楽しんでやってくださいませー。どうぞよしなに。