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今週半ばの小ネタ(新型コロナエディション):ソーシャル・ディスタンスがうまくいかない理由、2メートルじゃ不足?、手の乾かし方


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。相変わらず新型コロナに関する新しいデータがいくつか出てたので、今回もそこらへんのまとめなど。
 

 

 

なぜソーシャル・ディスタンスはうまくいかないのか?問題

新型コロナ対策にはソーシャル・ディスタンスが大事!」とあらゆるメディアで言われてるわけですが、実際に行うのは難しいもの。どの国でも自宅待機を守ってもらうために苦労を重ねてるわけです。

 

 

というと、「まったく世の中には利己的なヤツが多いな」みたいな反応が上がるケースが多いでしょう。「みんなガマンしてるのに、自分の欲望を満たすために勝手に行動しやがって!」的なケースですね。

 

 

が、近ごろCurrent Biologyに出てた小論(R)に、「ソーシャル・ディスタンスが進まないのは人間の本能なのだ!」って指摘が出てておもしろかったです。

 

これはLMUなどのチームによるレビューで、過去の進化心理学研究などをベースに、以下のような知見をまとめております。

 

  • 人間の脳は、危険に直面すると本能的に身を寄せ合うようにデザインされている
  • 神経科学や心理学の研究では、世間で言われるほど人間は利己的ではないという事実を明らかにしている
  • 実際のところ、多くの証拠を見ると、危機的な状況におちいった人間はより協力的になり、通常よりも社会的な行動を取るケースの方が多い

 

「スーパーで買い占めが!」とか「パチンコ屋に行列が!」みたいなニュースを見ると、ついつい人間はかくも利己的な生物なのか……とか思っちゃいますが、過去のデータを見ると、たいていの人は新型コロナのような危機に反応して互いに助け合う方向にメンタルが切り替わるのだ、と。

 

 

研究チームいわく、

 

恐怖を感じた人間は数の上で安全を求める。しかし、現在の状

況では、この衝動は私たち全員の感染リスクを高めてしまう。これは基本的な進化のメカニズムにともなう難問だ。

 

とのこと。進化のメカニズムは「危機になったら助け合う」ってプログラムを人類に内蔵させたんだけど、これが現在の状況では逆効果になってるわけですね。

 

 

いかにも難しい問題ですが、チームは「このジレンマから抜け出すにはSNSをうまく使うしかないかなぁ」ぐらいの感じで提唱しておられます。とにかく人間は危機になるほど集まりたがる心理があるから、そこを認識したうえでオンライン上でより集まれ!ってことですな。まぁそれしかないっすよねぇ。

 

 

新型コロナを防ぐには2メートルじゃ足りない?

新型コロナを防ぐには2メートル離れよ!」ってのが現在のガイドラインですけども、「もしかしたらそれだけじゃ不十分かもよ?」と指摘するデータ(R)が出ておりました。

 

 

これはサニーブルック健康科学センターなどの調査で、新型コロナではなくインフルエンザに感染した人の咳を調査したものです。人間の咳がどれぐらいの距離まで飛び散るのかを高速カメラとレーザー光で確かめて、拡散力をチェックしたんだそうな。

 

 

そこでどんな知見が得られたのかと言いますと、

 

  • 数メートル離れたところにいる人が咳をした場合でも、その咳は3秒とかからずこちらに届く
  • 咳の飛沫の10%は、咳が終わってから4秒が過ぎた後でも大気中を漂う

 

だったそうで、たとえ2メートル離れたとしても咳の飛沫は防げないかもしれないみたい。やっぱ専門家がいう「ヒジマナー」みたいなのは正しかったんだなーって感じですかね。

 

 

といっても、チームいわく、

 

2メートルが安全だという論理的根拠はないが、1メートルかそれに近い距離よりははるかに良い。明らかに遠くにいるほど感染リスクは減少する。

 

とのこと。2メートルでも安全とは言えないものの、まぁ離れるにこしたことはなさそうであります。

 

 

 

いまのところ新型コロナを防ぐには「少なくとも20秒間は手を洗う!」ってのが基本中の基本なわけですけど、新たに「同じぐらい手を乾燥させる方法も大事だ!」って内容のデータ(R)が公表されておりました。

 

 

これはヨーロッパ感染症会議 (ECCMID) で発表されたもので、調査の内容を一言でまとめると、

 

  • ペーパータオルを使って手を乾かすのと、ジェットエアドライヤーを使うのではどっちがいいの?

 

みたいになります。最近の公衆トイレなどはペーパータオルとジェットドライヤーのどちらかを選べますが、果たして感染を予防するにはどちらを使うべきなのか?ってことですね。

 

 

研究チームは、被験者のに公衆トイレを使うように指示して、手を軽く洗った後でペーパータオルかジェットエアドライヤーのどちらかで手を乾かすように指示。その後、被験者たちが触れたドアノブ、階段の取っ手、電話など11カ所に残ったウイルスをチェックしたところ、結果はこんな風になりました。

 

  • エアドライヤーを使った場合は11カ所がすべて汚染されており、汚染度はペーパータオルの10倍だった
  • ペーパータオルを使った場合の汚染は6カ所だった

 

というわけで、ハッキリとペーパータオルの勝利だったらしい。というか、一部のジェットエアドライヤーには待機中に湿気を放出するものがあり、逆にウイルスや細菌を周囲にまきちらす場合もあったとか。どうやら公衆の場で手を拭くのはペーパータオルのほうが良さげっすね。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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