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2021年9月に読んでおもしろかった6冊の本と1本の映画と、その他もろもろ

 

月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2021年9月版でーす。今月は41冊の本を読みまして、なかでも良かった6冊をまとめてみます。

 

 

はじめてまなぶ行動療法

 

かわいい表紙で簡単そうに見えますが、実際の中身は第1世代から第3世代までの行動療法を手際よく概観し、さいごはDBTやACTといった最近の療法まで進んでいき、しかもそれぞれの原理と実践的な手法まで解説してくれる骨太な一冊でした。「心理療法に興味があるけど、いろいろ読むのはめんどうだから一冊で済ませたい……」みたいな方は、これだけ読んでみるのもありでしょう。

 

個人的には、行動療法が一貫して主張している「機能的な視点を持とうぜ!」ってポイントが好きで、人の認知や行動が持つ機能から現象を考えていくスタイルは、「」や「最高の体調」を書くうえでもメチャクチャ役立っております。


 

 

生きるために毒親から逃げました。

幼い頃から親に心理的虐待を受けていた著者が、親から完全に絶縁するまでを描いたエッセイ漫画。本作に登場する両親は肉体的な暴力こそふるわないものの、ジワジワと子供の精神を追い詰めていく様子が細かく描かれていて、海外のサイコスリラー並みに怖い仕上がりでした。ここまで激しい精神虐待でなくとも、自分の非を認めずに理想ばかりを押し付けてくるタイプの親はどこにでもいるでしょうな。

 

さらに本書では閲覧制限とか分籍の手続きまで記してあって、実用書としても使えるのがいいっすね。壮絶な環境を生き延びた著者には頭が下がりますなぁ……。

 

 

 

世界一やさしい依存症入門; やめられないのは誰かのせい?

 

7月のおもしろ本でも取り上げた松本俊彦先生が、中高生向けに依存症のポイントを教えてくれる一冊。違法薬物はもちろんエナジードリンクやスマホゲームへの依存まで取り上げているし、登場する具体例も平凡な子供からエリート学生まで幅広く、「依存は日常のすぐそばにあるぞ!」って視点が貫かれてて身が引き締まりますね。松本先生の本すべてに通底する「依存は本人の生きづらさの問題だ!」って考え方もしっかり提示されていて、10代のみならず「なんか生きるのがつらい!」と思っているすべての人は気持ちが楽になるでしょう。

 

ちなみに、「大人が信用できない!」っていうお悩みに、「上から目線のやつはヤバいよー」と教えているあたりは、自分も気をつけようと思わされました。

 

 

 

三体Ⅲ 死神永生

 

世界が絶賛する中国SFの最終巻。2作目のラストが見事にハマってたんで、「ここから続きができるの?」と思っていたら、さらにスケールが100倍ぐらいに跳ね上がっているし、こちらの予想を裏切り続ける上巻の展開もすごいし、ハードSF的なアイデアの畳み掛けはシリーズのなかでも最強だしで、三作のなかでは一番好きっすね。特に下巻の「次元を下げる攻撃で人類を絶滅に追い込む」って発想には腰を抜かされまして、ここまでSFでセンス・オブ・ワンダーを感じたのはひさびさでありました。

 

ちなみにわたくし、「三体Ⅱ 黒暗森林」の感想で、「1作目は異星人の描き方が普通でノレなかった」とか書いたんですけど、いま思えば作者は異星人の描写よりもずっと先を見てたんですね。すんませんでした(誰にともなく謝る)。

 

 

 

テスカトリポカ

 

子供の臓器売買にアステカの神話をからめつつ、徹底した暴力を描いた直木賞受賞作。本作で説明される犯罪システムのディテールがとにかくおもしろく、550ページを一気読みでありました。

 

といっても、本作は一般的なエンタメの文法とは違う語り方が意識されてまして、辛い出自を持つ主人公が闇社会をたくましく生き抜くピカレスクロマン!みたいなものを想像すると「あれ?意外とストーリーの起伏がないな?」とか思っちゃうはずなんでご注意ください。ここでやってることはコーマック・マッカーシーの諸作に近くて、雑に言えば「身近にあるかもしれないケタ外れな暴力の連鎖を描くことで、神話的な現実認知をもたらすぞ!」みたいなことです。そこさえ押さえておけば、楽しくお読みいただけるんじゃないかと。

 

 

 

正欲

 

なにかと多様性が叫ばれる昨今でございますが、本作では「あなたの多様性って自分だけの正義を押しつける棍棒になってません?」「本当の多様性って、思わずドン引きするようなことでも理解を試みることじゃないすか?」ってテーマをガツンと提示していて、新しい考え方が持っている罠をいちはやく物語に落とし込む著者の筆力にはビビらされます。個人的にも、学生のころから「ネクロフィルの苦しさってのもあるよなぁ……」とか似たようなことを思ってたんで、「ですよねー」って感じでした。

 

まぁテーマが明確なぶんだけ「絵解き感」が出ちゃうのは痛し痒しなんですけど、とりあえず読んでおいて損はない一作でしょう。

 

 

 

オールド

 

なぜか30分で1年ずつ加齢が進む謎のビーチに送り込まれた男女を描くスリラー。公式サイトでは「謎解きタイムスリラー」と表現されてますけど、実際には映画の力点はそこに置かれていなくて、「高速に進む時間のなかで人間の執着が変化するさまを描き、結果として人生の切なさを表現するぞ!」みたいなとこがポイントになってます。

 

といっても本作に堅苦しい描写はなく、「老化あるあるサスペンス」とも言うべきシーンを全編に散りばめた作劇が楽しい作品になってますんで、シュールな悲喜劇を楽しむ気持ちで行くのがおすすめ。中盤で出てくる「急激に成長した男の子と女の子に恋心が芽生えたら……」みたいなシーンは、ここ数年の映画で一番笑わされました。

 

 

 

その他、わりとおもしろかったもの

  • シャン・チー:MCUの新作。過去の香港カンフー映画へのリスペクトにあふれてるのと、中国の幻獣をハリウッドのCGで再現した描写にワクワクしました。

 

  • アナザーラウンド:うらぶれた学校教師が、酒の力を借りて人生を一発逆転しようとする話。最終的には結構な悲劇が起きるんですが、それを豪快に人生讃歌に持っていく手際がおもしろいです。

 

  • シャドー・オブ・ナイト:ネトフリで見たインドネシア産アクション。普通の裏社会もののように見せつつ、実際は「どれだけグロい肉体アクションを描くか」ってとこだけに特化した作りで、最近見た映画では一番の怪作でした。めちゃくちゃグロくて痛いシーンの連続なので、耐性がない人にはまったくおすすめしませんが。

 

  • 自由と成長の経済学 「人新世」と「脱成長コミュニズム」の罠:これまでの社会主義や共産主義がいかに失敗してきたかを説明し、大ベストセラー「人新世の「資本論」」のおかしさを説く一冊。「人新世の「資本論」」は未読なので、批判パートについてはなんとも言えんのですが、痛烈な共産主義ディスを楽しく読ませていただきました。

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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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