2022年2月に読んでおもしろかった6冊の本と2本の映画
月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2022年2月版でーす。あいかわらず新刊をずーっとやってるせいで読書数は低調で、今月に読めたのは23冊ほどでした。なかでも良かった6冊をまとめてみます。
NEO HUMAN ネオ・ヒューマン―究極の自由を得る未来
ALSを患った科学者が、自分をサイボーグ化して生きる様子を自ら記録したドキュメント。著者がALSを理論的に理解したうえで、現代の技術で死因をガンガン取り除いていく姿には共感しかなく、自分も似たような姿勢は失いたくないもんだな、と。
あと、ゴリゴリの科学書かと思って手に取ったら、どちらかといえばラブストーリーの要素が強くて、著者であるモーガン先生のファインマン・ミーツ・ホーキングみたいな明るいキャラも合わせて、ホロっとさせられました。
ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ
オーストリアのジャーナリストが、ネオナチ、キリスト教原理主義者、半フェミニストなどのグループに参加し、その実態を記録したルポルタージュ。以前に「ハイパーハードボイルドグルメリポート」を見たときも思いましたが、過激主義組織の人たちって物腰は意外と普通だったりするんだけど、なぜか急にトンデモないことを言い出して、その発言だけは心から信じている……みたいなケースが多いっすよね。
個人的には、それぞれのグループが使う勧誘の手法がおもしろく、「うまい具合に心理学を使ってるんだなぁ」というあたりは非常に勉強になりました。その点では、この知識はカルトの防衛用にも使えるし、カルトの運営用にも使えるでしょうね。
Anthro Vision(アンソロ・ビジョン) 人類学的思考で視るビジネスと世界
文化人類学にくわしいジャーナリストが、「ビッグデータだけじゃ人間の活動の本当のところはわからん!データを活かすためにも人類学の知見が必要だ!」といった知見を、自身の体験をもとに解説した一冊。確かに、データだけだと実際の解釈でつまづくことが多いなーとはよく思うことで、フィールドワークの発想をもとに金融危機などを考えていくあたり、人類学好きな私としては非常に楽しめました。
というか、グリーンスパンさんが、リーマンショックに反応して人類学を勉強しようとしてたって話は、ちょっとグッときました。
競争の科学——賢く戦い、結果を出す
「間違いだらけの子育て」で有名なポー・ブロンソンさんが、神経科学や心理学をもとに「競争ってなんだろう?」を考えた本。「人間が最高のパフォーマンスを出すためには、個々に最適な不安レベルを達成せねばならない」とか、「自分が獲得型と防御型かを見極めて競争しないと死ぬ」とか、「ホームの優位性はハンパないから絶対使うべき」とか、おもしろいトピックがまとまっててためになりました。
惜しむらくは、すべての知識が体系立てられてないので、副題にあるような「賢く戦い、結果を出す」って用途には使いづらいとこですけど、たんに「パフォーマンスを上げたいなあ……」ぐらいの人が読めば、なにがしか得るところはあるんじゃないでしょうか。
神曲 地獄篇
ここんとこやっている「古典を読んでみる」シリーズの一貫。格調高くて読みづらいイメージがあったんですけど、「地獄篇」に関しては、ホメロスやクレオパトラみたいな歴史のキャラがいっぱい出てくるし、バラエティに富んだ地獄が次々に出てくるおかげで非常に楽しく読めました。特に印象深いのが「頭だけが後ろを向いちゃう地獄」で、常に顔が背中を向いているせいで「流れた涙が尻の割れ目の間をつたう」みたいな描写が真面目に書いてあって激しく笑わされました。
あと、主人公のダンテがかわいくて、地獄が怖いといっては気絶し、ベアトリーチェ(理想の女神)に説教されては気絶し、天国で神が現れては気絶するあたり、こんなに気絶しまくるキャラが他にいたでしょうか。
ちなみに、この後に続く煉獄編と天国編については、よく知らないキャラが大量に出てくるうえに、キリスト教問答みたいなのが延々と続く展開なので、私の教養レベルでは太刀打ちできませんでした。トホホ。
滅私
世界初(かどうかは知りませんが)のミニマリストDIS小説。有名な日本のミニマリストを合成したような人物が主人公で、「ものを捨てるのは手っ取り早く達成感を味わえるから」とか「ものを捨てる作業はやがてやることがなくなるため他人に口出しするしかなくなる」とか、「そうですよねー」って論点がガンガンに出てきて笑いました。
決してミニマリストを全否定してる話でもないんですけど、「いろいろ捨てて、その先で何がしたいんだ?」って問いかけは、あらゆる活動に共通するところではありますね。
ハウス・オブ・グッチ
グッチ家のお家騒動の果てに起きた殺人事件を、わりとゲスさ満点の演出をしつつ、同時にゴージャス感あふれる絵作りで描き切った珍妙コメディ。ラグジュアリーな「週刊実話」といった趣の映画で、シンプルに実録モノとしておもしろいし、役者がみんな達者なせいで、初めから終わりまでずっと楽しいのがすごいっすね。
Coda コーダ あいのうた
聾唖者の家族に生まれた健聴者の少女が、家族から自立するまでを描く話。というとお涙頂戴になりそうなもんですが、実際には度を越したイジメがあるわけではなく、誰かが死ぬわけでもなく、家庭内に極端な不和が起きるわけでもなく……って感じで穏当な筋運びを貫きつつ、聾唖者が直面する現実と健聴者の無理解をひたすら丁寧に掘り下げていく作りがすばらしいっすね。
そのおかげで共感度がハンパなく、後半3分の1は画面の中で何かが起きるたびにホロホロと泣いておりました。ここまで万人におすすめできる映画も珍しいっすね(下ネタが極端に嫌いな人は別として)。