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能力が低い人ほど自信過剰?なダニング=クルーガー効果が否定されたってマジですか?



 

このようなご質問をいただきました。

 

あるユーチューブで「ダニング・クルーガー効果が否定された」と聞いたのですが、これは本当ですか?どういう話なのでしょうか?

 

とのこと。 ダニング=クルーガー効果っては、1999年に発表された有名な心理現象で、ざっくり言えば、

 

  • ある特定のタスクが苦手な人は、自分が実際よりもはるかに優れていると思い、そのタスクが非常に得意な人は、自分の能力を過小評価する傾向がある

 

といった風になります。例えば、「自分のIQはいくつだと思いますか?」と尋ねられた時に、IQが低い人ほど「俺はIQが高い」と現実よりも上を想像するし、逆にIQが高い人は「オイラのIQなんて……」と実際よりも低めを想像する、みたいな感じです。

 

 

ただし、一部では「頭の悪い人は自分の頭の悪さに気づけない」とか「無知な人は自分に知識がないがゆえにに傲慢で自信がある」といった説明がなされることもありますけど、実際には知性だけじゃなくて、いろんなタスクに当てはまる現象だと考えられております。数ある心理効果のなかでも知名度が高く、ニュース解説とかでもよく使われてますね(陰謀論を信じる人はダニング=クルーガー効果が働いている、みたいな)。

 

 

で、この効果が直近で一番話題になったのは2020年のデータ(R)で、タイトルを直訳すると「ダニング=クルーガー効果は(ほとんど)統計的な人工物である」のようになります。要するに、ダニング=クルーガー効果ってのは実際の心理現象じゃなくて、ただの統計マジックじゃないの?って問題を提起してるわけっすね。

 

 

本論では、「ダニング=クルーガー効果は2つの原因の組み合わせじゃない?」って議論を展開してまして、

 

  1. 優越の錯覚:「自分は平均より優れているぜ!」と思い込んでしまう、誰にでも見られる普遍的なバイアス

  2. 平均への回帰:2つの変数が完全に関連していないときによく見られる統計パターン

 

っていう2つの要素が挙げられておりました。もうちょい説明すると、

 

  • 優越の錯覚:研究によると、大多数の人(95%)は自分のことを実際よりも優れていると判断しており、例えば、一般人に自分のIQを推測してもらってその平均をとると115点になる(平均的なIQは100点だと定義されている)。つまり、私たちは、自分の能力とは関係なく、自分自身を平均より優れていると判断していることになる。

 

  • 平均への回帰:正規分布の中央部には両端よりも多くのデータが集まっており、ランダムサンプリングによってより多くの平均値を見つけることができる。そのため、測定をいくつか行えば、数字はどんどん平均値に近づいていく。

 

のようになります。この2つが組み合わさることで、「特定のタスクが苦手な人は自分のことを実際よりもはるかに優れていると思う」って現象が成立するのではないか、と。

 

 

実際、この研究では、929人からIQテストの点数サンプルを使って、多くのダニング=クルーガー研究で使われているのと同じ手法で分析。さらに、上記の要因をコントロールした後でもダニング=クルーガー効果が維持されるかどうかを確認したところ、実際には誰もが自分の能力を過信しており、通常の統計誤差を考慮したほうが、よりよく説明できることが示されたんですよ。つまり、すごーく簡単にまとめると、

 

  • ダニング=クルーガーのデータって、実は「誰もがちょっとだけ自信過剰」って事実を示しているだけなんじゃない?

 

って感じになるでしょうね。

 

 

ちなみに、ダニング=クルーガー効果への物言いは2017年にも出てまして、こちらは数学の専門誌に掲載されたもの(R)。ここでは、「ダニング=クルーガー効果ってランダムなデータを使っても再現できるんじゃない?」って主張が展開されてまして、コンピューターで作成したデータと、科学リテラシーテストを受けた人という両方のデータを使って分析したところ、

 

  • 専門家はスキルの低い参加者よりも自分のスコアを予測するのがうまく、男性より女性のほうが自分の能力を判断するのがうまい
  • ただし、能力が低い人ほど自分を過大評価し、能力が高い人ほど自分を過大評価する傾向は見られず、専門家と初心者は同じ頻度で自分のスキルを過小評価したり過大評価する

 

って感じだったそうな。やはり人間は同じように自分の能力を間違えるのでは?みたいな結論ですね。

 

 

ということで、ここらへんをふまえて私としては、

 

  • ダニング=クルーガー効果が優越の錯覚だってのは説得力あるなぁ……
  • ダニング博士も昔から一貫して反論はしているけど(R)、ちょっと弱いなぁ……

 

みたいな印象を抱いております。正直、まだ「ダニング=クルーガー効果は間違い!」と言いきれるほどではないと思うんですが、かなり旗色が悪くなってきたのは確かなんですよね。少なくとも、今後の執筆作業では「ダニング=クルーガー効果は確立された法則だ!」って前提で文章を書くことはないだろうなぁ……と。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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