今週末の小ネタ:発酵食品 vs 食物繊維の効果は? 食事から砂糖をすべて取り除いたら? 抗うつ薬はどこまで役立つの?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
発酵食品 vs 食物繊維!腸内環境に良いのはどっちだ?
発酵食品と食物繊維のすばらしさについては死ぬほど書いているわけですが、新しいデータ(R)では「発酵食品と食物繊維はどっちが健康に良いのか?」みたいなとこを調べてくれておりました。
これは36人の参加者を半分にわけたうえで、
- 豆類、種子、全粒粉、ナッツ、野菜、果物を豊富に含む食物繊維の多い食事をする(最低1日に21.5g)
- 発酵食品(ヨーグルト、ケフィア、発酵カッテージチーズ、キムチなどの発酵野菜、野菜塩水飲料、紅茶キノコ)が多い食事をする
って2パターンの食事を続けてもらったんだそうな。実験の期間は10週間で、それからみんなに好きな食事を4週間ほど続けてもらったとのこと。そのうえで、両方の期間で血液と便のサンプルを分析して、腸内環境や免疫反応について調べたんだそうな。
結果、わかったのはこんな感じです。
- 腸内フローラに関しては、食物繊維を多くとったグループでは酵素の機能が高まっていたが、腸内細菌の多様性に変化はなかった。一方、発酵食品をとったグループは、腸内細菌の多様性が増加していた。
- 免疫反応に関しては、食物繊維を多くとったグループではこれといった変化はなく、発酵食品を多くとったグループは炎症マーカーが低下してた。
ということで、この結果だけを見てみると、腸内フローラの多様性を増やしたり、炎症反応を抑えるためには、食物繊維よりも発酵食品のほうがいいのかも?って気がしてきますね。もちろん食物繊維の腸内細菌のパワーアップ作用も大事ではありつつも、やっぱ炎症マーカーの低下効果は欲しいですもんねぇ。
研究チームいわく、
ヨーグルト、ケフィア、発酵カッテージチーズ、キムチなどの発酵野菜、野菜塩水飲料、紅茶キノコなどの食品を食べると、全体の微生物の多様性が増加し、より多くの量を食べることでより強い効果が得られた。
このデータは、短期間での食物繊維摂取量の増加だけでは、微生物叢の多様性を増加させるのに不十分であることを示唆している。
とのこと。まぁ食物繊維も発酵食品もどっちも摂取するのが一番なんですけど、あらためて「いろんな発酵食品を食べよう……」って気分にさせられますね。
食事から砂糖をすべて取り除いた生活を30日間続けたらどうなる?
その昔、スプーン40杯分の砂糖を60日間とり続けた男の映画なんてのがありましたが、You Tubeにも食事から砂糖をすべて取り除いた生活を30日間続けた男の動画が出ておりました。
この動画は、「最近、甘いお菓子ばっか食べてるなー」と気づいた男性が、「砂糖を完全に除去したらどうなるんだろう?」と思いつき、健康や生活全般にどのような影響があるのかをチェックした内容になっております。そこで男性が何に気づいたかは動画を見ていただければと思いますんで、ここではポイントだけ簡単にまとめておくと、こんな感じ。
- 序盤では、いつも買っているものにどれだけの砂糖が含まれているかに気づいてビビる。ヘルシーだと思い込んでいたものにも砂糖が添加されてるし、ラベルを見れば見るほど何も買えなくなってしまう。
- 加糖をやめたあとの副作用は、わりとマッハで現れた。すぐに強い欲求を感じるようになり、エネルギーレベルや仕事への集中力が低下し、頭痛も起こるようになった。これはおそらく、砂糖を食べたあとで分泌ドーパミンのブーストがなくなったのが原因だと思われる。この禁断症状は数週間ぐらい続くとされており、これが最も難しい部分だと思われる。
- 禁断症状をおさえるためには、ケールチップスやサツマイモのフライなど、お気に入りのお菓子の代替品を作ることに目を向けるのがよい。甘いものを食べたくなったときのためにフルーツを買いだめしておくのもよい。自分のおやつの好みを把握するのが大事。
- ようやくポジティブな効果を感じ始めたのはチャレンジの最後の2週間で、健康的な食事によって満腹感が続き、砂糖の欲求をかわせるようになった。それと同時に、エネルギーレベルが上がっていることにも気づきき、一日の終わりに疲れを感じることなく、良いトレーニングができるようにもなった。
ってことで、砂糖を完全にカットした食事は、だいたい2週間も続ければ禁断症状を通り抜けることができるのではないか、と。あくまでサンプル数1のエピソードでしかないわけですが、砂糖の誘惑にお困りの方には勇気づけられるエピソードではないかと。
ちなみに、この動画の男性は「糖質を悪いものとして扱うことは有益ではないと思いますが、本当に重要なのは、日常的に摂取する量を自分でコントロールできるようになることです。私にとっては、この30日間で、そのコントロールを取り戻し、直感を養うことができました」と結論づけてまして、ここはめちゃくちゃ重要なポイントですね。砂糖を敵とみなすんじゃなくて、うまくつきあうための分量が直感的にわかるのが大事なんだよーってことですな。
抗うつ薬はどこまで役立つの?効果が過大評価されすぎじゃない?みたいな話
「抗うつ薬どうなの?」って議論はいまだに続いていて、「まぁ一定の効果はあるんだけど、抗うつ剤の効果って肯定的に持ち上げられすぎじゃない?」って意見も先行研究では結構出てたりするんですよ。
そこで、近ごろキングサウド大学から出た論文(R)では、抗うつ薬はどこまで役立つか問題を議論していて勉強になりました。具体的には、アメリカの医療費支出パネル調査(MEPS)のデータを使ってまして、研究チームは、抗うつ薬を使ったたうつ病の患者さんと使わなかったうつ病の患者さんをくらべて、各自の心身の健康状態の変化を比較したんだそうな。ここで分析されたデータは、うつ病と診断された1700万人以上の成人を対象としてまして、およそ2年間の追跡調査が行われております。
その結果がどんなもんだったかと言いますと、
- 抗うつ薬を使用した人は、使用しなかった人に比べてメンタルのQOLがわずかに向上したと報告したが、その差は統計的に有意ではなかった(つまり、単なる偶然である可能性もある)
- さらに、抗うつ薬を服用している患者さんは、服用していない患者さんに比べて、身体的なQOLがわずかに悪化したと報告したが、こちらも統計学的に有意ではなかった。
だったそうです。いずれも非常に心もとない結果でして、研究チームは、これを「null result」と解釈しておられます。研究チームいわく、
心身の健康状態の変化は、抗うつ薬を使用していない患者と同等であったため、抗うつ薬使用の現実的な効果は、患者の心身の健康状態を長期にわたって改善し続けるわけではない
とのこと。なかなか言い切ってますね。
ただし、当然のことですが、これは決して「抗うつ薬はやめるべきだ!」って結論を支持しているわけじゃないのでご注意ください。抗うつ薬ってのは、重度のうつ病に対してより効果的であることが示されていて、今回の研究でもその点に異論ははさんでおらず、以下のように言っておられます。
うつ病の患者には、やはり抗うつ薬の使用を続けてもらう必要がある。とはいえ、うつ病の長期管理における認知・行動的介入の役割は、これらの患者のケアの最終目標である生活全般の質を向上させる努力の中で、さらに評価される必要がある。
ってことて、もちろん抗うつ薬は重要なんだけど、長期的な幸せを考えれば、認知行動療法、より良い睡眠習慣、より健康的な食事、定期的な運動といった介入を重視しないとまずいよなーって話っすね。