スプーン40杯分の砂糖を60日間とり続けたら人間はどう変わる? 映画「あまくない砂糖の話」
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デイモン・ガモー監督の「あまくない砂糖の話」を見ました。1日スプーン40杯の砂糖をとり続けたら2カ月でヒトの体はどう変わるのか?を検証したオーストラリア産のドキュメンタリー映画であります。いわば「スーパーサイズ・ミー 」の砂糖版ですね。
砂糖たっぷりの健康食品だけをひたすら食べ続けたらどうなる?
実験台になったのは監督自身の体。アイスクリームやケーキといった食品はあえて避け、シリアルや無脂肪ヨーグルトなどの健康そうな商品だけを食べて1日40杯ぶんの砂糖を達成したらしい。これはナイスな選択だと思います。で、60日後の結果は、
- 体重が約9キロ増!
- ウエストが10センチ増!
- 顔が吹き出物だらけに!
- メンタルが激しく悪化!
- 脂肪肝が激増!
みたいな感じだったそうな。監督の変化はトップに貼った写真のとおりです。たった2カ月で、ずいぶんだらしない体になりましたねぇ。
実はオーストラリアの砂糖消費量は減っている
もっとも、本作の科学的な正確さに対しては疑問が残るところです。たとえば根本的なところでは、ここ数年でオーストラリアの肥満率が上がったのは確かなんですが、いっぽうで砂糖の消費量は減ってるんですよ(1)。このグラフだけでも、「砂糖こそ肥満の原因!」って主張には賛成できないなー、と。
実験データでも「砂糖=肥満の原因」って説には否定的な結果が出てまして、具体的には「結局、砂糖は本当に太りやすいのか?問題」で書いたとおり。1日の摂取カロリーが同じだった場合は、いくら砂糖の量を増やそうが体重の増減に違いは出ないとの結論であります。
なかでも決定的なのは1995年の論文(2)で、過去に行われた数百のデータをまとめたメタ分析になっております。つまり、科学的な信頼性はかなり高め。
その結論をざっくり抜き出すと、
脂肪の摂取量は肥満と関係があるが、砂糖の量は肥満とは無関係だ。(中略)いまのところ、砂糖の大量摂取と肥満を結びつける証拠はなにもない。
といった感じ。要するに大事なのは砂糖の量ではなくて、あくまでカロリーの摂取量が問題なんだ、と。
ほかにも、本作では「果糖が肝臓で脂肪になりやすい!」って事実を強調するんですが、それはあくまで全体のカロリーがオーバーしたときの話。摂取カロリーが適切であれば、ヒトの体は糖質を上手く処理してくれるわけですね。つまり監督が太ったのは、単に摂取カロリーが増えたからじゃないんだろうか、と。
加工食品への批判には共感ポイントが多い
そんなわけで、本作が主張する「砂糖=肥満の原因」説には賛成できないものの、いっぽうでは共感ポイントも多かったりします。たとえば「フードトラップ」で有名なマイケル・モスが、「加工食品は人間の脳をかき乱すように設計されている」と語るくだり。これは超常刺激と呼ばれる有名な現象で、いくら健康に良い成分が入っていても、いったん脳が刺激されると過食は止まらなくなっちゃうんですよ。
実験の途中で監督のメンタルが悪化し、つねに空腹に襲われるようになったのも、おそらくは加工食品の食べ過ぎによる脳の興奮が原因じゃないかと思います。そのへんの問題については「食事報酬と肥満 」シリーズに書きましたので、よければご覧くださいませ。
また、本作の中盤で監督が言う「リンゴを丸ごと食べればいいのに、せっかくの食物繊維をジュースにして捨てている」って指摘にも激しく同感。そもそも「フルーツは丸ごと食べれば太らない!というか痩せる!」ってデータのほうが多いのに、砂糖たっぷりのソフトドリンクを飲むと一気に肥満リスクが高くなるんですよね。
ほかにも、加工食品が普及したせいで肥満だらけになったアボリジニーの姿にはドキッとするし、2才から毎日12本のマウンテンデューを飲み続けた少年の歯の映像は無残のひとこと。特殊効果を使って肝臓や脳の働きを解説するシーンもわかりやすく、全体的にエンタメ系ドキュメンタリーとしてのツボをおさえている印象であります。
ちなみに、さりげなくヒュー・ジャックマンやブレントン・スウェイツといった有名俳優が出てきたのもビックリしました。ノーギャラなんでしょうか。
まとめ
いろいろ書いてきましたが、 「スーパーサイズ・ミー 」がそうだったように、科学的な怪しさもエンタメ系ドキュメンタリーの魅力のひとつ。少なくとも健康そうな加工食品への批判としては的を外してませんし、当ブログを読んでいるような方なら得る物も多いかと思います。砂糖の賛成派も反対派も、まずは映画をチェックしてみたうえで、わたしの批判ポイントと照らし合わせてみると楽しいかもしれません。日本では3月に公開予定だそうなんで、いましばらくお待ちください。