金や名誉や物を追い求めると不幸になると言いますが、それってどこまで本当なの?のメタ分析
昔から「外的な目標を追うと不幸になる!」みたいなことを言うわけです。外的な目標ってのは、自分の外側にある対象を追うことで、
- もっと稼ぐぞ!
- 良い家に住むぞ!
- もっと美しくなりたい!
- 名声が欲しい!
- 上の地位につきたい!
みたいなことを意味します。金、物、地位、美とか、その手の目標を追うことでモチベーションを上げるやり方で、このタイプのゴールは不幸のもとだってのは、本当によく聞く話なんですよ。
では、この考え方が正しいのかってことで、オーストラリア・カトリック大学などが良いメタ分析(R)をしてくれておりました。
研究チームは、自己決定理論について調べた4937件の過去研究からスタートして、最終的に質が高めな研究105件をピックアップ。全部で7万人以上の参加者を対象としたサンプルをメタ分析して、「外的な目標」と「内的な目標」のどっちが最後には勝つのかを調べたんだそうな。「内的な目標」ってのは、「もっと成長したい!」とか「この問題を理解したい!」みたいに、内側から出てくるモチベーションのことっすね。
自己決定理論ってのは、人間のモチベーションを考える際によく使われる定番の理論です。この考え方では、人間の理想的なモチベーションってのは、
- 有能さ=自分の能力を高めたい欲求。
- 関係性=周囲との人間関係をうまくやりたい欲求。
- 自律性=自分の行動を自分自身で決めたい欲求。
という3つの欲求が同時に満たされた状態だと考えているんですよ。まさにド定番の考え方でして、この理論の正当性を確かめたデータもかなり多めっすね。でもって、この理論に照らせば「内的な目標は満足度が上がり、外的な目標は満足度が下がるだろう」って予測が出てくるんですよ。まー、そりゃそうですよね。
そこで、分析をしたところ、やはり自己決定論の予測が裏づけられまして、研究チームはこんなことを言っておられます。
どのような人だろうと、人生の外的な目標に焦点を当てることは、幸福の減少と挫折の増加の両方に関連している。
金!物!地位!ってのを追い続ける人は、幸福度が下がってしまうだけでなく、人生のトラブルにくじけちゃうケースも多くなってしまうんだよーって結論ですね。うっすらわかってたことではありますが、これだけのサンプルをもとに言われると納得感ありますな。
このような結論になったのは、外的な目標を追うことで「いつまでも足りない!」って感覚がブーストするからです。
たとえば、あなたがネットで見かけた新しい趣味を始めて、必要なスキルを習得しようとがんばってるとしましょう。この段階では、完璧とはほど遠い作品しかできないものの、自分の新しい側面を開発することができる喜びがモチベーションになり、「周囲にほめられたい!」とか「これで一儲けだ!」って感じにはならないわけです。
が、ここから「趣味をお金にするぞ!」と考えると、「まだ稼ぎがたりないな……」とか「同じ趣味でもっと稼いでる人がいるな……」って方向に意識が向かい、「まだまだ何かが不足している……」と感じちゃうんですよ。最初は夢中で制作に取りかかってたはずが、作品の完成度を上げて量産するほど収入も増えるし、購入者からの賞賛ももっと欲しいしで、「楽しかった」という気持ちよりも「このままでは終われない」という思いが少しずつ強くなっていくんですな。
メタ分析を見てると、この現象は、自分がその活動を楽しめているかどうかとは関係なく発生するそうな。研究チームはいわく、
達成されたとしても、外発的な願望は永久に手の届かないものになる。この欲求不満の原因は、富や名声をさらに得ようとするときに、そのプロセスから生じる。
富や物に対するいわゆる「外発的」欲求(これに関連して名声や美しさも)は、いくらあっても足りないと考えるのが問題だ。
とのこと。 この問題について、研究チームは「幸せとは財布の紐ではなく、心の紐のようだ」と表現しております。チクセントミハイ先生が言うところの、「期待のエスカレーション」ってやつですね。
もちろん、「お金のため!」とか「物を買うぞ!」って気持ちが悪いわけじゃないものの、あくまで短期的なものと考えたほうがよさげ。長期的な人生戦略としてはNGなんで、長い人生をうまくやってくためには、「有能さ」「関係性」「自律性」を満たすような経験を掘り下げることを考えたほうが良さそうであります。