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【質問】「ファンクショナル・トレーニング」ってやる意味ありますか?

 


こんなご質問をいただきました。

 

ファンクショナルトレーニングをどう思われますか? 普通の筋トレよりも身体機能が上がると言う記事を見ました。

 

とのことで、果たしてファンクショナル・トレーニングには、普通のエクササイズよりも「日常で使える体」を作るのに向いているのかって疑問ですね。

 

ファンクショナル・トレーニングは、もともとはケガしたアスリートのリハビリ用に発達したもので、これが2000年代のはじめぐらいにフィットネス界に転用され、「日常の身体能力を高めるのに最適!」みたいに言われるようになったんですよ。このトレーニングにより、階段を上るとか、重いものを持つとか、いつもの生活で使うような体の動きがスムーズになるよーって感じの宣伝がなされたんですな。

 

すると、そのせいで一部から従来の筋トレをディスる動きが出まして、「筋トレは不自然な動きをするから、使える体を鍛えられない!」「筋トレをしてもマッチョになるだけで、動ける体にはなれない!」といった風潮が出てきたからさぁ大変。伝統的な筋トレ界からの反発が起きまして、いまも局所的に火種がくすぶり続けていたりします。トレーニングの神学論争!

 

では、ファンクショナル・トレーニングの効果やいかに?ってことですが、ここでまず問題になるのが、

 

  • ファンクショナル・トレーニングの定義が定まってない!

 

ってポイントです。ファンクショナル・トレーニングってのは、いまんとこ「これが正解!」って方法がなくて、人によっては「いろんな運動を組みあわせるのだ!」って主張もあるし、また別の人は「日常の動作の負荷を高めるのだ!」と言うし、ある人は「体幹を鍛えることこそ至高なのだ!」みたいな見解もあるし……って感じで、わりと言ってることがバラバラなんすよ。当然ながら、定義がバラバラなものはデータで評価できないんで、ファンクショナル・トレーニングの効果も、いまいち白黒つけづらいんですよね。

 

とはいえ、なかには定義をはっきりさせようと頑張ってくれてる先生もいまして、プライア・グランデ・カレッジの先生が行ったレビュー(R)によると、

 

(ファンクショナル・トレーニングは)一般的に、体幹の安定性を重視した、統合された、多関節、非対称、多平面、非周期的、間欠的、スピードのある、不安定な動きを特徴とする。

 

みたいになってます。いろんな筋肉を同時に使って、バランスが悪い場所や、ランダムなペースで行うトレーニングを総称して、ファンクショナル・トレーニングと言ってるんじゃないか、と。確かに、ファンクショナル・トレーニングというと、バランスボールやBOSUを使うケースが多い気がしますな。

 

2021年のレビュー(R)も似たような感じで、「まぁ、身体の協調性、ジャンプ能力、歩行速度、神経筋のコントロールの向上を目的としてるケースが多いけど、やっぱ明確な定義はないよねぇ」ぐらいの結論。まぁ不安定な環境で体幹を鍛えつつ、日常的な動作の負荷を高めたようなエクササイズのことを、なんとなくファンクショナル・トレーニングと呼んでいるイメージですかね。

 

というわけで、結論を言えば、ファンクショナル・トレーニングの効果は判定できないとしか言いようがないんですが、それだとつまらないので、「体幹トレーニング」と「不安定な場所でのエクササイズ」の効果を調べたデータをチェックしときましょう。たいていのファンクショナル・トレーニングは、これら2つの要素をふくむことが多いですからね。

 

 

  • 体幹トレーニングの効果について

    • 体幹トレーニングはフィットネス業界の定番ながら、残念ながら、現時点でそこまで目立った根拠があるわけでもない。 たとえば、ウィーナー・ノイシュタット応用科学大学のレビュー(R)では、「体幹トレーニングの有効性はほぼ検証されておらず、有効と言える証拠はなにもない」との結論。

      というか、「コアの安定性」についても普遍的な定義がなく、ある科学者は、背骨を曲げたり、伸ばしたり、回転させたりする筋肉組織を「体幹」と定義と言ってるし、また別の科学者は肩と骨盤の間にあるすべての筋肉を含めている。

      ただし、複数の文献をチェックしてみると、体の安定ってのは「筋肉の量」と「中枢神経系の活性化」に左右されるので、普通の筋トレをやってたほうが、俗に言う「体幹エクササイズ」よりも体幹が改善する可能性が大きい

 

 

  • 不安定な場所でのエクササイズの効果について
    • バランスボールなどを使った筋トレは、「普通の筋トレより体幹に効く」と言われるが、こちらもいまのところ良い証拠があるわけではない。こちらについては、ニューファンドランド記念大学のメタ分析(R)が有名で、不安定な状況での筋トレは「筋力、パワー、バランスの改善に有効かも?」とは言いつつも、大半のデータは、安定した筋トレで比較すると一貫した結果を出しておらず、特に筋力の向上には不利な可能性もある。

      さらに、2021年のコメニウス大学によるテスト(R)でも、不安定な場所でトレーニングをしたからといって、安定した場所でよりよく運動できるようになるわけではないと結論づけている。まー、不安定な場所でのトレーニングには「特異性の原理」が欠けてるんで、このような結果が出るのは当然という気がしないでもない。

 

 

ってことで、ごく簡単にまとめましたけど、ファンクショナル・トレーニングの重要な要素だと思われる「体幹トレーニング」と「不安定なトレーニング」の2つには、いまのところ手放しでオススメできるポイントがあんまないってのが正直なところです。別にやるなとは言わないものの、普通に筋トレをしてれば良いんじゃないでしょうか。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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